第12話【結末】

空は星明かりも見えない荒れ模様

なのにまるで、周囲一帯が眠り込んでしまっているような…

そんな空気が漂う中を対峙する二人

静かにその一人が重い口を開く



「アンタに対して聞きたいことは山ほどある。

組織の全容・目的・メンバー、裏で繋がる企業や他組織…

 ただ、こうしてアンタと直接話してみて、今一番俺が知りたいのは・・・

 【どうしてこんなことをしたのか】だ。

 表向きだったのかもしれない…

 それでもアンタの手伝いをして見てきた限りでも、

 十分過ぎる成果と結果・名声も金銭もが手に入っていたはずだ。

 少なくとも俺も・・・奏也もアンタに敬意をもっていた。」



その言葉を聞き、呆れ顔に大きく息を吐く



「世界を自分視点でのみしか見ていない者の発言だね…

 我々のメンバーの中に、相手の能力を視る能力異眼(スキルアイ)の使い手がいる。

 その者曰く『未知数』『脅威』『世界を震撼させる最強の能力』だと恐れていたよ。

 …君はかしこい。

気付いているんじゃないのかねっ?

 妹である支王ミクのその能力に…」



未だ警戒を解かないミライに対し、ゆっくりとその距離を詰めてゆく



「ミライ君ッ!

 これは教授としてではなく、一人の人族として…

 個人である浮世絵源十郎としての頼みだ。

 私と手を組まないか?

 実験は成功し、我々の悲願…【完全勇者降誕計画】は最終段階へと移行している。

 他者の反射的突発行動を書き換えられる私と、唯一の身内であり、

 彼女にとっての絶対神である君が組めば、正義を愛し、悪を許さない…

 世界を正しい方向へと導く、完璧な思考・思想・行動力を持った完全無敵の勇者を創り出すことも夢ではない。

 今までの非礼は詫びよう。

 私も切羽詰まっていたのだ。

 君が望む条件はできる限りのもうじゃないか…だからっ!」



スッと差し出された右手を見つめた後、視線を合わせる。

それはまるで、相手の心理のその先を見定めるように……



「どこも皆、考えることは一緒か……

いいでしょう。

 俺を狙った件はまだしも、奏也の件については問いただしたいところはあります。

 音奈の件も含め、話し合う場が必要でしょうが、ミクに関しては問題が山積みで一人で対処できない。

 俺の指示なしで動かないのを条件に、話し合いの場を設けましょう」



一歩近付き差し出された右手を握り返す。

そして不敵な笑みを浮かべた後、ミライから一歩離れる。



「フッフハハハハッ!!!!!

 油断したね、言っただろう?

 実験は最終段階だと……

 触れさえしてしまえば、反射や本能の書き換えだけでなく、電気信号のオーバーロード…ショートも可能としている。

 君や音奈君には死んでもらうよ。

 全てを知る者は私だけで十分だ…

 勇者支王ミクを支配し、コントロール下に置き、世界を裏から操る。

 それは、私にしかできない偉業っ!

 君達にはその礎になってもr~/:.@:\/.][:」



突如ガクリと膝をつき頭を抑える。

その姿をまるで見下すような形で、冷めた視線を向け、ミライは浮世絵教授を見下ろす。



「……お前等がそんなんだから、ミクを任せることができないんだよ…」


「っ!?ガッ……なにぃいいいいいいいいいい!?

 なっ………何をしたっ?!?!?」


「自分で言っていたじゃないか…

 アンタの能力の弱点は触れなければ操作できないということ。

 そして、俺に対する弱点は触れるまでの間、

 能力を発動し続けなければならない常時発動型ということだ」


「バッ…バカな………

 脳へ繋がる神経を……焼き切ったはず…

 行動どころか……思考もままならない…はずなのに……

 能力が……発動していないっ?

 ……それに黒帝の能力はカテゴリー分類分布における封印系……

 自身の足りない魔力を…周囲で補うからこそ…水素を凍らせたり、

 空間に穴を空けたりといった…封印術しか使えないのではないのかっ?

 …貴様の正体が…あの黒帝なら……能力が違っ……」


「どこから聞いた情報か知らないが…残念だったな。

 考え方は間違っていないが、そもそもの根本が間違えている。

 まあ、俺の能力がその程度ではなかった!というだけの話さ。

 そして残念なことに、アンタはそんな能力不明の相手の親友を手に掛けている。

 理想通りの完全の勇者なら恨みや私情を挟まないんだろうが……

 生憎俺は、勇者の称号すら持っていない最低のアンダーでね」



頭を抑える様に手を当てるが、そこで自らの更なる異常に気付く



「なぜ?なぜ能力が発動しないっ!?

