始まったのです

「ゲームは簡単。隠れんぼをします」




テラスに移動をし、マオは説明をする。


「明日の九時からスタートし、二十四時間以内に僕を見つけられたらリオン様の勝ちです。見つけられなければ負けなのです」

口調も戻していた。


「見つけるだけなら優しいルールだね」

捕まえるでなければまだ分はありそうだ。


「それでも諜報活動が主な君を見つけるのは難しそうだ。ひと目でも見ればいいのかな。範囲はどの辺りまでとか細かいルールはあるかい?」

「この国の中ならどこでも。魔法も誰かに聞くのもOKです。ただし、ニコラ兄さんに聞くのだけはダメなのです。それ以外は大丈夫です」


「今君を捕まえてしまうのは?」

「始まってないから無効です」


それを聞き、リオンはマオを抱きしめた。

「無効と言ったですよ」

「無効だからした。ルール違反にはならなそうだったし、もしかしたら僕は君を見つけられないかもしれないから」

その手は震えている。


「一応聞くけど、君は僕が嫌いでこんなゲームをするわけではないよね?」

嫌いならばもう潔く身を引くから教えてほしいと呟かれる。


「嫌いではないです。僕がリオン様に相応しくないと思ってのことです。あとこのゲームは昔エリック様が兄に仕掛けた物です。あの時賭けられたのは僕の命でした」

「あぁそういうのがあったと聞いた事はあるね」


エリックが隠したマオをニコラが見つければ勝ち。


見つけられなければ…

「兄さんは負けました。なので約束の通り僕と兄さんは王家に忠誠を誓いました。結婚というものはそれくらい重いですよね」


リオン相手に契約結婚など出来ない。

血筋的にも溺愛傾向が強いのだから。


「僕としては見つけてほしいですが、手は抜きません」


本気を知りたいのだろう。


そしてリオンがどれだけの実力をつけてきたか、確認したいのだ。


「わかった、全力で頑張るよ」

「よろしくお願いします」





翌朝、朝食を食べたエリックとレナンとニコラは執務室に集まっていた。


エリックは執務を、レナンもお手伝いをしながら通信石の前で待っている。


「好きなら逃げなきゃいいのに」

「女心ですよ、エリック様」


報告を受けた後からエリックは苦虫を潰したような顔になっていた。

レナンは宥めている。


「かなりお膳立てもしたし、クロスが他国へ行くのも見逃した。それなのにマオも他国に行くと?

あそこの領地取り潰しにするかな」


「まぁまぁ落ち着いて下さいな。ここはリオン様が頑張らなければ行けないところですの。マオも自分だけを愛する人がいるということにまだ戸惑っているのですわ」


幼少期、ニコラ以外からの愛情を受けなかったマオは今受けているリオンからの愛情を受け止めきれてないのだ。


「家族とも友情とも違う、自分だけに向けられる愛情って得難いものですから。マオはそれが本当なのかまだ信じきれていないのです。子どもが親にする試し行動に似てますわね」


わざと反対の事を言って愛情を確かめるのだ。


「リオンを見守ってあげましょうね。ニコラも頑張って我慢して頂戴」


「マオ、僕はお前が幸せになれると思って、リオン様なら、絶対に相応しいって思ったのに!」

ニコラは滝のような涙を流して、床を濡らしていた。


今回マオの出したゲームへの不参加を言われたため王宮に待機している。

何を見ても知っても言ってはいけないとされている。


「リオン様なら聡明で見た目も良く、エリック様ほどずる賢くないのに」

「おっ、軽く俺を馬鹿にしたな」


ニコラの文句にエリックは反応した。


「褒め言葉としては光栄だがな。少し余裕がありそうだ、今度北のナ=バークへ偵察へ行って来い。半年くらいで良いぞ」

「嫌ですよ、あそこ寒いですもん。2ヶ月にしてください」

泣きながら抗議するが、けして断らない。


「それで許してやろう」

「ですが、マオの婚約式には出席させてくださいますよね」

「わかってる。婚約式の準備も少し早くするよう父と母にも伝えてきてくれ」


ドレスや宝飾品などは王妃であるエリックの母が既に準備を始めているのだ。


国王である父も祝辞の言葉選びや来賓のリスト作りに浮き浮きしている。


「もしも、もしもですが見つからなければ…」

レナンが心配そうにエリックを見つめる。


「準備の為に使用した金は、第三王子の婚約式の為のものじゃなくなるから、あれらの費用は国庫じゃなく父と母の自腹となるな」

そうではなくて、と珍しくレナンが語気を強める。


「リオン様とマオの事ですよ」

「見つからなければリオンが死ぬだけだ」


さらりと言った言葉にレナンは驚いた。


「おかしいことはあるまい?俺はレナンを、ティタンはミューズを手に入れるため努力した。手に入れられなければ心が死んでいた、それだけ本気だ。その相手に拒絶されたら生きてなどいけない」


厄介な男ですまないなと、エリックも自身に対して呆れた口調だ。


「俺たちの血筋はそんな阿呆の集まりだ。その性質で国が滅びかけたこともあるらしい、たまたま運良く存続してるがな。リオンも大人しそうに見えてその血筋の男だ、死ぬ気で頑張るはずだ」


通信石が光りだす。

話をしているうちに始まりの時間が来たようだ。


「おはようございます、エリック兄様。レナン義姉様」

「おはようリオン、話はわかっている。マオの居場所だろ。見当だけだが良いか?」


エリックはリオンからルールを聞いてこう動くのはわかっていた。


「ありがとうございます、助かります」

エリックとの会話は早い。


思考が似てるから、余計な会話はない。


人に聞くのはいいと言われたため、まずは親しい人間から大体の場所を聞いてみる。


リオンは帰ってきたばかりで、今のマオを知らない。


だから最初はエリックから聞こうと思ったのだ。


「黒髪黒目のマオがいそうな所は貧民街か、港町だ。異国の者が多い。フード等で隠れたとしても人の多い場所、そして周囲に見慣れぬ者がいても目立たない場所だからだ。移動することを考慮して2時間後くらいに連絡を貰えれば助かる。

俺とレナンもたまたま街に行く用事があるからな、いつでも対応しよう」

「…助かります」

「ニコラは探してはいけないと言われてるからな。ここで留守番だ」

後ろでニコラが悲鳴を上げるが気にしない。


「次はティタンだろ。簡潔に話すんだぞ」

「はい!」


通信が途切れた後、大量の書類とニコラを置いて、出かける準備をしようとした。


「目隠ししますんで、耳も塞いでおりますから連れてってください」

「好きにしろ」


エリックは意にも介さぬ声音で応じるくらいだった。







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