第17話 倒れた理由は
「ハルトでも分からない毒があるって事?」
「多分、それは無いと思います」
スキルってのはチートだ。それに抜け穴が有るとしたら、レベル的な概念って事になるけど、俺のスキルにレベル的な概念はない。
「毒じゃないのに、倒れるなんて事があるのかしら」
首を傾げるアリシア様。
「例えばアレルギーとかなら個人差があるからショックで倒れる事もあるかもしれません。でも毒耐性を持つダールさんが食べ物アレルギーで倒れるとは考えにくいですね」
食べ物によってアナフィラキシーショックで死に至らしめるケースがある。でも倒れたのは毒見役にしてペテランのダールさんだ。食べ物のアレルギーは理解して……あっ!
俺がダールさんと一緒に仕入れたものを確認した時には見なかった食べ物が一つだけあった。
「この食べ物って南国系のドライフルーツですか?」
ポテトチップスみたいなドライフルーツを俺は手にした。その問いに答えてくれたのはエルニスさんだった。
「そうよ。以前にマリアさんが食べていたのを少し貰った事があるの。南方のドリリーアという果物を乾燥させたお菓子って言ってたわね。それがどうかしたの?」
「南国のフルーツにはアレルギーを起こす物があるんだ」
いわゆるラテックス・フルーツ症候群ってやつだ。バナナやアボカドなんかでも
「ダールさんは、それを沢山食べたんじゃないかな」
ダールさんの体調次第だけど、食べなれない物を過剰摂取すれば、体が拒否反応をおこす可能性はある。
「いや、ダールは四、五枚食べただけだぞ」
答えたのはコック長のマルクスさん。
「う〜ん、それぐらいの量じゃ、毒耐性を持っているダールさんが倒れる事はないか……」
「食事とは別の原因だったんじゃないのか?」
マルクスさんの言う事に頷きたくなる。
「そういえば、ワインじゃなくて、今日はビールなんですね」
お屋敷でビールが出るのを俺は初めて見た。
「ああ。ダージリン様が急にビールを所望したから、今夜はビールになったんだ」
ふ〜ん……。
「その後にマリアが、このドライフルーツがビールとよく合うって持って来たんだよ。ダールもその時に試食し、問題はなかった」
マリアさんが?
「ダールさんが吐いた汚物っまだ残ってる?」
「ええ、まだ有るけど……」
「ハルト、あなたまさか!?」
「おい、本気か!?」
驚く三人を見ながら俺は人差し指をペロりとなめた。調べるっきゃないっしょ。
◆
「やはり、毒は入ってませんね」
ダールさんが吐いた汚物や拭き取った雑巾が入った桶に、人差し指を入れて、指をなめてみる。
って皆さん、そんなに嫌そうな顔をしないでよ!
「ねえ、ダールさんはどんな感じで泡を吹いたの?」
ダールさんと一緒にいたマルクスさんが説明をしてくれた。
検食に来たダールさんは最初にビール、コップ一杯を飲み干し、おつまみにドライフルーツをポリポリと食べていたとの事。
そして検食を始めて、食べ終わりそうな時に、急に大量の泡を吐いて倒れたとの事だった。
「泡か……」
何か現代の記憶に引っかかるものがある。
「泡、泡、泡……。ビールは炭酸……。炭酸といえば……」
現代の記憶を呼び覚ます。炭酸を考えていたら、急にコーラが飲みたくなった。
「コーラが飲みたいなぁ」
「コーラ?」
アリシア様が首を傾げた。
「あ、いや、こちらの話です」
コーラか。そういえば動画配信で……。
「メントスコーラだッ!」
大量に泡が発生して毒ではない組み合わせ。これなら毒見役を誤魔化す事が可能だ。
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