第11話【真相】
アスフォード帝都大研究所
その一室にある研究室で、電気も付けず、一人の男は待っていた。
街灯の灯りを頼りに、自身が書き記した殴り書きのメモ帳を脳内で反復させるように読み込んでいると、
その入口の扉がゆっくりと開かれる
「お待たせしました。
今回の拉致誘拐集団能力暴走の謎が解けました。
なので、採点願おうかと思いまして…」
月明かりさえ通さない暗雲立ちこめる暗い夜の中。
背後に轟く落雷でその瞳を黄色に灯らせ、中に入り、扉を閉めるミライの姿を見ながら、そのメモ帳をゆっくりと閉じる。
暗がりの中、電気のスイッチにミライの手が触れると、
部屋は先程とはうって変わり、眩い程に光が煌々とその者を照らし出す
「最初に答えから言っておきます。
我が家への襲撃…その全てに俺がいない時を狙われている。
アンタなら俺の動きや予定を把握でき調整できる…そうですよね?『浮世絵源十郎教授』。
いや、革命軍【紅4団】、第一研究所責任者・『浮世絵源十郎』っ!」
「…呼ばれて何事かと思えば……理由を、聞かせてもらおうか?」
「元々紅4団でミクを狙うリーダー各の人物の目星をつけていた。
その相手は紙媒体を読まない…もしくは近くて細かい文字が見辛い高齢で、日常では眼鏡をかけない人物。
だからこれから話す内容は、これら全てを踏まえた前提で話を進める。
【紅4団】…龍・仙・魔・そして人!
4種族から成る組織で、更にその中の人族で構成された集まり…名を【紫電】。
その目的…それは完璧で完全で最強で、お前達の理想を叶える理想通りの”勇者”を造り出すこと。
そしてお前達は何かしらの方法…
例えば”他者の能力を見抜く能力”により、それを可能とする逸材…ミクに目を付けた。」
源十郎の様子を見ながら話を進める。
「だが、目を付けたその時点で、もうミクには強い意志と自我があり、アンタ達の思想を植え付けるには遅すぎた。
何より、なぜかアイツの中で神格化されてしまっている俺の存在があることで、更に頭を悩ませた。
そこで組織はある男に白羽の矢を立てた。
それが浮世絵教授…アンタだっ!
俺と接点のあるアンタはまず、俺を組織に取り込むことを考えたはずだ。
所々で、俺の他者からの扱いに同情しながら、世の中の改革を謳い、賛同させようとする言動があったし、
俺を仲間に加えられれば、必然的にミクを手中にし、好きに操ることができただろうからなっ。
けれど、当の本人である俺はそんなこと気にも留めず、組織に加わる気配が一向になかった。
そこで自分の知識と能力を十二分に発揮し、ミクの思想を自分達へ寄せる方法を思い立った。
それは”他種族は悪”だとミクに思い込ませること…
ミクが大切にしている者を他種族が傷付け壊していけば、いずれ自分達と同じ・それに近い思想にミクを誘導できるのではないかと考えた。
そして当初考えられていた他種族殲滅の為の能力強制反射的発動も同じタイプの脳関係だった為、同時進行で動物実験と人体実験を強行した…」
「それはまた…一方的な考えですだね。」
ここまで黙って聞いていた源十郎が、淡々とした様子で割り込むようにして口を挟む。
「先程君が言った通り、聞く話によれば【紅4団】は4種族全ての種族で構成されている。
他の種族からしたら自分達に牙を向くかもしれない存在をなぜ私達が…」
「確かに人族は【紅4団】に所属している。
ただ、最終的な目的が違うんだろう?
