第9話 湖の上をショタと歩く

「ローザ様!これでぼくの力がわかったでしょう!湖に降りましょう!」


「うん。疑ってごめんね。ジャン君ってすごいんだね!」


 ローザはペコッと頭を下げた。


「えっへん!わかればいいんです!」


 えっへん!って……リアルで言う子初めて見たわ。

 素直でかわいいじゃん。

 意外と単純な子なのかも。


 魔法のじゅうたんが湖の真ん中まで飛んでいく。

 広くて大きな湖の真上に来た。


「降りるって、水の上だよ??あたし泳げないし」


 ローザはカナズチだ。

 小学生の頃、水泳の授業はいつもズル休みしていたくらいだ。


「大丈夫です。ぼくの手を握ってください」


「うん……」


 ローザはジャンの手を強く握った。


「水底の神よ。水龍の加護をお与えください!!」


 青白い光にローザたちは包まれた。


 なんだか、身体が軽くなってきた。

 浮かび上がって空へ飛んできそう。


 ジャンは立ち上がって、魔法のじゅうたんから降りた。


 水の上に立っている!!

 すごい……。


「ローザ様、大丈夫ですよ。ゆっくり足を降ろしてください」


「わかった。ジャン君を信じるね」


 ローザは水の上に足を降ろした。


「きゃっ!!」


 人生初の水上歩行で、身体のバランスのとり方がわからず、こけそうになってしまった。


「お嬢様、危ないです!」


 つい5分前に、ローザの執事となった前職「火の精霊」のセバスチャンが転移魔法で身体を支えくれた。


「さすが、セバスチャン。いい仕事ですね」


「ローザ様を全力でお守りするよう、旦那様から仰せつかっている」


 あんた、あたしのお父様と会ったことないじゃん……

 しかも、2人とも仲いいな。


「お嬢様、ご自分で立てますか?」


「うん、ありがとう」

 

 ローザは水の上に立った。

 足に水が触れて、少し冷たかった。

 水の中で、魚がいっぱい泳いでいた。

 白い小さな魚がたくさん自分の足下にいて、月明かりが照らされて、淡く輝いている。

 前世でも異世界でも見たことがない、不思議な場所だった。

 

「あそこまで歩きましょう」


 ジャンが指さした先に、月が水面に映えて明かった。

 そこに、昔、おひとり様の海外旅行で見たような、崩れかけた神殿があった。


「きれいだね」


 自分だけが世界からスポットライトを浴びているような感じ。


「ここでお茶にしましょう」


「でもお茶会の用意なんて……」


「わたしはお嬢様の執事ですよ?お任せください」


 セバスチャンが指を鳴らすと、火の渦が現れた。

 

「お嬢様、わたしにそのリボンをください」


 セバスチャンがローザの頭につけたリボンを指さした。


「え?いやよ??」


「この世は等価交換です。お嬢様のリボンをあの火の中に投げれば、たちまちほしいものが入ります」


「あ、そういうことね……」


 あたしのつけてるものがほしいとか、そういう変な目的かと思った。

 ちょっと自意識過剰で恥ずかしいわ……


 ローザはセバスチャンにリボンを手渡した。

 セバスチャンが火の渦の中にリボンを投げ入れる。

 

 ぶぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんん!!


 煙の中から、出てきたのは……

 いつもお屋敷で使っているバロック風のテーブル、イス、陶磁器のティーセットが出てきた。


「わあ、すごい!いつも使ってるやつだ……」


「ふふ。お嬢様、わたくしを見直しましたか??」


「ちょっとねー」


「残念です。では、月明かりの下でお茶にしましょう」

 

 

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