第2話 新チーム

 夏が終わり3年生が部活を引退すると、チームは新しく編成し直される。

 まずは主将を決めなくてはいけないが、恭一郎が最適任であることは衆目の一致するところであった。

 恭一郎は1年生のときからベンチメンバーに入っていた。肩が恐ろしく強く、スローイングも正確であった。バッティングは守備のような派手さはないが、バントも進塁打も着実に決める堅実で頼りになるバッターであった。プレーは総じて積極であったがそれはプレーだけにとどまらない。ベンチでもスタンドでも常に声を出してチームを鼓舞し、活性化させていた。野球に対する姿勢は真面目で時には厳しいことも言うが、決して驕らずチームプレーを重視した。これほどチームをまとめるに相応しい者はいないだろう。


 部員たちの推薦を受け、設楽したら監督も恭一郎を主将に指名したのだが、恭一郎はそれを固辞した。

 恭一郎はその理由を言わない。部員も設楽監督も敢えて訊かなかった。あの試合以来、恭一郎は180度変わってしまった。憔悴してしまっている。誰の励ましも労いも慰めも聞こえているふうではなかった。


「どうしてもダメか」

「はい。自分には無理です」

「そうか、無理か」


 設楽監督はうつむく恭一郎を一瞥すると、すぐに首をめぐらせ中瀬、と言った。


「はい」

「オマエが主将をやれ」

「はい?! オレ?いや、僕ですか」

「そう。神林じゃなきゃオマエだろ?」

「いえ、でも僕は外野だからタイムのときもマウンドに行けないし、そんな上手くもないし」

「オマエに実戦のゲームメイクを期待してはいない。いままでどおり声を出してくれればいい。外野でもベンチでも練習でも。俺はオマエのことが嫌いだという人に会ったことがない。それで資格は十分だ。あぁ、女の子がどう思ってるかは知らんが」

「はぁ? ひとこと余計なんですけど」

「バイスキャプテンは君嶋、オマエに任せる。頭脳の部分を補え」

「はい。がんばります」

「聞き捨てなりませんねぇ、頭脳部分て、それじゃあまるで僕が、」

「よし、能天気と能元気のこの二人を中心にまとまっていこう。どうだ、意見のある者は遠慮なく言っていいぞ」

「だからあの、」

「なんだ、中瀬。文句があるのか?」

「そりゃあいろいろ。能天気って」

「褒めてる」

「褒めてるんですか?」

「当然だ。ピンチで委縮している時も、チャンスで緊張している時も、必要なのは下を向かない明るさだ」

「バイスキャプテンってずいぶんカッコいいじゃないすか。副主将でいいでしょ」

「副主将って言いにくい。それに君嶋の容姿に合わない。雰囲気だ、雰囲気」

「じゃあ、僕もキャプテンでいいじゃないですか」

「イメージに合わない。オマエは主将だ。…他に意見のある者は?」

「「ありません!!」」

「よし、じゃあ頼むぞ、中瀬、君嶋。で、早速だがこのあと二人は職員室に来てくれ。今後の方針と編成について話したい」

「はい」

「はぁい」

「神林」

「はい」

「意見はないか」

「ありません」

「練習には来いよ。この二人を補佐してくれ」

「…はい」


(つづく)

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