第5話:襲撃

「クエストにはそれぞれ、ランク分けがされています。

 無能力者…いわゆるアンチホルダー複数人でもクリア可能なレベルのランク【E級】。

 主に採取クエストや調査クエストがこのレベルに該当し、脅威はほぼ皆無といってよい安全性の高いクエストでしょう。


 スキルホルダー最低1人、パーティに必要なランク【Ⅾ級】。

 不特定多数の生命に危害が及ぶレベルで、パーティーにおいても命の危険があるのがこのランクからです。


 スキルホルダーが最低5人は必要なランク【C級】。

 個人ではなく、村や町単位で壊滅の危険があるのがこのランクです。

 所持能力によって、人族のみではクリア不可能の領域に達しています。


 10数人のスキルホルダーが必要なランク【B級】……ここまでが例外を除き、我々大等部以下の学生が受注できる最高難度クエストです。

 ここまでくると、いくつかの街がすでに壊滅しているレベルで、選ばれるスキルホルダーも厳選された人々のみの構成になります。


 その更に先には、国家対応レベルのクエスト、国からの指名が無い限り受注できない超高難度クエスト【A級】が存在します。

 規模はスキルホルダーが最低20名以上が必要とし、数少ないギフトホルダーなどがこれに該当します。

故に15歳を過ぎるとクエストを受ける為に、強制ではないですですが必然的にギルドへの加入が必須となります。」






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「……な~んて話をされてもなぁ、俺達には関係ないんだけどなっ!

 いけてⅮ級止まりだろっ!

 クローは…まあ、今後大いに関係ありそうだが…」


「そんなことはないでしょう。

 アナタの<能力(スキル)>は後援補助系。

 戦闘はともかく、状況次第ではかなり有用だと思いますよ」


「……お前等、ほぼ無能の低能力者を目の前にそんな話してんじゃねえよ。

 実験の邪魔だろうが…」




授業が終わり、いつものように研究室に入り浸る。

俺と奏也は、同じ教授の研修生だからまだしも、

なぜか完全に関係のないクローがいるのはご愛敬なのだろう。

実際は、人族の教授で人族限定の研修生募集だった為、魔族のクローは追い出されたのだが、

通い詰めること数ヶ月、ついに教授が折れ、出入りの許可だけはもらったらしい。




「今の子供達は恵まれているよっ。

 我々の時代には、ろくな学び舎すら存在しなかったからねぇ」




カチャリと眼鏡が置かれる音と同時に背後から声がし、振り返るとそこには白衣を着た初老の男性が一人。

ゆっくりと扉を閉める彼は、アスフォード帝都大研究所所長兼、大等部の科学部門を担当する教授であり、

自分達が所属する研究室の顧問でもある……




「浮世絵教授……お疲れ様です。」


「昔は戦いが激しかったからねぇ~

 攻撃系・殲滅系の能力が重宝された時代だ。

 私の場合10年程前、かなりの年を重ねた後に能力の覚醒をしたから影響はなかったけれど、

 電気を流すことができる程度の能力なら、

 ミライ君と同じくアンダーと蔑まれるどころか、武術も剣術も嗜んでいないせいで、

 ろくにクエストにも出させてもらえなかったかもしれないねぇ~」


「ご謙遜を…

 確かに戦闘向きではないでしょうが、

 科学において、飛躍的な発展に貢献した第一人者じゃないですか?」


「俺も論文読みましたっ!

 感動しましたよっ!!!

 全くチンプンカンプンでしたが…」


「ハハハッ!

 さすがに12歳であの論文を読破されたらたまったもんじゃないよ。

 それでも私から見たら、君達は十分優秀な部類だがね。

 是非卒業後はうちの所員に欲しい逸材だよ」




教授の言葉に奏也が頭を掻き、照れる素振りをする。

立場をひけらかさず、天才肌でありながら話しやすい上司の鏡のような人である。




「あれっ?

