第3話:村の生き残り

「こんなところで何をしてんだ?奏也っ!」




どうするか考えた末、奏也に声を掛けてことにした。

正直、見て見ぬフリをして無視するのが一番ではあるのだが、

コイツの能力でいらぬ場面を目撃されて、詮索されても困るということから、

今後の動きを考えるにあたり、目的を明白にし、動きを予測把握しておくのが妥当だという結論に至った。




「うおっ!?急に後ろから声掛けるなっ!

 俺の能力は360度全体を見渡せるわけじゃないんだぞっ!」


「知るかっ!こんな山奥で一点集中、周囲を気にも留めず隙だらけなのが悪い。

 何してんだ?完全に不審者だぞ!」


「いや、なんというか…森に住まう一人暮らしのおんにゃの子に救いの手をだなっ…!

 『こんなところでどうしたのですか?

  一人でなんて危険だ!

  もしよろしければ我が家に空いている部屋がありますのでそちらにっ!』

 『まあ↑なんて親切な殿方っ!

  夫を亡くし、辛い日々に耐えきれずこんなところに来てしまったけれど、これは運命の出会い…抱いてっ!!!』

 …なんつう運命的な出会いが……♪」


「メーデーメーデーメーデー、もしもしポリスメン。

 山の奥地に、妄想と現実の区別が付かず女を誘い込もうとする変質者という名の不審者が…」


「携帯を出すなっ!繋がらねえよっ、こんなところでっ!!!」




そんな日常的なやり取りを行っている少し前より、事件は起こり始めていた






※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


~~~ 時間は少し遡る ~~~






教員歴15年、色々な子供達を見てきたが…




「帰りたいのですぅ~~~~」




さっきまでウキウキだったのに、

急にいなくなったと思ったら、10分後にこんなことを言い出す子供を見たことがない。

…いやまあ、全くいなかったわけではないのだが…




「帰るかお兄ちゃんに会うか死にたいですぅ~~~~」




選択肢が極端過ぎる

そんなに切羽詰まってるの?

いなくなった数分の間に何があったの?


肩を落としながら、困り顔になっている山の案内役と相談を始める。

そんな困惑する担任案内人の苦悩を露と知らず、ガックシと座り込むミクの横に一人の少女が腰掛ける。




「と、とりあえず歩かないと、帰ることもお兄さんに会うこともできないんじゃないかな?」


「あう…そ…うなのですよ……」




フラリフラリと立ち上がり歩き出すミクの横を、少女が並行して歩く

ミクのせいで止まっていた列は動きを見せ、山頂へと歩みを進めてゆく。




「ミクちゃん……だよね?

 アタシは希、…天王寺希っ!

 よろしくねっ!」


「のぞみちゃん…ですか?

 初めて会うと思うのですが、ミクのこと知ってるのですか?」


「クラスが違うからアタシのこと知らないかもしれないけど、アタシは結構ミクちゃんのこと知ってたり…!

 っていうか、ミクちゃんを知らない人は学園にはいないかもねっ!」


「そうなのですか?

 こんな普通を絵に描いたような、なんの特徴もないミクを、なんでまたみんなが知ってるのですか?」


「ア、アハハハハッ…それは何かの冗談……なのかな?

 レベルが高いなぁ~…

 でもアタシはミクちゃんより、”もう一人”の有名人が気になってるんだけどなぁ~」




ピクリとミクの額にシワが寄る

グギギギギギギギ―――ッ

と首を傾け顔を向けるミクの眼は、どす黒い暗黒を帯びていた




「ソレハ…誰ノ、ドウイウ意味デデスカネェエエエ?」


「だってなんか…”カッコイイ”じゃない、ミクちゃんのお兄さんっ!

 みんなの評価を覆す程の剣術と瞬発力、能力をものともしない姿勢、頭もかなり良い…憧れちゃうなっ!!!」


「っ!!!そ…そうなのですよっ!!!」




途端にミクの表情が、晴れ渡りキラキラした視線を希へと向ける。

その豹変にビクりと震わせる希の肩を両手で掴みかかる




「そのとおりなのですよっ!

 お兄ちゃんは、男前でカッコ良くて、謙虚なのに器は大きくて、理性的で気遣いのできる優しい人なのですっ!

 不器用で普段は無表情なのに、ふとした瞬間に見せてくれる柔らかい笑顔とかもう最高でっ!!!

 謹厳実直・英華発外・秀外恵中・十全十美…非の打ち所のない完璧超人なのですよっ!!!

……なのにお兄ちゃんは、人前ではその様を見せないですし、

 能力者にも関わらず魔力最低値のアンダーホルダーで、実質学園唯一のアンチホルダー。

 そのせいで落ちこぼれとか言われて、学園に入学できたのは、

 ミクのワガママと父親である支王真のコネや裏工作なんじゃないかって噂される始末…

 誰もお兄ちゃんの凄さをわかってくれないのですよ…」




肩を落とすミクを見て微笑みを向けながら希は言う。




「いいじゃないかな、他人の評価なんて…

 結局は自分が相手をどう思っているかが大切なんだから!

 他の人の意見なんて聞いちゃだめだと思うよ!」


「で…ですよねっ!

 他がどんなことを言ってようが、ミクがお兄ちゃんに向ける想いのは関係ないですよね!!!」




ギュッと希の両手をミクの両手が包み込む




「希とは仲良くなれそうな気がするのですよっ♪」


「そう?私も同じだよっ!

 よかったら色々お話しようっ!」




そんなこんなで、無事機嫌を取り戻したミク他、学園生一行は目的の山頂へと進めんだ。