 自身の乱れた電気信号を操れないっ??」


「これが…俺の本当の能力ですよ…」



すれ違い様に頭に触れると悲痛な叫びと共に悶え苦み、地を這いずり回る



「俺もアンタの研究員生だ…程ではなくても人間の脳の仕組みくらい熟知している。

 今、アンタの脳内では電気信号が高速で働き、思考崩壊を起こしている。

 海馬の活性を異常活発化させ、後悔やトラウマが鮮明にフラッシュバックしてるはずだ。

 今はもう失ってしまっただろうが、昔はあったかもしれない…

 非人道的行為による罪悪感や後悔の念が一気に流れている頃だろう」


「あぁ…ああああぁぁぁぁぁああああっ!!!!!」



震える手で懐に隠し持っていた銃を取り出す。



「最後に言っておく。

 アンタとは、そもそも考え方がまるで違う。

 勇者なんて、自らが名乗るものでもなければ、人為的に造りだすようなものでもない。

 個人が創り出し、降誕させようとしている時点で間違えているんだよ。

 最初の一歩を踏み出せる勇気があり、それが人々に希望や勇気を与えた時、

 勝手にその者に付いてくる’称号’という名の…ただのオマケだ。」



涙ながらに震える手を抑えようとするも、

右手は徐々に上がり、銃口がコメカミに当てられる。



「さぁ、懺悔の時間だ…………死ね」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




全ての決着がつき帰路につく途中、

彼女はそこに立っていた。

俺の姿を見るなり、泣きつくように胸に飛び込んでくる。



「お兄ちゃん………ミグは…ミグは…友達もシロちゃんも…

 誰も助けられなかったのですよっ……

 あんなに…あんなに大事で、初めてで……

 なのに…ミグはたずげ…られながっだでずよ……」



泣きながら顔を胸に押し付ける。

こんなに…こんなにも小さかったんだな…

どんなに強く成長したところで、今はまだ6歳のなんてことない子供なんだと思い知らされる。

それでも、俺は彼女を抱き締めてあげることができなかった。



「何が…何が優秀ですか……

 何が未来の勇者ですかっ……

 こんなの…こんなの勇者じゃないですよぉおおおおおーーっ!!!」



泣き崩れる彼女の頭にそっと手を当てる。



「ミク、お前の父親が何で勇者と呼ばれていたかわかるか?」



泣きじゃくる声が止まり、視線が俺に向かう。



「強いからだけじゃない。

 あの人は、四種族の中で一番非力でひ弱で脆弱な人族でありながら、

 たった一つの願いの為に、世界を統合させ、平和にさせようと本気で動いた人であり、

 みんなに、それを為そうとする勇気と希望を与えた存在だからこそ勇者なんだ。

 強いだけの奴なんて、世界にごまんといる。

 平和を願う奴だって、世界にごまんといる。

 お前の父親はその二つを持ち続け動いた…動く勇気があり、その勇気を他人に与えられる人だった。

 あの人は最初から勇者になろうとなんかしていなかった…ただの結果だ。

 勇者なんてただの肩書きで、結果的についてくる称号でしかない。

 ミク…お前はどうなりたいんだ?

 未来の勇者だの、勇者の子供だのなんて関係ない。

 お前はこれから、どうなっていきたいんだ?」



それを聞いたミクは少し呆けるように何かを考えた後、涙を拭う



「お兄ぢゃん…私ば強くなりだいです!

 自分を守る強さじゃない…味方を守る強さだけでもないっ!!

 ミクは、敵も味方も全てをひっくるめて守れる強さが欲しいのですっ!!!」



潤う瞳のその奥には、強い決意のようなものが感じられた。



「それは……何よりも大変で難しい強さだな…」


「はいです!だからお兄ぢゃん…お願いします。

 ミクを強くしてくださいっ!!!」



その願いを聞き、困ったように頭を掻く。

正直、俺が教える予定は全くなかった。

強くさせるつもりもなかったし、故にクローに見守らせることで脅威から遠ざけるようにしてきた。

しかし、今回の一件で魔力が固定されている…完全に能力を覚醒している。

その決断をさせ、ミクを戦いの世界に引きづり込んだのは間違いなく俺だった。

最高位の魔力を持ち、勇者の子供として生まれたミクにはこの道は当然なのかもしれない。

しかしそれは、”当然”なだけで”必然”ではなく”絶対”ではなかったはず…

ならば、この世界に引きづり込んだ俺には、それを見守る義務があるのかもしれない。



「…わかった。

 とりあえず今日は帰ろう…音奈が待っている。

 明日から少しだけ…俺が見てやる。」


「……なのですっ!」



その瞳は強く輝いていた。

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