第3話:最低能力者

かれこれ5分程続いているのだろうか…


相手は正面からこちらを睨み、剣を構え直す。

手こずる相手でないどころか、それすら恥だと相手は思っているのだろう…

鬼の形相で迫る連撃を弾き、後ろに距離を取る。

しかし、危機から回避するも胸を撫で下ろす間もなく、気づいたら目の前で剣が振るわれている…

そうなるよう攻め手に回り、手を抜くことなく攻め続けていればいずれ捕まえることができる。


………そんな風に思っているのだろうなぁ~

一見豪快に見えるが、大雑把な剣術…

こんなもの、当たってあげた方がワザとらしいくらい雑な攻撃…

皆にバレないように小さく溜息をつく。



「うりゃぁああ!!!」



当たらない剣戟に段々と苛立ち、単調な……それでいて殺意の籠った一撃が放たれる。

少しだけ、隙を見せる。

後ろに下がりながら避けていく中で、ほんの少し足を取られ、よろめいたフリをする。

すると、それを好機と切っ先を俺に向け、地面を蹴ると直線に喉元めがけ突きを繰り出してきた。

殺す気満々だな…

その突き出された剣による一閃を左に捌くと、左腕をその剣へ巻き付け、肘を軸に使ったテコで相手から剣を奪い取る。

一瞬でも見誤れば、腕が斬り裂かれるであろうタイミングを制し、

その反動で体勢を崩した相手の首元へ右手に握り締められた剣をそっとあてがう。



「まっ……まいった………」


「そこまでっ!!!」



学園が用意した、鍛練及び大会の為の闘技場…

審判の合図と共にオオォォオ!とその場内に歓声が響き渡る。



「すげー!今の何をどうしたんだ?」

「剣を捌いた…のか?でも相手の武器を奪っていたよな?どうやればあーなるんだ?」

「カッ…カッコいい///」



そんな感嘆の声が上がる中、ダンッッッ!!!と場内に響く程の踏み込み音がする。

「あーあっ、負けた負けたっ!!!」と相手は大袈裟にアクションを取ると、去り際に言葉を続けた。



「全く…<能力(スキル)>の使用さえ認めてもらえれば”こんな奴”に負けるはずがないのになぁあああ!!!」



その言葉に、一瞬場内が静まり返る。

そして中傷の笑いとともに、皆がひそひそと囁く。



「ま…まあ、そりゃあなぁ~」

「剣の才能があってもねえ~…」

「優秀な妹を、学園に入れる為の条件…だっけ?」

「この学園で能力不使用戦は確かに……」

「だってアイツってあの……」



その見下された二つ名も聞き飽きてしまっていた。

眼鏡を掛け直し、ゆっくりとその場を去る。



「だってアイツってあの……”アンダーホルダー(最低能力者)”だからなっ…」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



サービスショット?

いるのか、これ?


実践訓練と評した見せしめの後、次の授業の前に流れる汗をシャワーで流す。

まあ、実際汗なんて特にかくような戦いですらなかったけど……


ハアハア(*´Д`)


シャワーヘッドを上にセットし、顔からシャワーを浴びていると、何か聞き覚えのある吐息が付近で聞こえた。

そのままシャワーの射線から少し顔を外し、眼を開けてみると、

天井の板が外れ、そこから愚妹であるミクの顔が覗き込んでいた。



「ハアハア……かっこよかった………お兄ちゃんの……ら・らららららら裸た……///(*´Д`)」



その姿を確認した瞬間、スッと真上へ飛ぶと物凄い勢いのアッパーをミクの顎へとクリーンヒットさせる。

ズドンッズドンッズドンッッッ!!!