山頂に着き、皆が食事や休憩を取る中、思いっきりの新鮮な空気をその身に取り込み、

周囲の広大に広がる自然を見たミクが、希と合流しようとすると、

先程までとはうって変わり、顔面蒼白とした希が頭を抑えうなだれていた。




「ん?どうしたのですか、希っ?

 気分が悪いなら、先生に言って横になっていたほうがいいんじゃないですか?」


「ん~んっ、そうじゃ…そうじゃないの…」




手を横に振り、否定をする希だったが、

その瞳からはボロボロと涙が零れ落ちていた。




「っ!!!何か…あったのですか?」


「ん~んっ、ちょっと昔を思い出しちゃって…」




その質問に一瞬答えが詰まったように見えたが、意を決したように希は話を続けた。




「アタシは今、孤児院に住まわせてもらってるんだ。

 家族はみんな、事故でいなくなっちゃって…

 土砂崩れで、今はもう村自体ないんだけど…

 それが、ここから北…あっちに進んだ先にあったんだ……」


「……ここにいるのが、辛いのですか?」


「んーん、その逆…

 どうしても見ておきたいの…

 その場所がどうなっているのかを……

 で、ちゃんとお祈りしてあげたい。

 ゆっくりおやすみできるように……」




それを聞き、バッと立ち上がると、

ミクは先程と同じように希の両肩に手を置き、真っすぐとその瞳を見る。




「家族との過ごした場所は大切なのですっ!

 向かうべきなのですよっ…その村に……

 そうしないと後で絶対後悔するのですっ!!!

 ミクも一緒に行くのですからっ!!」


「う…うんっ…そう、だよねっ!

 行かないと…後悔……するよね…」


「なのですっ!!!

 でも困ったことが一つあるのです。

 多分、単独行動は許してもらえないのですよぉ…」


「許してもらえないって…先生に?」


「それもですけど、お兄ちゃんのお友達になのです。

 ミク達低学年生を、危険から守る監視のクエスト中らしくて、

 優秀な上位能力者なのですから、さすがに逃げきれないですし、

 バレたらお兄ちゃんに報告されて、お尻ペンペンなのですよっ!」




ブルブルッと両手を抱え震える素振りを見せるミクに対し、

少し考えた様子だった希は問う。




「その人が今、どの辺りにいるかわかる?」


「??大体はわかりますが…どうするんです?」




ごにょごにょと耳打ちをした後、眼と眼が合いお互い笑い合う。

そして、向けた視線のその先には、

木々が生い茂った林の手前にポツリと小屋のように建てられたお手洗い場があった。






「案内の先生!ちょっとミク達、トイレにいってくるのですよっ!」


「ん?あぁ、わかった。

 担任には、僕から伝えておくよっ」




山の案内役に伝達を頼むと、そそくさと二人は、先程見掛けて手洗い場へと向かう。

手洗い場へと二人が入っていった10数秒後…

ダンッ!!!と希を背負い、ミクが森を駆け抜ける。




「すごいのです、よく思いついたのですねっ!

 これなら確かに、お兄ちゃんのお友達さんにも気付かれないですよっ!」


「トイレの出入り口側…その先にいるんなら、

反対の窓から抜けれれば、建物が壁になって見えないはず!

 すぐに済まして帰ってくれば、多分大丈夫だと思う。

 だから…お願いっ!ミクちゃんっ!!!」


「わかったのですっ!

 任せるのですよっ!!!」




二人は岩や木々を背に、監視の目を逃れるように目的地へと駆け出す。






※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※






「……ハア~、あのバカがっ……」


「もうsi……すまなかった!

 まさか、こちらの位置を把握した上で、死角から逃げ出すとは思わなくて…」




突如、慌てた様子で会話に割り込んできたクローの話を聞き、

この日何度目かになる溜息をすると、右手で頭を抱える。

手で隠れたその視線を、状況が呑み込めず困惑する奏也へと向ける。




「奏也、一つ聞きたい。

 お前がここにいる本当の目的はなんだ?

 さっき言っていた、訳がわからん理由でこんなところに来たわけじゃないだろう?」


「……ああ、そうだよ。

 元々は調査クエストだっ!

 クライアントの関係上、その相手と内容は言えないが…

 この付近でも、大規模な行方不明事件が起きてるんだよ。

 そのついでに、壊滅した村を見に行っていた。

 傍目は土砂崩れによる自然災害扱いになっているが、

 ”ある組織”が人体実験の為に拉致・誘拐をして、その証拠隠滅の為に壊滅させたと思われる村…

 何かしらの情報が残ってないかと思っていたが、無駄足だったよ」


「………その”ある組織”の名前は?」


「……………紅4団っ」


「「っ!!!」」




クローと目が合う。

互いに考えていることが一致すると、

すぐさま風の能力による飛行でクローは高所へ移動し、

双眼鏡で子供達の集まる山頂の様子を見る。




「やはりっ!

 ”奴”がいませんっ!!!」


「その村の場所は?」


「北だ、あっちに真っ直ぐ…

 なんだ?よくわからんがそこにいるのか?」


「説明している時間がないっ!

クローと奏也は、他の子供達の監視を…話はここでクローに聞いてくれ。

 最悪、そこにいる子供達が被害に合い兼ねない、監視護衛は任せた。

 その村へは……俺が行くっ!」




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