 そういえば今日はせっちゃんはどうしたんですか?

 まだ一度も見掛けてないですが…」


「ああ、あの子は今日検査後でね…寝ているよ。

 無理矢理起こすのも可哀想だしね…」




ガーーーーン!!!という大袈裟なSEでも流れんばかりに奏也は膝から崩れ落ちる




「俺の心の拠り所…オアシスが……」


「どれだけ会いたかったんだよ?

 まじで疑惑ではなく、モノホンなんじゃないのか…ロリコn……」


「お兄ちゃ~~~~んっ!

 迎えに来たのですよ~~~」




バンッと勢いよく扉が開く。

言い掛けた言葉を止める…

この愚妹ありきの俺じゃあ言ったところで無駄…どころか油に炎か……

もうそんな時間かね?と教授が時計を見る。

帰宅を促され、仕方なく帰り支度をしていると、

その机の上に教授は新聞紙を放る。




「ニュースでまた流れると思うがここ最近、

 周辺小国や近隣の森、山などで誘拐事件が多発しているらしい。

 以前からこういった事件は多くあったが、最近は更に酷い。

 ミライ君、君のところも気を付けた方が良いよ。

 住んでいる場所も場所だが何より君の妹は、

 歴代史上最強に名高い支王真の娘にして、未知数の魔力と異常な程の膂力を持つ人界最高の能力者になりうる神童たる存在なのだから…」




浮世絵教授が心配そうにミクへ視線を向けると、それに乗るように奏也がのめり出す




「そういえば、ここいらにも見かけたことがない怪しい奴等が出入りしていたらしい…

 本当に気を付けろよっ!

 ミクちゃんみたいに、幼可愛く華憐で美少女なロリどストライクの女の子なんて、

いつ誰に狙われるかわかったもんじゃねえぞっ!」


「よかったなミクッ!

 お前を超絶過大に評価して守ってくれる旦那候補が目の前にいるぞ!」


「いくら愛しの愛するお兄ちゃんでもぶっ飛ばすのですよ……

 よく分からない、そこの変質者さんをっ!」


「えっ?

 ええええぇぇええ~オレェエエエ!?」






※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※






闇夜が世界を覆う頃、その者達はそっと姿を現した。

まだ目的の場所には近くはないが、警戒を解く程に遠くもない。

なるべく音は立てないように手信号で合図を交し合い、手頃な辺り周囲を見渡す。

二人に周囲の警戒を任せ、物陰に身を潜め、地図を広げる。

出来る限りに小さな声で三人は言葉を交わす。




「標的は女のみ、男は殺す。

 …油断はするなっ!」


「男って言ってもアンダーホルダーのガキじゃないですか。

 女もまだ覚醒していない6歳の子供…簡単な仕事ですよ」


「バカがっ、まかりなりにも勇者の血族だぞ!

 しかも身体能力は折り紙付き…内包する魔力は異常だ!

 最悪は能力を駆使した戦闘になり兼ねないんだ…気を抜くなっ!」




そんな会話をしながらも場所の確認をし、いざ強襲と立ち上がろうとした瞬間、

バタンッ!!!と二か所で重なるように何かが倒れる音がする。

慌てて音のした方へ視線を向けると、見張り番につけていた二人の仲間がその場で倒れているのを目にし、

三人は互いに背を任せ即座に厳戒態勢に入る。

辺りは静かで、風のなびく音さえ聞こえる程に穏やかだった。

そんな静寂を破るように、ザッザッと枯れた木の葉を踏み進む音がする。

そこにはなんの警戒もなく、真っすぐとこちらへ近付いてくる漆黒の衣に包まれた仮面の男の姿があった。




『支王を狙う目的はなんだ?』




何か籠ったようでいたハッキリと聞き取れるその声に違和感を感じつつも三人、

特にリーダー格の一人は動揺する素振りもなく、謎の来訪者を睨みつける




「黒帝…か……

 色々ウワサは伺っているよ。

 怪我を負ったある男が、それを隠す為に黒衣を纏い正体を隠しているのではないか…とね。

 実際はどうかな?

