第3話 天職
「ほら、温かいスープとパンだよ。肉は今から焼くから待ってな」
俺とレイナはお店に入ると、濡れた服を脱がされ、今は温かい毛布にくるまり、テーブルの椅子に座っている。
テーブルの上に置かれた二つのスープ皿。中には黄色いカボチャのスープがあり、甘い香りを漂わせている。
「お兄ちゃん? 泣いてるの?」
あ、あれ?
「な、泣いてないよ。さあ、温かいうちに食べようぜ」
「うん!」
適度な温度のカボチャのスープを口に含んだ。優しく、温かな味、そして少しだけしょっぱい味がした。
クソッ、泣くなよ俺。せっかくのご馳走が塩味になっちゃうじゃないか。
この異世界に転生して初めて人に親切にして貰えた。頼る大人も、頼れる大人もいなかった。
いかん、いかん! 食べるぞッ!
「お兄ちゃん、やっぱり泣いてるよ」
そう言ったレイナはいつもの明るい笑顔を取り戻していた。
温かい毛布、温かい食事、温かい家。前世ではあたり前だった暮らしを思いだした。このままじゃ駄目だ。もうレイナを泣かせたくない!
「おばさん! お願いがあるんだ!」
◆
「あの店でよかったのかい? あんたに助けて貰ったのはあたしの方なんだから、ちゃんとした洋服屋でもよかったんだよ」
翌日には雨があがり、俺たちはお店のおばさんと街の古着屋に行ってきた。昨夜はおばさんが泊めてくれて、柔らかいベッドでレイナと二人で、温かい毛布にくるまって寝た。
昨夜、「お兄ちゃん、毛布って温かいね」と言って寝付いた、レイナの幸せそうな寝顔を、俺は一生忘れられないかもしれない。
「うん、大丈夫。ありがとうおばさん。レイナの服まで買って貰っちゃってすみません」
「いいんだよ。それにレイナちゃん、凄く可愛いじゃないか。それにあんたもね」
昨夜はおばさんが温かいお湯で、俺とレイナを綺麗に拭ってくれた。俺もレイナも今まで小汚い服に小汚い面構えだった。
しかし、今は顔も、髪も、身なりも綺麗になると、まさに馬子にも衣装。中身が家無し子には見えないだろう。
「それじゃ、おばさん、行ってくるよ」
「はぁ、そんな仕事……、あたしは反対だけどね」
「大丈夫! 残飯食って鍛えた胃袋があるからね!」
俺はお腹をポンと叩いておばさんと別れた。目指すは就職試験会場だ。
◆
街で見かけた求人情報。俺には天職か! ってぐらいに、俺向きの仕事だった。しかし、働き先がヤバい場所で、身なりが汚い俺は門前払いが確定だった。あの時は。
「で、でかいな」
「お兄ちゃん、ここに入るの?」
レイナが不安な顔で俺の腕にしがみついた。
「あ、ああ、お兄ちゃんはレイナのためにも頑張るよ」
「が、頑張って、お兄ちゃん!」
この街を治めるドリアード子爵家。俺とレイナは子爵様の館の裏門にきていた。その大きな裏門の前には試験を受けにきた人がたくさんいる。しかし、着ている服は皆がみすぼらしい。俺やレイナが良い所のお坊っちゃん、お嬢ちゃんに見えるぐらいだ。
この仕事事態はただ食べるだけの簡単な仕事だ。だからだろう、食うにも困る人達が集まった。そんな感じだ。
「おい、ガキ! 冷やかしで来てんじゃねぇぞ!」
「坊や、ここは危ないお仕事なのよ」
髭まみれの厳ついオッサンは俺を厄介払いし、ふくよかなお姉さんは俺を諭すように話しかけてきた。
大丈夫さ。ここの仕事は俺の天職だからな。
そうこうしてると大きな門が開き、恰幅の良いオッサンが出てきた。白いコックコートを着て、コック帽をかぶっている。
「俺はコック長のドゴールだ。今から試験を始めるが、最初に言っておく。この仕事は三ヶ月に一人、人が死んでいる。その覚悟がない者は今すぐ帰ってくれ」
子爵様はどんだけ命を狙われているんだよ。コック長の言葉を聞いて、青ざめて帰る者も何人かいる。
「お、お兄ちゃん、やっぱり帰ろうよ」
「俺は大丈夫だよ」
怖がるレイナの頭を俺は笑顔で撫でた。
「よし、今から
本当にこれは天職だよな。
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