蝶はとても綺麗です
「カミュ」
「マオか」
二人は蝶に導かれ、先程リオンが馬車に乗ったところで合流してしまった。
マオはまだフードで顔を隠していたが、気配でわかった。
何より虹色の蝶が目印だ。
「リオン様が見つけなきゃ無効ですよ」
「今はそれどころではない」
珍しくカミュは流暢に話した。
「リオン様に恐らく何かあった、通信石が使えない。応答しないのだ」
「えっ?」
マオは只ならぬ事態に驚く。
「何でですか、そもそも従者のカミュが何で一緒じゃないのですか」
「俺は港町の捜索を任されたのだ。それに、リオン様は恐らくお前と二人で会いたかったからわざわざ遠いところを探すよう命じたのだ」
「急がないといけませんね。どうするですか、通信石の魔力を辿るですか?」
「必要ない、この蝶はリオン様のものだ。この蝶が案内してくれる」
不思議な虹色蝶。
「こんなのどこで捕まえたのでしょうか」
「使い魔だ。魔力で使役している」
またビックリする。
外遊中にそのような魔法も会得するとは。
蝶は以外と早いスピードで飛んでいく。
二人は振り切られないよう必死だ。
変装で着替えた異国のズボンに慣れず走りづらい。
「シェスタの衣装か」
「そうです、とりあえずそちらに行こうかなと思ってたですよ」
走りながらカミュと色々な事を話した。
「リオン様の事が嫌いなのか?こんな面倒くさい事をして」
「好きですよ。ただ面倒くさい事をしたら嫌ってくれるかなと思ったのです」
嘘だ。
リオンの兄二人は好きな人の為ならどんな事も厭わない。
だからリオンが本気でマオを好きなら、これくらいの事には付き合ってくれると確信していた。
本気で追ってきてくれるか試したかったのだ。
「リオン様はお前のために外遊に行った。それでは不満だったか?」
「僕のため?リオン様はそんな事一言も言ってなかったですよ」
ただ行ってくるとだけ。
「リオン様はお前を守る為の力が欲しかったそうだ。エリック様やティタン様とは違う方法で支えたかったと。この蝶もその為だ」
「探知能力に優れている。詳しくはわからないが魔力で探すわけではないらしい。人は元より物でも魔獣でも探せるらしいが、そういう力を望んだのは、お前の力になりたかったからだそうだ」
「あなたが僕を呼んだベリト伯爵ですね」
向かい側のソファに座るは壮年の男性だ。
見た目は悪くない。
しかし腹の内は相当真っ黒なように思える。
「リー殿と言ったね、私は不思議な物や美しい物が好きなんだ。アンに聞いたが、だいぶ珍しいものをお持ちなのだね」
好機の目と好色な目。
そちらの趣味もあるのかと、吐き気をもよおす。
「こちらの事ですね」
気持ち悪さを抑え、にっこりとした営業スマイルで先程の蝶を部屋に放った。
虹色をした、透けるような薄い羽根をもつ蝶。
とても幻想的な光景だ。
(実践は初めてだったけど、目立ちすぎるなぁ。次は別な生き物の形にしよう)
マオと会うため華やかな方が良いと思ったが、良からぬ者も引き寄せてしまった。
次回はもっと考えなくては。
「何と美しい…リー殿、こちら幾ら出せば譲ってもらえるかな?」
わざと驚いた顔を作る。
「申し訳ございません、こちら売ることはできないのです。僕から離れたら死んでしまいますので」
比喩ではなく本当だ。
魔力の供給を断てば今すぐにでも消えてなくなる。
「門外不出の秘密ということか。ならばこれでどうだ?」
目の前に持ってこられたのは、大量の金貨だ。
「こんなに…」
重そうだなぁという言葉は飲み込んだ。
圧倒されているんだと勘違いしたベリトは気を良くしている。
「これだけあれば平民なら一生暮らせるだろう。その蝶をぜひ譲ってくれないか」
「お断りします。こちらは恋人へのプレゼントなのです」
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