第2話 メイドのあたしがローザ様を支えなくちゃ!

ローザはジャンを連れてお屋敷へ帰った。


「ああ、ローザ様!心配しておりましたわ!いったいどこへ行ってらしたのですか?」


 メイド長のマリアが玄関まで走ってきた。


「ちょっと散歩に行ってただけよ」

「ローザ様、今日は、その、まさかあんなことになるのとは……」


 マリアは泣きそうになっていた。

 今日のあんなこと――婚約破棄のことだ。

 マリアはローザが幼い頃からずっとそばにいたメイドだ。とにかくローザに忠実に仕えてくれる。身分差を越えて、まるで本物の姉妹のように仲がよかった。


「ところで……その子は?」

「ジャン・ヴァランス君よ。外に一人でいたから保護したの」

「ローザ様!まさか孤児を拾ってきたのですか?」


 マリアはジャンをまじまじと見た。つま先から頭のてっぺんまで舐め回すように。

 

「身なりはそれほど悪くありませんね。商人の子どもかしら?」

「そんなことどうでもいいじゃない。この子をお風呂に入れて着替えさせてちょうだい」


 マリアは怪訝そうな顔をした。

 いったいローサ様は何を考えているのかしら……


「シュトラウス様、ぼくに構わないでください。今夜は庭で寝て、朝早く出て行きますから」

「ローザでいいのよ。それに君を庭で寝かせられない。変な男とか女とかに、襲われたらどうするの?」

 ローザはジャンの銀髪の頭を撫でた。

 わしゃわしゃして、気持ちいい。

 かわいいじゃん……。もっと触ってあげたい。


「はあ……わかりました」

 マリアはジャンの手を取って、お風呂場まで連れて行く。

 そう言えばローザ様は、幼い頃からいろんなもの拾ってきた。

 捨てられた子犬とか、街に迷い込んだサラマンダーとか……

 きっと今夜の婚約破棄のせいで、血迷われたのね。

 たしかにかわいらしい子だけど……


「ジャン君。今夜はお屋敷で寝てもいいけど、朝になったら帰りなさい。ローザ様に見られないように、裏口からこっそりね」

 お風呂場の前で、マリアはジャンにささやいた。


 ローザ様には、子どもに構っている暇はない。

 クラウス伯爵とのご婚約が破棄された今、ローザ様は一刻も早く、次のお相手を見つけないといけない。

 もっとスペックの高い殿方とご婚約して、社交界での評判を取り戻さないと……。

 この世界では生きていけないわ。

 あたしがローザ様を支えなくちゃ!

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