革命軍というからには、この世界の在り方に不満を持つ者が集まり組織が作られた。
それぞれがそれぞれに想うことがあるだろうその中で、人族が想うことは今の人族に対する扱いを良しとしていないことだ。
客観的に見ても実力・立場…その他諸々弱い立場に立たされ、いつ・どのような裏切りにあうかも分からない。
追い打ちをかけるように【紅4団】の中でも立場が弱く、非戦闘向け能力者が多く、それゆえに酷い扱いを受けてきたんだろう。
4種族の中で今現在一番危険なのは他でもない……人族だ。
故に【紫電】全体で一つの目標が生まれた。
均衡を保つ為…もしくわそれすら自ら崩し、頂点に立つ為の存在。
それは他の種族に縛られず、圧倒し、力のない自分達の代わりに自分達の理想を体現する最強の代役…それを造り出すこと。
その祭り上げる”最強”の最候補…それが支王ミクなんだ」
沈黙する源十郎…その足元へ放った紙がヒラリと舞い、フワフワと落ちる。
それは施設に保管されていた、浮世絵源十郎本人の履歴書。
「アンタの能力は電流操作…
正確には電気の流れを操る能力で、その流れを銃口へ集めることでレールガンを可能としている。
また、自身の電気信号に干渉し、反射神経を最大限に研ぎ澄ませられる…
その深い知識も相まって、これこそがアンタを脳科学の権威にのし上げた一端だ。
しかしもしも、その電気信号への干渉を他者にも行うことができ、上書きや書き換えができるとするなら…
そう考えれば辻褄が合う。
この方法なら、長時間効果を持続させ、多人数に限定的でもその行動を取らせることが可能なはずだ。
多分アンタは、生物が本来持つ無意識の領域……
本能や反射的行動といった、瞬間的に反応して行動に直結する電気信号をほんの少し書き換えたんだ。
要は電気信号を弄ることで、反射行動を過敏に反応するように調整した。
例えば、見ず知らずの者達が近づいてきた時に”恐怖”や”危険”を感じ、防衛本能という名の能力暴走を起こさせたり、
自身より弱い他種生物を見た際に、本能的に襲い掛かる獣の習性をほんの少し過剰に反応するように書き換え、
それを知らず近付いてくる少女を反射的に襲わせたり…とかな」
それを聞いても微動だにせず、少し下を向いた源十郎の表情は見えなかった。
一呼吸置き、更に話を続けた。
「だが、いくら脳科学の権威であり、その道のプロで知識のあるアンタでも、他者の電気信号への干渉や上書き、書き換え…
例えそれができたとしても、それがうまく機能するかどうかの不安があった。
だからこそ、組織をあげての大規模な実験を行ったんだろ?
拉致による実験用モルモットの確保、そして解放に乗じてその実験結果の確認をする為に…
つまり、あの人質解放の本当の目的は、電気信号を狂わされた人々による能力の暴走実験。
それにより不要になった人質達の処分、あわよくば助けようとする者達も巻き添えにできる。
遺体や、もしもの生き残りは自らの病院に引き取れる…とほぼリスクなくリターンが返ってくる最悪な実験だった。
そして、その中でも歌方音奈というサンプルは必要素材と同時に危険分子となった。
必要素材条件は、最終目標であるミクと性別・年齢・体型ともに近く、能力者に目覚めた極めて貴重なサンプルだったから。
危険分子条件は、その目覚めた能力が”音”だったから。
途中で気づいたはずだ。
実験の時などで聞かれていた”声”もまた”音”の一種で、
故に、何かの拍子に聞かれていた自分の声が、能力を介して浮世絵源十郎と一致し気付かれるのではないか?と。
だからこそ固執して、彼女の回収または殺害を急ぎ動いた」
何も反論して来ない源十郎へと一歩一歩、ゆっくりと近付いていく。
「解放された人達の中で電気系能力者は3人いた。
ただ、その全てが通常放出系で、レールガンのように銃痕が残るような能力者はいなかった。
そもそも当然ながら、捕まっていた者達で銃形状の武具・道具関連は持っているはずもない。
だとすると、暴走に隠れた第三者の犯行になる。
更に、レールガンの銃痕は綺麗に奏也の心臓を貫いていた。
混乱の中、無差別に放たれた銃弾が、ピンポイントでそこだけを撃ち抜く可能性は極めて低い。
加えて、銃弾被害にあったのは奏也ただ一人、他の誰一人もレールガンどころか銃弾損傷被害は出ておらず、かすり傷すらなかった。
ということは、明らかに奏也はその意志で狙い撃たれたことになる。
アンタは《電導(ショックルート)》の体内電流強化による超感覚によって、
奏也の《獣眼(ワイルドアイズ)》の視線に気付き、内心焦ったはずだ。
気付かれるはずのない超遠距離での視認だからこそ、反射的に身体が…そして能力が危険を察知し、
考えるより先に《電導》最大攻撃戦術”レールガン”で奏也を射殺したんだ。
あたかも拉致被害者の暴走に巻き込まれたかのように…
奏也が撃たれた位置と初撃弾丸の射線を対角線上に延ばしていくと、
辿り着くのはアンタが身を隠し様子を見るよう配置された木々の奥だった。」
パサッと、紙を源十郎の目の前の机へ放り投げる。
そこには軍指定の決められた位置・配置を指示する図面だった。
「不思議だった。なぜ拉致被害者の解放が山脈地帯だったのか…その理由は2つ。
1つは不測の事態の際に処理し、逃げるためのルートの確保。
