婚約者候補を考えるです

「凄く綺麗だわ、可愛い」

「いや、ミューズ様に言われるとその言葉も霞むのですが」


自分より遥かに綺麗な女性に言われても素直に受け止められない。


ティタンも手放しで褒めてくれる。

「確かにとても可愛いが、何だか娘を嫁にやる気分で複雑だ」

「僕のほうが保護者のようなものでしたが?何回尻拭いさせられたと思ってるですか」

そこだけは譲れない。


情報収集と政敵、外敵処理。

汚れ仕事を引き受けてきた。

時には内密にひっそりと。




「傷跡、目立つわね」

ミューズが気遣うように触れる。


「ある程度は仕方ないです。契約結婚するつもりだし、これくらいで引くならば元からいらないのです」

ミューズに他意がないのはわかっているから触れられても気にしない。


ドレスの端から幾つか傷はのぞいているが

昔からありすぎてあまり気にしてはいない。


「婚約者候補として、ある程度目星はついてるのか?」

「ボルドー子爵家のトーリ様や、ラウル伯爵家のセオドア様など良いかと思ったですが」

「トーリ殿は以前婚約解消をしていたな、瑕疵があるんじゃないか?」

「契約結婚で初婚は可哀想です。瑕疵があるくらいで丁度良いです」


幼なじみとの婚約を、君と共に過ごすビジョンが見えないと言って解消した男性だ。


ティタンは口を尖らせる。


「悪い男ではないらしいが、気遣いがちょっとな。それにマオにはぜひ幸せな結婚をしてほしい」


大事な家族だからとティタンは言う。


「俺が認めた男でないと許可しない」

「…ただでさえ条件が厳しいのに条件を増やさないで欲しいです」


あっさりとそれは無視をされた。

続く言葉は更に無理難題だ。


「まず俺より強い男で」

「ティタン様より強いなんて、シグルド様しかいませんが?」


ティタンは王太子の護衛をしてた男だ。

今だって外交の際は呼ばれる事も多い。


素体の強さに加え、魔力を身体強化と防御術に特化させたティタンは素手でも強い。


幼い頃から剣聖と呼ばれたシグルドを師事しており、剣の腕も見込まれていた。


ちなみにシグルドはミューズの祖父。


そのシグルドは辺境伯として今も現役で国境を守っている。魔獣退治も自ら赴く程の人物だ。


「あとは俺くらいの経済力と権力を持つ者で」

「まだありますか?!」

しかも元王位継承者くらいの地位の者なんてそういないのでは?


ティタンも別に地頭がそこまで悪いわけではない。

国王に向かないってだけで、それなりの教育は受けているので領主としては申し分ない。

なので経済力も権力も並の男よりは断然上だ。


「そんな猛者はエリック様ぐらいしかいませんよ。あとは他国の者とか」

「他国は駄目だ。自国にしろ」

裏切りの懸念もある。

出来るだけ自国の者がいいとティタンは言った。


「全く無茶ばかり言うです。そんな条件の人いるわけないです」

「いや、ピッタリの者はいるのだがなぁ」


ティタンの呟きに、マオはピクリと眉を動かした。


「では政略でいいので紹介してください。その人でいいです」

「本人からまだ言わないでと言われてるから駄目だ。自分で気づいてくれ」

ミューズも困ったように微笑んでいる。


「ミューズ様も知ってるですか」

「ごめんなさい、どうしても言えないの。とても良い人なのよ」


マオだけに内緒にされてるのは腑に落ちなかった。




「ちなみにチェルシーは知ってるですか?」

こっそりと聞いてみる。

「私も知りませんが、お二人がお似合いというならきっととても良い人なのでしょうね」

チェルシーも気にはなってるものの教えて貰えないらしい。


「伯爵家の跡取りとして相応しい人」

それだけならまだ候補は何人か浮かぶ。しかしティタンより強く、経済力もあるもの。

「やっぱりエリック様しか思い浮かばないのです」

絶対にない相手だ。



今日も髪と肌を磨いてもらっていると、コンコンと音がする。

声からするとミューズのようだ。


「お邪魔するわね、ちょっとマオに用事があるの」

「どうしたですか?」


今のマオはほぼ衣類を身に着けていない。

あちこちの傷がはっきりと見える。


「ちょっとだけ…お節介でごめんね」

「はっ?」


マオの胸に手を置くー明確には心臓の位置。


「いっ?!」

身体が熱くなり、心臓がドクドクする。


無理矢理活性化されてるようだ。

その後温かなものが体中を巡っていく。


マオの体の傷が消えていた。


「これはここだけの秘密ね、ティタンにも言っては駄目よ」

「ミューズ様、まさか命削ったですか?」


ミューズの回復魔法は確かに凄い。

しかし、十年以上前の古傷を完璧に治すのは相当難しいのだ。


流れ込んできた魔力量から推し量ると相当無理をしている。

「少しだけよ、その方があなたの負担も少ないから。勝手にしたかっただけだから気にしないで」


気になるに決まってる仕える人が自分の為に命を削るなんてあっていい話じゃない。


しかし終わったことだどうしようもない。

「何とお返ししたらいいか…」

ティタンにも悪い。


あの主君は事情をしれば怒ったりはしないだろうが、それでも罪悪感を持ってしまう。


「お返しして欲しいことは決まってるの」

はにかんだ笑顔で伝えられる。


「私もマオのドレス選びをさせて!」



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