第19話 毒ガスとファーストキス
その夜。俺の絶対毒耐性が反応して、俺は目を覚ました。部屋には毒ガスが満ちている。
「マリアさん、あなたなのか……」
あの後も、警備の人達がマリアさんを探したけれど、結局マリアさんの姿は見つからなかった。マリアさんが毒殺犯である可能性が高まっている。
そして今だ。
部屋に満ちている毒レベルは3。
即死はないが毒ガスを吸い続ければ体が動かなくなり、やがて死に至らしめるレベルだ。
「お兄ちゃん……」
「大丈夫、レイナは俺が守るからな」
毒ガスに気が付き目を覚ました俺は、すぐにマウストゥマウスで、俺の免疫をレイナに移し解毒をした。俺の体液は解毒効果があり、解毒後に一定時間の毒耐性を持つ。
毒ガスは、多分お屋敷のなか全体に充満していると思われる。この間にお屋敷から抜け出せばレイナは守れるのだが……。
「いいよ、お兄ちゃん。お館様を助けに行こう!」
本当にレイナは出来た子だ。
「よし、先ずはアリシア様だな」
俺の毒解析スキルで分かっ事だが、この毒ガスは空気より軽い。毒レベル3なら一階の人達は死ぬレベルの濃度にはならない。二階には俺たち以外の人も寝室があるが、今はお館様たちが優先だ。
何しろ軽い毒ガスが溜まる三階がヤバい。お館様と奥方様にアリシア様の寝室は三階にある。今夜、お屋敷に宿泊している伯爵様達も三階に泊まっている。
三階への階段を上がってすぐの所にアリシア様の部屋がある。階段の踊り場を過ぎたあたりから、毒ガスの濃度が上がり始めた。
毒レベル4。濃度を増した毒ガスはレベルが上がっていた。
急がないと不味いな。
◆
「アリシア様!」
月明かりの青い光にアリシア様が眠るベッドが照らされていた。毒に侵されているアリシア様は動く気配がない。
ベッドの傍らに立ちアリシア様の顔を伺う。毒に侵された青白い顔は、とても苦しそうだ。
俺はレイナにした時と同じように、アリシア様の頭を軽く持ち上げ、気道を確保する。
アリシア様の鼻を軽くつまみ、口をおおうように俺の口を密着させる。
解毒開始だ。
アリシア様の肺から俺は毒ガスを吸い上げ、俺の肺で毒を取り除き、綺麗になった空気をゆっくりと吹き入れる。それを何度か繰り返した。
「お兄ちゃん、アリシア様のお顔が良くなってきたよ」
レイナを横目で見るとレイナはニカっと微笑んだ。俺も微笑み返す。
「……ん」
アリシア様が覚醒を始めた。最後に解毒効果が高い俺の免疫を移すために、アリシア様の小さな舌に俺の舌を絡める。
「ん、あ、ん……んんんんんんっ!?」
「お兄ちゃん、アリシア様が起きたよ」
よし。はへ?
ドンッと俺はアリシア様に突き飛ばされ、ベッドの端から床に転げ落ちた。
「な、な、何をしてるのッッッ!!」
「お兄ちゃんはアリシア様の毒を取ってたんですよぉ。アリシア様のお顔の色が、いつものお顔に戻りましたぁ」
「えっ、えっ? 毒?」
アリシア様の絶対味覚が部屋の空気の違和感に気が付き、すぐに手で口を抑えた。
「
「く、口移し……キス、……ファーストキス」
アリシア様が赤い顔になる。九歳とはいえ、男の人とのキスは恥ずかしいらしいが、キスではない。人口呼吸だ!
それよりもお館様だ! 俺は立ち上がり駆け足で、部屋の扉までいく。
「レイナはアリシア様とここにいてくれ」
扉を出て廊下に出る。隣の部屋は王都に行っているアリシア様のお兄様、ウィルヘルム様の部屋だ。その奥がお館様と奥方様の寝室になる。
ん?
後ろから音が聞こえ振り向けば、アリシアとレイナが走りながら着いてきていた。お館様が心配なアリシア様、俺と離れたくないレイナ。しかないなと思い、3人揃ってお館様の部屋の扉を開けた。
◆
薄暗いお館様と奥方様の寝室。アリシア様の部屋と同じように青い光の月明かりが差し込んでいる部屋は、廊下と同じく毒ガスが充満している。
違うのは人影がある事。黒いシルエットはメイド服だ。
「マリアさん……」
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