リオンの力
リオンはマオの足取りを追い始めた。
「良かった、これならすぐ追いつける」
マオだけが使っていた物があったのは僥倖だ。
通信石や万年筆まで置いていくとは本気で国を出ていく決意だったのかなと少し落ち込んだが、こんなに痕跡を残してくれたのありがたいと思い直す。
マオの思いが強い物は追跡もしやすい。
ルール上良いと言っていたし心置きなく魔力を使おう。
リオンが外遊していたのは勉強の為もあるが、強くなるためというのが大きい。
兄二人は規格外に強く到底真似出来ないので、リオンは自分なりの強さを求めていたのだ。
幸い他の国に自由に行ける立場であったので、まずは知見を広めようと外遊させて貰った。
国に貢献出来るよう外交にも努めていた。
自分だけに合う何かはないか、それを探すまでは帰れないと決意をしていた。
そこで見つけたのが魔力を用いて自分の手足とする方法だ。
火や水と言った精霊魔法ではなく、魔力を媒介にして使い魔を使役する。
リオンの手から虹色の蝶が生み出される。
マオの残した通信石に止まると、ふわふわと飛び始めた。
追うのは魔力ではなくフェロモンのような物理的匂い。
人間より敏感な触覚が持ち主の匂いを探り、辿っていく。
探知能力として優れているため、マオの仕事に役に立つと習得した。
他にも使い魔はいるが、今のところこれで十分だろう。
時間はまだある。
リオンは蝶の軌跡を辿っていった。
泣きそうになりながら、リオンは歩いていく。
マオが通ったところは、たまたまかもしれないがリオンと共に通った場所ばかりだと気づく。
肝心のマオにはまだ会えてないが、この調子ならそう遠くはないはずだ。
「会いたい、早く会いたいよ」
そもそも昨日会っただけでは足りない。
約2年もまともに会ってないのだ、焦るばかりだ。
だから失念していた。
良からぬ者もいるのだと。
「ねぇお兄さん。あなた素敵な蝶をお持ちね」
呼び止められたその声に、リオンは振り向いた。
見知らぬ女性だ。
「是非その蝶が見たいという方が居るんだけど、一緒に来てくれない?謝礼は弾むわ」
突然の怪しい誘いにリオンは立ち止まる。
蝶はひらひらとリオンの上を舞っていた。
「大丈夫、さる高貴な方よ。怪しくはないから」
促されたのは家紋もついていない黒い馬車。
怪しさしかないが、悪い奴なら捕まえねばならない。
「わかりました、ついて行きます」
蝶がひらひらとどこかへ飛んでいった。
マオのもとへ行くよう指示を出したのだ。
「あっ!」
「大丈夫、まだいますよ」
すっと懐から出したように新たに召喚する。
「あれはご飯を求めて旅立っただけです、満足すれば僕の匂いを辿って戻ってきますから」
こっそりともう一匹も放つ。
こちらはカミュ宛に。
あの蝶を見ればカミュならすぐ気がつくはずだ。
リオンが馬車に乗り込むと直様発車した。
マオのもとへ一匹の蝶がやってきて肩に止まる。
「見たことないですね」
蝶は数回頭上を回るとひらひらと飛び始めた。
「付いてこい、言うですか?」
同じ頃、カミュのもとにもたどり着いていた。
通信石を使わずに蝶が来たということは、通信出来ない状況だと察せられる。
「今行きます…」
「それにしても綺麗な蝶ね、貴方も綺麗だけど」
わざわざ隣に座られ、腕を絡ませられる。
「ありがとうございます、そう褒められたのは初めてですね」
そっと腕を外し、少しでも距離を置く。
「お名前を伺ってもいいかしら?」
「僕はリーです。ところでこれから行くところはどこなのでしょうか?夜に人と待ち合わせもしているのであまり遅いと困るのですが」
「そうだったのですね、後で旦那様に話してみますわ。これから行くところはベリト侯爵のところです」
ベリト…知らない名だ。
貴族を騙る輩なのだろうなとこれ以上聞くのを止めた。
マオが気づいて迎えに来てくれたら良いのだけどと思いを馳せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます