第2話:校外学習
~~~ 一週間前 ~~~
明るい朝の光が部屋の中を照らし、風が吹き、森林は揺らめき、
小鳥の囀りは寝起きのまだ働かない脳の覚醒を静かに手伝ってくれていた。
気持ちの良い天気、ご機嫌な一日の始まりだった。
ただ一つ、いつものように俺のベッドでスヤスヤと眠る全裸の愚妹を除いては…
「……」
「…んっ…スウゥ~…スピィ~……」
寝息を立て眠り続けるミクの横に呆然を立ち尽くす。
事後なのだろうか?
俺の貞操は無事だろうか?
それよりおかいしだろ……
いくら深い眠りについていたとしても、いつ・いかなる時、何が起こるか分からない現状において、
過敏に反応でき、起きれるよう今まで鍛えてきたし、経験も実績も自信もあった。
なのにどうゆうわけか、コイツだけはなぜかすんなりと何の気配もなく、
そんな俺の眠る布団へと潜り込める能力を持っていた。
「んっ…ダメれす~お兄ちゃん♪
そんにゃあ…えっちぃぃ♪」
ズドオォォオオオオオン!!!
不愉快な寝言を聞いた瞬間頭に血が昇り、
ついつい渾身の一撃をミクの顔面へ叩きこんでしまった。
「ひどいですぅ~!
ちょっと寝惚けて、お兄ちゃんのお布団に入って一緒にネムネムしただけじゃないですか~……」
「だからなんで平然としてるんだよ?無傷なんだよ?
ベッドを粉砕したどころか、床まで吹き飛ばしてんだぞっ!」
朝食を食べ終わり、食器を片付けるとそそくさと予定があるといってミクは出て行った。
怪しい…怪し過ぎる
無断で俺の布団に潜るのは日常的なのだが、
俺に気付かれない程、本気を出して一緒に寝にかかる時には大抵何かがある時だ。
頭を掻きながら眼鏡を掛け、出かける支度をする。
さて…どこに行ったのやら……
「今日こそこれを受け取ってもらいたいのですっ!」
「困ります…」
「ここは役所じゃないんですか?これを受け取るのが仕事ではないのですかっ?」
「困ります……」
「どうしてなのですか?
こんなに想っているですよ…」
「すごく困ります…」
「あれですか?年齢的な問題ですか?
確かにほんの少し若いかもしれませんが、愛に年齢は関係ないのですよっ!」
「問題あります…」
「もしくはあれですか?
NOと言える社会人を目指してるとかですか?
そうゆうのは他でやってほしいのですが…」
「目指してません…」
「まさか、これが妬みというものなのですか?アアァァァァアア~嫌なのです!!!
そんなに邪魔をして楽しいのですか?
国ぐるみの陰謀なのですか?」
「いや、だってそもそもアナタ達……
ご兄妹ではないですか」
「兄妹だからって結婚してはいけない理由にならないのですよ!
いいから早く、バレないうちにこれを受け取ってh……」
ズドンッガシャンガシャンガシャンと椅子が吹き飛んでいく。
周囲の人々は何事かと注目する中、
俺の蹴りをまともに受け、クルクルと眼を回すミクの襟を掴み引きずる。
「毎度のことながら、申し訳ございませんでした。
ちゃんと片付けてから、連れて帰りますので……」
「いえ、大丈夫ですよ。
なんか………大変ですね…本当に……」
深々と頭を下げ、役所を後にする
外に出て少し進んだ辺りで、引きずられる足の振動でミクが目を覚ます
「ハッ!ミクはどうしたのですか?
一瞬お兄ちゃんの香りに気を取られた隙に、ご褒美をもらって夢の国へとダイブして、
そこでお兄ちゃんとキャッキャウフフな水着回を堪能していたような気が……」
「どこまでポジティブなんだよ……
プラス思考の化物過ぎるだろ?
今日は一体なんなんだ?
いつもにも増してアグレッシブ過ぎてツッコミが付いていけないんだが…」
「だって……
だってミクは寂しいのです…
学園行事とはいえ、お兄ちゃんと離れなければいけないなんて死活問題なのですっ!」
「……なんのことだ?」
「ミクがいない間にどこぞの知らない女が、お兄ちゃんを誘惑してくるとも限らないのですよ!
お兄ちゃんは、ミク一筋だからお断りしようにもその溢れかえる優しさから、
すぐひょいひょいと騙されてしまうのですよ!
そうなったらもう、ミクはこの手を血で染めて、朱い雨を降らすしかなくなるのです。
そうなる前に今のうちから公的に手が出せないようにして…」
「いや、不穏な上不快すぎる言い回しはさておき……だからなんの話をしているんだ?」
「学校行事の課外学習なのですよ!
よくわからない山に連れてかれるのですよ!
そうしたら、ミクの眼が届かなくなってお兄ちゃんが他の女と仲良くうまum……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
~~~ 現在 ~~~
「まさか、たかだか半日の課外学習だけで、あの様でこの様とは……」
頭を抱えたくなる。
護衛難度が上がるとか云々の前に、
なぜ日常的な、ミクの動向に苦労させられなければならないのか……
しかし、ここ最近襲撃頻度の高さを考えると、無視もできない状態にある。
ハア~と一つ溜息をつき、眼鏡を直し、ミクの動向を見守る
そんな俺の元に、周囲を見てきた困惑気味に渋面のクローがそそくさと帰ってくる
「……どうした?」
「その………ご報告なのですが…
なんと言いますか、特になんでもない!と言えばそれまでなのですが…
少し厄介と言いますか…なんでこんなところに?と言いますか…」
「…?なんだ、お前にしては歯切れが悪いな、何があった?」
「いや、本当になんでなのか全く皆目見当もつかないのですが、その…
……奏也君がいます」
「………はあ?」
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