 勇者・支王真っ!」


『………』


「だんまりか…あるいはそちらの質問に答えればいいのかな?

 簡単なことだ、我々は優秀な存在を求めている。

 アナタの娘…支王ミクはその最たる例、素晴らしい素体だ。

 兄という一点を除いてなにものにも染められていない。

 今から育てれば我が組織”紅4団”の大きな戦力となるだろう。

 そんな彼女をこのまま野放しにはしていられない。

 早急にも軍門に下り、我々の前に立ち導く勇者になってもらわねば困る。

 これが我々の目的だがいかがかな?

 そろそろ私の質問にも答えては頂けないだろうか?」




そこまでを聞いて黒衣の男【黒帝】は「ふぅ」と小さく短い溜息を一つ吐く




『こちらとしては助かるが、襲撃において身元を明かしてくれるとは…

 末端風情もいいところだな。

 俺が出るまでもなかったか』


「っ!!!なんだ……と…?」




思わぬ態度と言動に怒り、一歩足を踏み出そうとした瞬間、おかしな現象に襲われる。

その一歩はまるで足の裏と地面が凍り、一体になっていたかのようにベキベキベキと大地を毟り取るような音を立てる。

その現象に驚愕し、もう一方足を見ると、足首の辺りまで白の浸食に侵されていた。

それぞれがそれぞれに取り乱しながらもがき、足を動かそうとするも時はすでに遅く、

足首だった浸食は膝の辺りまで進み凍りつかせていた。

黒帝を中心に大気が白い霧で覆われる。

パキパキと、大地や森一帯がひび割れるような音を立てて凍りつき、

木々や葉は無数の棘のような鋭利な形で白く色を変えていた。




「こ、これは一体…!!?」




一瞬にして極寒地帯へと姿を変えた光景。

視界が白く染まり、身体はかじかみ、吹き荒れる寒気を纏った風で、瞼を開けていることすら痛みを伴い腕で顔を覆い隠す。

その異様さにたじろごうにも足は動かず、周囲への影響は徐々に身体全体に及び、氷結の浸食が進んでいた。

冷たい風が吹き、身を震わせる。

恐る恐る両腕の隙間から辺りを見渡すと、周囲は一面銀世界へと姿を変えていた。




『すまないが、”支王”を生かしておくわけにはいかないんだ……』



吹雪が勢いを増し、高速の渦を巻く猛烈な風が5人を呑み込む。

それは時間にして10秒にも満たなかっただろうか…

弾けるようにして風は霧散し、キラキラと氷の結晶を舞わせながら空へと消えてゆく。

あとに残されたのは一帯全てが完全に凍りついた世界、

そして5人の襲撃者達が、氷でできたウメの花に包まれオブジェクトと化した姿。

その光景をぼんやりと眺める黒帝の後ろに、その青年は立つ。

冷たい風が吹くと、青年のフードが頭から外れ、

そこに隠れていた銀色に輝く髪がなびく。

藍色に輝く瞳は黒の帝を捉える。

右手には小型のナイフを持ち、ゆっくりと歩を進め近付く。




そして静かに膝を大地につけ、頭を下げた。




「さすが次期魔王に一番近い御方……感服致しました」


「頭を上げろ。

 謙虚なのは認めるが、自分を過少しすぎるのはお前の悪い癖だぞ。

 俺は魔王になるつもりは一切ないし、なれる器でも強さでもない。

 次の王には人々の期待も高い、マルチを有すお前が座るべきだ…クロー!」




黒いローブを翻し、

胸にしまう眼鏡を掛け直す。

凍り付く大地を背に、その場から歩き出す。




「ご冗談を…

 貴方様のお力に比べれば私なんぞ、比べるに値致しませんよ。

 我が王………

 支王ミライ様っ!」

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