あれだけの木々が生い茂り、野生の獣や魔物、魔獣がひしめき合う場所なら、
殺気の感知は困難…発見される可能性は極めて少ない。
そしてもう1つは事件後、死傷者の搬送先の病院がアルテナ病院であること…
アルテナ病院はここ、アスフォード帝都大研究所の傘下にある。
この病院なら、事件の発生原因が無意識での能力発動…
それを疑い原因が脳にあるとわかった時点で、必然的に脳科学の権威である貴方に話が回ってくる。
そうすれば野に放った実験体を回収でき、この実験の始めから終わりまで全てを見届け、あわよくば処分もできる。
死んだ者は解剖もできる…願ったり叶ったりの状況だろう。
そうだろ?浮世絵 源十郎教授。」
先程机へと投げられた図面の上へ、更なる資料を放る。
それは、ここ数日調べていた音奈に関する詳細なデーター資料
「先程の通り、自らの能力により奏也の
そして、そんな経緯があったからこそ、音奈に奏也が何かを伝えていなかったのか探りを入れていた。
しかし、そんな様子は微塵もなく安心していたはずだったが、思わぬ事態になってしまった。
音奈の能力が『振動』ではなく、『音』だと知って内心焦ったはずだ。
何せ、実験中何度かアンタの声を、彼女に聞かれていた可能性があった。
だから、思い出される前に彼女を殺そうとした。
そして、その不安はまさに的中していた。
覚えていたよ、実験を進めるアンタの声を彼女は……」
パチパチパチとひとしきり聞いた後、源十郎は手を叩き笑顔をこちらへと向けた。
「素晴らしい回答だ。
私がこの事件の張本人なら120点満点をあげているところだよ。
だが、残念ながらそれらは状況証拠で、決め手ににはならない。
私の声などネットやテレビ、ラジオなどでどこでも手に入れられる。
加工や変声先にされたとしても不思議ではないのだよ」
「あぁ、だろうな。
だが、”あの時”俺を殺せなかったのは失敗だったなっ。
あの弾撃は、明らかに電気を帯び発射されたレールガン…
弾を回収し、解析させたが電気負荷がかかった痕跡が残っていた。
俺を狙った銃弾と奏也を撃ち抜いた銃弾の弾の種類もレールガンによる電撃痕も、
アンタが撃ち出すレールガンと一致すれば言い逃れはできないはずだ。」
「……っ!!!
だからワザと……
私に連絡を……?」
「斜線先は先日の一件で柔らかくなった土。
高威力に上げたレールガンで突き抜かせ、行方を眩まさせるはずだったんだろうが…
避けられる可能性を考慮したんだろうが、まさか弾かて弾が残る想定はなかったんだろうな。
実験に参加でき、その知識があり、実験の終始を観測でき、レールガンを撃ち出せる電気系の能力者なんてアンタ以外に存在しない。
奏也の行動で、こちら側に裏切者がいることはわかっていた。
ただ、そのメッセージはそれだけではなかった。
ここに気付いた更に先、改めて考えなければならないダブルメッセージ…
おかしいと思ったんだ。
妹を想うなら俺なんかに頼るより、面識もあり実績もあり、治せそうな機関も強力なバックもある貴方の名前を伝えるべきだ。
仮にもしも、その思考に辿り着かなくても、その場には俺と同じく友人であり、信頼も信用も実力もあるクローがいた。
確かに俺は、奏也になぜか過度な期待をされ、一目置かれているフシもあったが、
それでも目の前にいるクローを頼らず、俺の名を出したのは不可解だ。
なら、なぜ俺の元へ音奈をやったのか…
【なぜ俺だったのか】…そこが重要になる。
奏也が《獣眼(ワイルドアイズ)》で最期に見たのは実験を見守り、観察し、その光景を笑み浮かべ眺めるアンタの姿だったんだ。
そして、何もしなければ自動的に妹はアンタの所に送られてしまう。
音奈をアンタの元へ送るわけには行かない。
かと言って全てを伝える時間もない…
だから俺だったんだ。
俺なら気づく…と言うより俺にしか気づけない人物。
俺なら両者を知っていて、この矛盾の答えに行き着く唯一だと考えたから…」
源十郎の視線がこちらを凝視していた。
しかし観念したのか、肩の力が抜けたように大きな溜息をつく
「以上が俺の出した結論ですが、どうします?
不服なら、俺がさっき届けた銃弾の解析結果を、待ってみてもいいですが…」
「フフッ!
賢い子供は好きだが、賢すぎるのも問題だなっ
素晴らしい観察眼だ。
敗因は音奈君の覚醒能力の勘違いだろうな…
音を操る能力関係に目覚めるだろうとは考慮していたが、しかし確認してみれば振動使い。
故に油断していたが、解放後に微音使いだと発覚するとは…
しかし、まさか私の【エクスマキナ(反射操作)】を学生の・・・しかも12歳の子供に見破られるとは…
低能だ出来損ないだと蔑む者達が多いがとんでもない…さすがは我らが勇者支王真様のご子息だ。
自分の未熟さを悔やむよりも、君の類まれなる洞察力と才能を褒め称えるべきなのだろうなっ!」
額に手を当て悩む仕草を取りつつ、その実、顔を隠し表情を読めないようにしミライを見据える。
通常、勝ちを確信し、更に相手が負けを認めた瞬間、油断と気の緩みが生じる。
そんな源十郎の思惑を読み取り、一切の隙を見せないミライを見て諦めたようにその場で両手を挙げる。
「まいったよ。
君の勝ちだ・・・望む答えを与えよう。」
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