ブランド
エナツユーキ
第1話
僕は、オシャレになど毛頭興味がなかった。
服は、着れればいい。靴は、履ければいい。
こだわりなど、何もない。
全身ユ○クロで揃うような一般的なコーデ。
そんな、僕だった。
とある日、人数合わせのために合コンに参加をした。特別楽しみでもなく、適当に時間を潰せば良いかという考えで会場まで向かう。
——と、会場に着くと女性陣が陽キャっぽい人三名、明らかに陰キャっぽい人一名。我々男性陣と、もはや同じ構成になっていた。
異様な空気で始まった合コンであったが、話し始めると意外と会話が弾み隠キャである僕でも楽しく過ごすことができた。
思いの外、話が合ったのは陽キャ組のうちの一人。全身しっかりとしたブランド物で揃え、異彩な輝きをもっていた子であった。
その時僕は、
「ハイブランドの服を着ると、あのような輝きを待つことができるのだろうか?」
と、感じた。
全身ブランド物で揃えていた彼女の名前は、ユキと言うらしい。ノリで連絡先も交換した。家に帰ってからも、こまめに連絡をくれた。男としての本能なのか、会話が続けば続くほどユキをどうしても異性として見始めてしまう。
試しに、彼氏はいるのかどうか聞いてみる。
答えはNoであった。
余計に意識をしてしまう。
徐々に、初々しい気持ちをいだきはじめていた。
連絡をやりとりしているうちに、より親しくなりデートに行くことになった。
さすがに全身ハイブランドを身に纏う彼女と、冴えない格好の男では釣り合わないと僕は考えた。
だから、都会の百貨店やセレクトショップにとりあえず足を運んでみることにした。
予算は、四万円。
しかし、どこをみても買える値段のものがない。パーカーやトレーナーが五万円。ズボンや靴も六万円以上。
自分には手の届かないものばかりであった。
しかし、何かしらの華を持たせたくもあった僕は大分背伸びをして、店にある白いマネキンが着ている高級なトレーナーとズボンを購入することにした。
その服を選んだ理由は、ただマネキンが着ていたからである。選び方すらも知らなかったからだ。
正直痛手ではあった。
しかし、これで少しはユキのように輝きをもてるのではないかとワクワクした。良質な紙袋に入っている服は輝いて見える。この服を着てユキと会うのが待ちきれなかった。
デート当日。
俺の服を見て、ユキは驚く。
知名度の高いブランド物を身に纏っていた俺をみて、柔らかい笑みを見せてくれた。
俺にとって、その笑みはとても有難いものであった。
お金をかけた甲斐があったと確信した。
デートは映画を見に行ったり、カフェでゆっくりしたりとお互い楽しい時間を過ごせた。
「これも、この服のおかげかもしれない」
と、デートが終わり彼女と別れた後に感じた。
そして、もっと、もっと、ハイブランドの物を欲するようになった。
これまでの貯蓄の殆どを、服や靴や帽子などに費やした。
快感であった。
どんどん自信に満ち溢れていく。
しかし、俺は物に頼ってばっかでいた。
少し異変を感じたのは、三回目のデートからであった。
ユキが、「声が聞こえにくいよ?」と俺に言った。
「マスクのせいで声が篭っているせいでしょ?」 と、その時は特に気にしなかった。
だが、明らかにおかしいと感じたのは六回目のデートである。
ユキと待ち合わせていたが、ユキが俺の事を気付いてくれないのだ。近付いて肩に手を当ててようやく気付いてくれたが、その日のデートでは数回僕のことを見失って探し回るユキの姿があった。
雪の降り頻るある日、僕はいつもの服屋さんへと顔を出す。
しかし、あいさつも、声もかけられなかった。見慣れた店員さんもいるのに……。
仕方がないので、試着させてもらおうと直接店員に声をかける。
しかし、無視をされる。
やっぱりおかしい。
仕方がなく、その店を後にする。
外に出た瞬間。第一声は「寒い、寒すぎる」であった。
ハイブランドのトレンチコートに、ストリートブランドのトレーナーを着ているため、店に入る前はほとんど寒さを感じなかったのに。
「あれ、意識が——寒い。固い? しろい? 痛い?」
色々な感性が、何かを訴えている。
立っていることも出来なくなった私は仕方がないので、雪が積もるベンチへと腰をかける。
雪の冷たさが、ズボンを通して下半身にまで伝わってくる。
私はいつのまにか目を閉じていた。
目を覚ますと、私は暖かいところにいた。
クリスマスのBGMがながれている?
どうやら、ベンチで寝ていたのを保護されたのか?
ならば、家へ帰らなくては。
——え。
しろい?
固まってる?
動けない?
ハイブランドの服は、私が元々着ていた服ではなかった。
そして、常に快適な環境に私はいつもいる。
頭の中に、一つの考えが頭をよぎる。
「僕は、服を着ていたのか?それとも着られていたのか?」
ブランド エナツユーキ @YuukiEnatsu
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