第21話 毒殺犯との戦い

「レイナ、ちょっといいか」


 俺は、後ろにいるレイナに小さな声で指示をだす。コクりと頷くレイナ。


 青い月明かりに浮かぶマリアの余裕の笑み。俺とレイナを見下ろしている視線に、今まで感じた事のない恐怖を感じた。


 でも、戦うって決めた。俺とレイナに屋根付きの部屋をくれたお館様を見殺しにするなんてできない。


 さて、どうする。


 先ほどの横蹴りは痛かった。七歳の俺があんなのを何発も食らったら普通に死んでしまう。


 マリアがゆらりと動く。俺も行くっきゃない!


 俺はマリアの足元目掛けてタックルをした。華奢に見えるマリアだが、暗殺者として鍛えているのか、子供のタックルではピクリともしない。



 ガハッ!



 タックルした態勢の俺の背中に、鉄爪が深々と突き刺さり、毒手から大量に毒が流れ込んでくるのが分かる。



 グフォッ!



 そして強烈な膝蹴りが顔面に当たり意識が飛びそうになる。ここで気を失ったら駄目だ。


 意識を保つ事に集中するが、幼い体は床に膝を付き、倒れ伏してしまった。



「フフフ、お兄ちゃんも倒れちゃったね。流石にお兄ちゃんも死んだでしょ。レイナちゃんも、お兄ちゃんの所に連れて行ってあげるわ」



 倒れた俺の脇をゆっくりと歩き去るマリア。



「ぷ、ぷ、ぷちウォーターーぁぁぁ」



 水鉄砲の様な勢いで水を浴びせかけるレイナ。



「へぇ〜、本当に魔法が使えるんだ」


「ぷちウォーターぁぁぁ」


「アハハハ、可愛い抵抗ね。その歳で魔法が使えるレイナちゃんには、本当に感心するわ。でも、そんな水鉄砲じゃ虫も落とせないわよ」


「ぷちウォーター! ぷちウォーター! ぷちウォーター!」


 マリアがレイナの前まで行くと、凶悪な右手を振り上げる。



「逃げて、レイナッ!」



 マリアの横腹に体当たりしたのはアリシア様だった。家無し子のレイナを助けるために侯爵家のお姫様が身を挺してくれた。



「な、何であなたが生きてるの!?」



 毒手の猛毒で殺したと思い込んでいたアリシア様からの体当たりで動揺するマリア。俺の解毒によって毒耐性が継続しているアリシア様に、毒手の毒は効いていない。


 だがアリシア様のタックルでは少しよろめく程度だった。それでも、それで十分だ。ありがとう、アリシア様。



「生きているのは、アリシア様だけじゃないぜッ!」



 俺は銀のナイフを抜き、マリアの横腹にナイフを突き刺す。



「グッ。ハ、ハルト、な、何で――――」


「アリシア様、離れろ!」


 

 俺の声で、アリシア様がマリアから離れる。



「何で生きて――――」


「ぷちサンダー!」


「……ギャアアアアアアァァァ」


「ぷちサンダー! ぷちサンダー! ぷちサンダー!」


「ギャアアアアアアアアアアアアァァァ!」



 俺はレイナに、ぷちウォーターを出しまくれと指示を出していた。


 濡れた体は電気を通しやすい。元々、人間は体表が大きな電気抵抗を持っているが、水で濡れる事でかなり下がる。 


 更に脇腹に刺した銀のナイフ。銀は金属の中で最も電気を通しやすい。それが体内の血を通して、体中に電気を流す。


 ぷちサンダーとはいえ、何発もくらえば、いかにプロの暗殺者といえども耐えられない。



「ぷちサンダァァァァァーッ!!」



 ついには暗殺者マリアは意識を失い崩れ落ちた。


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