第4話【《崩壊(クラプス)》】

「【天王寺】……ここが希の家?」




それはもはや、家と呼べる形を全く保っておらず、

表札と…ただただ鉄や木の残骸が残された跡地だった。

こんな状況を希に伝えるべきかを考えていると、

後ろから来る誰かの気配に気づき、すぐさま振り向く。




「おや、こんなところで何をしているんだい?」


「あっ…案内の…北威先生っ」




それは担任が依頼を願い、今回の校外学習の案内人を任されていた山岳地帯に詳しいガイド役




「さあ、みんなのところに戻ろう…」




と優しく肩に触れられると、途端に力が抜け、その反動で片膝をつく。

違和感を感じ、触れられた肩を見ると、骨が外れたかのようにだらんと垂れ下がっていた。




「……え?」


「んっ?どうしたんだいっ?」




すぐ様ガイドは心配そうに、もう片方の肩と足に触れられると、

その部位に力が入らなくなり、ガクンと地面に倒れ込む




「おや?一体何があったんだい?」




そこには先程とは全く違う悪意を孕んだ声の主がいた




「ようやく隙らしい隙ができたか……

 勘弁してくれよ、私は忙しいんだから!

 それに、山を崩した近道を使っても間に合わないレベルの異常身体の化物をまともに相手できる程、僕は強くないのだけどね…」


「……北威…先生?」




必死に立ち上がろうとするも左足はグニャリと曲がり、崩れるようにまた地面に顔を付ける。




「状況が理解できないようだね。

 崩壊したのだよ。

 私が触れた両肩と左足、その骨が…」


「アッ…アナタは…」




崩れ落ち膝をつくミクの右手を掴み、無理矢理引っ張り上げる。

ボキボキッと掴まれた腕が、簡単にへし折られる。

ミクの絶叫が森全体に響く




「いくら生まれ持っての強固な異常耐久の肉体を持っていようとも、

 まだ覚醒していない君の力では、僕の能力崩壊(クラプス)には勝てない。

 さあ、抵抗せずに来てくれたまえ…」




握力の類ではない、能力による力…




「こんな…ところで……お…おにぃ…ちゃん…」





そのあまりの激痛に意識を失ったのと同時に、その者は二人の前に立つ。




「山岳ガイド担当、北威久良…

 アナタが支王ミクの担任に声を掛け、この山の校外学習を勧めたことは分かっていた。

 しかしまさか、この村の壊滅にまで関与しているとは思わなかった。

 お前っ…その能力で自然災害を装ってどれだけの被害を与えてきたんだ?」


「……現れたか、黒帝っ!

 ふふっ…まあ、私の能力が分かっている時点ですでにバレているよね?

 私の正体やその目的も……」


「今の世を憂い、この世に革命をもたらそうとする集団”紅4団”…であってるかな?。

 そんな奴等が支王ミクに何の用だ?」


「そりゃあ、我が組織に迎え入れる為に決まっているだろう?

 彼女の潜在能力は凄まじい!

 今から手綱をしっかり括り付けて英才教育を施せば、どれほどの化物が生まれるか…

 そして、その力をもって勇者として人族の先頭に立ち、号令を合図に革命を…

 そしてその後に起こる大戦で世界の覇権争いを制する。

 それこそが、我が”紅4団”………いや、人族衆”紫電”の目的っ!!!」


「それを、その少女に押し付けるつもりなのか?

 最初に言っておいてやる。

 それは、お前等の勝手なエゴを押し付けているに過ぎない。

 戦いを強要し、従わせようとするのであれば、勇者は人々の奴隷……犠牲者だ。

 世界を見て、自分で考え、自身の為すべきことを見出して判断する…

 勇者こそが、誰よりも自由でなければいけない。

 お前等の考えは、根本から全てズレている…容赦なく潰させてもらうっ!」




広げる両手と同時に、周囲は黒帝を中心に凍り付く。

その凍結進行速度は以前の襲撃の比ではなく、5秒と掛からず北威の全身を凍結させる。

しかし次の瞬間、ガラガラガラと音を立て、凍結で発生した氷は崩れ去ってゆく。

不敵に笑みを浮かべる北威は、伸ばした右手で黒帝の左腕を掴む。




「この程度の凍結、我が能力の前では無力っ!!!

 全て崩し去ってやるっ!

 そして次は貴様の番だっ…完膚なきまでに崩壊させてやるっ!」




握った右手に力を加える。

しかし、そこで違和感に襲われる。

その右手に力が入らない…能力の発動を確認できない。

どころか、こちらの右手の方がひしゃげ、あらぬ方向を向いていた。

頭が追い付かないものの、目にした現状と、後から迫る強烈な痛みに襲われ、悲鳴をあげのたうち回る。




「バッ…バカな……

 報告では何人ものメンバーが氷漬けにされていた……氷系能力…ではないのか?

 それに今……確かに俺自身の能力の発動を確認できなかった…」


「隙だらけだよっ…」




黒帝が振るった手の周囲は、みるみるうちに凍り付いていく。

凍り付く周囲のその中を、左手で崩しながら少しずづ距離を離していく。




「能力が……使える?

 能力の喪失、しかし一時的…

 奪うでもなくコピーともまた違う……

 …そんな力なんて…」




そう言いかけて言葉が止まる。

思い至ったその能力…




「ま、まさか…お前の能力はたn…」


「初めてだよっ。

 俺の能力の正体にここまで気付いた者は…

 しかし、だからこそ……お前にはこの世界に居てもらっては困るっ」




詰められた距離から向けられた手の周囲、その空間が歪み、渦を巻く。

暗黒に広がりを見せる空間は、さながらブラックホールのように強力な引力で、

必死に抗おうとする北威を引き寄せ、引きずり込んでゆく。




「ち……ちくしょおおぉぉぉおおおお!!!

 し、おう……まことぉぉぉおおおお!!!」




その断末魔と共に、その姿は暗黒の空間へと消えていった。

そこに残る青年は、そっと倒れる少女を抱き抱える。




「残念だったな…

 だが、その名を背負う以上…俺に負けることは許されていないんだよ」

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