第2章【異端者】

第1話:プロローグ


「丘~をこ~え~、ゆこ~おぉYO-♪ララ~ララ~♪」




ミクのご機嫌な歌声と共に物語は始まる。

しかし、そんなミクとは裏腹に俺の機嫌は最悪に悪かった。

なぜかというと、ミクが歩く補装された道とはかけ離れた山脈地帯に双眼鏡を携え、

クローと二人、木の枝に腰をかけていたのだ。

真夏に……

真昼間に……




「なんで俺がこんなことしているんだか…」


「仕方ないではないですか。

 先日の一件があった後の校外学習の学外遠足……狙ってくれと言わんばかりのシチュエーション。

 それに今回の場合、無関係の子供達まで危険に晒される可能性もあります。

 さすがに見て見ぬフリはできないでしょう。

しかしよりによってミクちゃんを狙う集団が”紅4団”とは…

気をつけて下さい!

 何せ奴等は、世界に10も存在しないB級を超える闇ギルド…その中の一つに数えられています。

 一歩間違えると高難度を超え兼ねないクエストランクになりますよ?」


「わかってるよ。

 同じ組織にいながら種族事のコミュニティを持つ軍団。

 龍族衆『蒼天』をトップに、

 人族衆『紫電』、仙族衆『緑林』、魔族衆『黄河』で構成された闇ギルドでも頭一つ抜けた最大勢力の集団。

 だから面倒でも、こうして俺が一緒に警護に当たってんじゃないか…

 それに、今回は色々前情報があるしなっ」


「急な校外学習の現地変更。

 それを推薦したのは、一介の教師であるミクちゃんの担任…ですか」


「まあ、思い過ごしで済めばいいし……一応だ」




双眼鏡に目をやる俺を横目にし、くすりとクローは笑みをこぼす。




「一応…でこんなところまで来られるなんて……ねえ

 私は羨ましいですよ。

 貴方のことを兄のように尊敬しているが兄弟にはなれない。

 ミクちゃんのことを妹のように可愛いと思えるが兄妹にはなれない。

 そんな互いが兄妹なんですよ?

 羨ましくないわけがない。」


「なんならやるぞ、あのやかましいのを…

 大変なんだからなっ!

 うるさいし、ちょこまかと色々邪魔はするし、

 細かいところに目が行ってはグダグダグダグダと…」




と愚痴を溢しながらミク見ていると、不意にミクの視線がこちらに向く




「…お兄ちゃん?」


「…なっ?」




微かに動いた唇は確かに、自分の名を呼んだ。

一瞬驚きで双眼鏡から目を離してしまう。

すぐさま双眼鏡越しに子供達の集団に目をやるが、

先程までいたはずの場所にミクの姿はなかった。




「…任せたっ!!!」


「え``?」




何が起きたかわからないまま困惑するクローを置き去りに、周囲に冷たい風が流れる。




「…あれ?クローさん一人だけですか?」


「おわっ!??」




気付くとクローのすぐ目の前にミクが佇んでいた。




「こんなところで何をしているのですか?」


「あっ、……ああぁあああああっ!!!

 君達の警護クエストだよ。

 最近でもまだ拉致監禁だの誘拐だのが絶えないし、

 こんな山奥じゃあ、と…特に危険だろう?」


「そうなのですか?

 ありがとうございますですよ。

 でも、側にお兄ちゃんがいたような気がしたのですが?」


「んっ?ああぁああ、アレじゃないかな?

 氷に映し出された私の背中が、遠くから見て二人に見えた…とか?」




クローのすぐ後ろには、先程まで存在しなかった氷壁がそびえ立っていた。




「そ、それより早く合流しないとダメじゃないかな?

 先生も他の生徒達もビックリして探し出しちゃうんじゃないかな?

 心配を掛けたことがお兄さんにバレたら大変だと思うよ?」


「そうなのですよっ!

 お兄ちゃんにまた怒られてしまうのですっ!

 ここで会ったことは内緒にしておいて下さいです!!!」




そう言い残すと、瞬時にその場からミクの姿はなくなった。

落ちている双眼鏡を拾い上げ、覗き込むと他の生徒達に合流したミクの姿があった。

クローは大きく溜息をすると氷の壁を二度ほど叩く。




「もう大丈夫ですよ…ミライ様」




それと同時に氷の壁は砕け散り、中から姿を現す。




「いやあ、肝を冷やしましたね…」


「まさか自分の周囲に封印術を施す羽目になるとは思わなかった……

 山奥の木々で遠くまで捉えづらい視界の中で、

 2キロ以上離れて隠れている俺等を見つけるかよ普通…」


「いやはや、貴方も大概ですがミクちゃんも末恐ろしい。

 まさか、あの距離を視認するとは……」




差し出される双眼鏡を受け取り、覗き込もうとした矢先、

急な悪寒に視線を周囲へ向ける




「どうかされました?」


「?いや、何か感じた気がしたんだが……

 さっきの今だ、ミクから更に離れよう。

 今度からミクの視線も気にしながらいくぞっ」

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