と何枚かの壁が吹き飛んでいく音がし、周囲の個室がざわついたが気にも留めず、

外れた天井板を元に戻し、タオルで髪を拭きながら俺はシャワー室から出て行った。



「まぁ、ここでは世界に数種類ある能力…

 すなわち特定の特別主だけが持つことを許される<恩恵(ギフト)>と、その他全てを総称した<能力(スキル)>の2つが存在します。

 もっと厳密に表すなら<恩恵>を頂点に、

 魔族の攻撃型能力、仙族の守援型能力、そして我々人族の強化型能力の4種。

 覚えておいて下さい。

 この区分けはテストに出ますよぉ~!」



統合都市王都:アスフォード

世界を支配する力を持つ4つの種族。

龍族・魔族・仙族、そして人族がなんの隔たりもなく生活をする世界唯一の王宮都市。

その一角、統合都市学園街にある能力者を育てる学園、アステラ学園に俺達は通う。



「数多の種族がいる中で、覇権を握る位置にいるのは4種。

元々歴史において龍・仙・魔の三竦みと言われ、幾度となく戦いを繰り広げてきましたが、実際の内訳は少しややこしいです。

 龍に対し、仙と魔が共闘状態で戦いを挑み尚、龍が上回るほどの構図でした。

 ただその差は大きくはなく、均衡状態にあった時、人族の介入がありました。

 それにより大きな戦い、 ≪種族間大戦≫ が勃発することになるのですが、

 ここで問題になるのは、とある人族の出現により現状において仙と魔、そして人が共闘した場合、

 膨大な被害を度外視すれば、龍を制圧する形で大戦を終結させることが可能になったということです。

 そしてその人族は、それを踏まえた上で、うまく立ち回り、タイミングを見定め、交渉を進め、今の平和同盟が結ばれたわけです。

 それがつい6年前になります。」



ふぁあ~~~と、一つ大きな欠伸をした後、窓際特権で外へと眼をやる。



「とはいえ、世界の人々は他種族に対する恐怖は残り、大戦が終結しても猜疑心は消えませんでした。

 そこで魔王は、その年行われた第一回頂上会議にてその人族と以前より話を詰めていた、全ての種族が集まる統合都市計画を立案し、

 その絶大な力により、この場所に統合都市王都アスフォードを創り出しました。

 しかし、そのキッカケとなった人族は、最後までその頂上会議には出席せず、今も姿を消した状態にあります。

 その人族こそ何を隠そう、現在の勇者にしてそこにいる支王ミライ君の父君、支王真なのです!」



皆の視線が俺に集まる。

外へ向けた顔を、黒板へと向け直し、眼だけで周囲を見渡す。

嫌な視線が集まっている…



「アイツが…勇者の子ねぇ~」

「確かに真様の剣を持ってるし、剣術は多少評価できるかもしれないけどねぇ~」

「それだけだよなぇ~!この学園がなんの学園かご存知なのかねぇ~?」



嘲笑の声が教室内に響く。

新任の担任もあたふたとするのを横目に、また外へと眼をやる

普段から、あまり好ましくない視線に晒されることは多いが、教室でまでは勘弁願いたい。

相も変わらず毎度毎度、人をコケにするのが楽しいものなのかね…



鐘の音と共に授業が終わり、机の上にある教科書やノートを片付け、カバンへしまう。



「やぁーやぁー!

 今日も色んな意味で大いに目立っていたな、勇者の息子君っ!」


「その言い方はやめなさいっ!失礼でしょ?」



五月蠅い輩と生真面目な輩が、俺の机に集まる




歌方 奏也

気さくを絵に描いたような性格でかなりフランク。

遊び人気質で何かと周囲を気にし、

可愛い子を探し当てては声を掛けるなど、軽い男のレッテルを貼れる限り貼りつくした悲しい男。

同じ研修グループにおり同じ教授から教鞭を受けている。



クロムハーツ・ディスキャバリー

愛称は『クロー』

銀髪藍眼、整った容姿で魅力値は爆裂に高く、カリスマ性、人間性、どれをとっても高水準にあり、

大抵の物事を卒なくこなすクラス委員長。

丁寧な口調で魔族でありながら他種他者への配慮を怠らず、下位に等しい人族でも平等に接する良心の塊。

しかし、こと戦闘に至っては世界でも稀なマルチスキルを駆使し、場を支配する魔族の中でも一目置かれる存在。




「魔力値が少ないせいで能力を発動できず、能力者としては不出来…

 勇者の息子としては凄まじく不憫な人生を歩いておりますなぁ~」


「そう思うなら関わらなきゃいいだろ。

 お前等くらいだぞ、好き好んで俺に近付いてくる物好きは……

 目を付けられても知らんぞ」


「私は、クラスをまとめる者として、同じクラスの方を気に掛けるのは当ze…」


「俺は物好きの変わり者好きの……そんでもってお節介なんだよっ!

