第4話 就職試験―1
お屋敷の裏門から、裏庭に通された就職希望者たち。門を潜る前にも数名が諦めて帰っていき、中に入ったのは20人程度だった。
「今からニつのパンを食べて、うまい方を選んでほしい」
コック長のおじさんがそう言うと、メイドのお姉さんニ人が、籠に入っている丸いパンと細長いパンを配ってまわる。
俺も1つずつパンを貰い、匂いを嗅いでみる。どちらも良い香りがするが、なるほど。こっちのパンに毒が入っているのか。
見ればレイナが俺とパンを見比べている。俺は毒の入っていないパンをレイナに渡し、俺は毒が少し入っているパンを食べた。俺の毒解析スキルでは毒レベル1と判定している。
「丸いパンが美味かったと思ったら右、長いパンが美味かったと思ったら左に分かれてくれ」
コック長が指示をだす。俺はレイナが食べた丸いパンの右側にいく。俺に声をかけてきた髭まみれの厳ついオッサンと、ふくよかなお姉さんも同じ右側にきていた。
「ふん、坊主もこっちに来たか」
厳ついオッサンはニヤリと笑う。この人も毒が分かったのか。
「あれ? 向こうの方が人が多いよ?」
「美味いのはあっちのパンでしたからね」
ふくよかなお姉さんが俺の脇にきて、左側の人たちを見ている。
「え、あっちの方が美味しいの?」
俺は味見もしないでレイナにあげてしまった。ヤバいぞ、コック長は
やっちまったッ!
「よし、分かれたな。左側が正解だ」
だよねぇぇぇぇぇ。
左側の人達はガッツポーズをしたりして喜んでいる。
「左側のヤツラは帰っていいぞ」
えっ?
左側の人達も、不思議な顔でコック長を見ている。
「お前らが食べたのは毒入りのパンだ。お前らは全員死んだ。だから雇えない」
なるほど! コック長の言っている事は確かにそうだ。これが悪意ある毒なら彼らは全員が死んでいる。
「ふざけんなッ!」「騙したなッ!」「汚えぞ、テメェ!」
などなど、子爵家で働こうって人間にしては、気性が荒い人達も混ざっている。
「うっせえッ! 俺もそうやれって言われたから、やってんだ! いいからとっとと帰れッ!」
コック長も負けじと気が荒い。
「だいぶ騒がしいですね。当家はただ今、大切なお客様をお迎えしておりますので、お静かにお願いします」
そう言って現れたのは、ザ・執事的な紳士なお爺さんだ。
「わたくしから説明いたしましょう。毒味役というお仕事は常に死ととなり合わせのお仕事です。勤めて三日でお亡くなりになる方もいらっしゃいます」
どんだけヤバいんだよ、子爵家!
「あなた方は当家に何をしにきたのですかな? 美味しいパンを食べにきたのですかな? 美味しいものを、美味しい、美味しいと食べていては毒味役は務まりません。ご理解いただけましたかな」
執事さんの言う事に、ぐうの音も出ないようで、左側にいた人達は渋々とした顔で帰っていった。
「やれやれですね。では次の試験を……子供?」
左側の人達が立ち去るのを見送った執事さんが振り向くと俺と目があった。
「本当だっ! 何でガキが混ざってんだ! おい坊主、ここは子供の遊び場じゃねえ! 帰れ、この野郎!」
「ドゴールさん、大きな声は控えて下さい。お客様はもうお見えになっているのですよ」
「す、すいやせん」
威勢のよいコック長も、執事さんには頭が上がらないみたいだ。その執事さんは俺を見ては、ヤレヤレとした顔で首を横にふった。
「坊や、ドゴールさんが言うことはもっともです。これは危険なお仕事なのですよ。お帰りなさい」
執事さんやコック長の言っている事は分かる。しかし、俺はレイナの泣き顔はもう見たくないんだ。
毒見役は三食の食事やおやつなどで、毒が入っていないかを確かめる仕事だ。毒を食べれば死ぬ事もある。しかし、毒絶対耐性を持つ俺なら死ぬ事はない。それを言えば――――。
「し、執事さん、俺の話しを聞いてくれ、俺は――――」
「おっと、ドゴールさん、あまりゆっくりはしていられません。お客様の昼食の準備があるのでした」
「し、しかし、このガキは?」
「二次試験を通らなければ問題は御座いません。試験を続けて下さい」
俺がスキルの事を語る前に、二次試験が始まる事になった。まあいいさ、要は試験に合格すればいいだけの話だ。
二次試験に残ったのは、俺を入れて七人。長いテーブルが裏庭に置かれ、テーブルの上には形の異なるパンが十個、それらが七組に分かれて置かれた。
「二次試験を始める。その十個のパンの中から毒の入っていないパンを選んでくれ。正解した者を採用とする」
楽勝だな、と思い十個のパンを千切っては口に放り投げた。
あれ? あれ? あれれ?
マジか?
十個のパン全てに毒が入っている?
どういう事だ?
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