探しにいこう(周囲視点)

「というわけで、マオが屋敷を出た」

翌朝ティタンが屋敷の者を皆を集めて説明をする。


通信石も荷物も置いて、早朝ティタンとミューズに挨拶をしてから屋敷を出ていった。

何もかも振り切る、清々しい笑顔だった。


「何でですか?出ていく理由なんて、どこにもないじゃないですか」

チェルシーが泣きながら訴える。


場合によってはマオはもう二度と帰ってこない。


この屋敷どころかこの国に。


「マオの決めたことだ。俺たちがどうこう言うものではない」

ティタンは堂々と言った。


寂しくないわけではないが、マオの意思を尊重する。


「だが皆の気持ちもわかる。だから、今日は休日としよう」

ティタンはそう言うとちらりと外を見る。


「外出するのにいい天気だな。探している黒髪黒目の猫もどこかにいるかもしれないな」


暗にマオの捜索を言っている。


「強制ではない、有志だけだ。リオンが見つけなければ意味がない。見かけた時は情報だけくれ、手を出してはいけない」


それだけ言うとティタンはミューズを伴い、自室へと向かう。


「見つかるといいのだけど」

「一般のあいつらに見つかるわけがない、何年も王家の諜報活動をしているマオがそう易易と見つかるものではないからな」

隣にいても気づかれないくらいマオは周囲に溶け込むことが出来る。


「だが何もしないのも落ち着かないだろうし、こちらも集中出来ない。悪いが追い払った」

「そうだったのね」


自室にて通信石をテーブルに置いてソファに座る。


「兄上からこうではないかと昨日リオンの考えを伝えられた。まずはマオの居場所を俺らに聞いて、その後自分の考えた場所と一致するか、慎重に考えるはずだ」


アドガルムも広い。間違えればタイムロスだ。


「ミューズはどこだと思う?」

「王宮かしら、あとは灯台下暗しでこちらの屋敷に戻ってくるかもしれないけど…もしかしたら一箇所にはいないかもって思ったわ」

「ウロウロしてるって事か?」

「もしもこの国にいるのが最後の日なら、思い出の場所を巡るかも。私ならティタンとデートした場所とか」


女性らしい意見だ。

ティタンは隠れることばかりを考えていた。 


「それもありそうだな」




次兄のティタンからも情報をもらい、リオンは自国の地図を睨みつけていた。


マオは見つけて欲しいと願っていた。


見つけられなかったら?

見つからなかったら?


手も足も震える。



「命じてください、リオン様」

後ろに控えていた従者のカミュが声を掛けた。

リオンの痛々しい様子に黙っていられなかったのだろう。


黒髪を目の下まで伸ばしており、気配を消して仕えている。


王家の影と呼ばれる内の一人だった。


王家の影は隠密に動く部隊だ。

ニコラやマオみたいな諜報活動を得意としている。


本来影は自ら話しかけない。

従者となってからもカミュは発言を極力控えていた。


「少し待て…今情報を整理する」

カミュが話しかけたことで震える手は止まった。

矜持を取り戻したのだろう。


「貧民街はマオがいたところで、隠れるところはいっぱいだ。しかしそこに居るとは思えない」


マオはリオンが貧民街に行くことを良しとしてなかった。


戦う術をあまり持たないリオンに行かせたくないと常々言っていた場所なので、

マオがわざわざそこに隠れるとは思えない。


「王宮は微妙だな。入るまでは結界があるが、入ってから認識阻害をかけられたら見つけるのは難しい。すでに魔力の痕跡も断っているし」


魔道具に昔マオから貰った手紙を置いてマオの魔力を辿ったが、ティタンの屋敷からしか反応がない。


痕跡を辿ると考えて大量の私物を置いていったのだろう。


「港町は怪しいか。ここは回る価値がある。明日の船に乗ろうとしてチケットを購入しているかもしれないしな」


一箇所は決まった。


「見つけてほしいなら、僕が知っている場所だよな」

様々な記憶を思い出していく。

一つ一つ辿るには多過ぎる。


マオについての記憶なら忘れるわけはなかったからだ。


「カミュに港町の捜索をお願いしてもいいかい?僕は思い出の場所をしらみ潰しに探したいから」

「しかし離れるわけには…」


リオンの身の安全が心配だ。


「大丈夫、僕だっていつまでも子どもじゃない。昔よりは強くなったよ」


ニコリと笑った。


「マオにも教えないとなぁ、もう昔の僕じゃないって」


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