 それに何ていうかな…俺の眼が囁くんだよ。

 『コイツは只者じゃないぞっ!』ってな!」



堅苦しいクローの言葉を遮るように、奏也が自身の瞳を指しながら答える。



「お前の”眼”にそんなもの見極める力はないだろ」


「大体、お前が【最弱】扱いっていうのもどうかと思うけどなっ。

普通に戦えば俺なんて、すぐにやられちまうし…」


「そりゃあ戦い方次第だろ。

 お前の能力獣眼(ワイルドアイズ)なら、視力・視野力の強化で半径1km圏内ならそのほとんどが見渡せる。

 ライフルの一本でも担いで遠距離射撃でもされれば一たまりもない。

 それに…」



最弱の能力者、ここがちょっとした矛盾のポイントであり、別に強さにおいてはそれほど弱いわけではない。

剣戟戦においては先の戦いの通り、それなりの実力を見せることができるし、それゆえに学園にも居られる。

ただし、”能力者でありながら能力が使えない”ことは、学園においても想定外であり、そこからこの名がつけられた



「さっき奏也が言ったように、俺の魔力値じゃあ最弱呼ばわりされても仕方ないだろ。

 能力者を育てる学園で、能力に目覚めているのにも関わらず、

 発動魔力値に達していないせいで、能力発動ができない。

 そのせいで能力の詳細もわからない。

 能力を使うスキルホルダーでも、能力に目覚めていないアンチホルダーでもない。

 なら”アンダーホルダー(最低能力者)”って呼ばれるのは妥当だ。

 むしろそのまま【最低】呼ばわりされないだけまだ良いさ。

 その呼び方だと俺の人格が最低みたいだしなっ!」


「それは周りから最低呼ばわりされている俺への当てつけか?

 あれは俺が悪いんじゃなくて、魅力的なバディーと色気を醸し出す少女達が悪いっ!」


「その思考が最低ですねっ…」


「その思考が最低だなっ!

 能力を悪用しているお前が120%悪い」



ケッと不貞腐れるように机に肘をのせ、ブラブラと危なっかしく椅子が上下する。

学園入学基準ではまず、能力覚醒の可能性のある者や高い身体能力、今後に期待される10歳以下を小等部。

10歳から15歳で能力に目覚めていた者は進学し、中等部。

15歳から18歳で学業以外にも学外での活動も義務化され、ギルドに所属し社会に貢献する大等部。

18歳以上で学園学外で高い評価を得ており、所属を学園とするも基本的にクエストをこなす特等部と分かれている。


ミクはまだ能力に目覚めていないまでも、高い膂力と異常な魔力量から学園側より使者が訪れ推薦の元、入学した。

そして、その推薦を受ける条件が俺の入学許可だった。

学園も能力の発動ができない12歳の俺の中等部入学を渋ったが、ミク獲得のためと一応の能力覚醒自体はされていること。

そして何より、俺がかの人族勇者にしてこの学園創立のキッカケを作った支王真の子供であり、

その真から推薦状を受けていたこともあり、学園は渋々入学を許可した。

納得のいかない顔をしながら奏也はジト目で俺に視線を向け直す。



「まあ普通、能力の覚醒はその人それぞれにあった能力に目覚める。

 それを考えたら、魔力をほとんど持たないお前はアンダーよりアンチのはずなんだがなっ。

 不幸にも魔力量のせいで能力が使えないだけで、一応能力者ではあるからなっ!

 俺なら居心地悪くて辞めちまうよっ!

 やっぱりアレか?

 お前と一緒に入学した”神童”の為か?」


「妹のことか?なんで俺がアイツの為に…

 大体、俺がバカにされるほぼ9割は、アイツを引き合いに出されるからなんだぞっ!」


「おおっ、聞いてはいるが、やはり妹ちゃんの噂はすごいね~!

 まだ能力に目覚めてすらいないのにあの膂力は異常だからなっ!

 それに、事前に能力や魔力を視る《異眼 (スキルアイズ)》ですらも測定不能の未知数……

 視た奴が度肝を抜かして、前代未聞と評価したレベル。

 能力に目覚めてないのにスカウトされ、特待で入学してるし、今後の期待値が高くもなるわっ!

 …ってか妹ちゃんは良いが、息子がこんな扱い受けてるのに、お前の親父は何をしてるんだ?

 現仙王との和平交渉成立に始まり、現龍王との同盟確約、

 現魔王の討伐及び同盟確約と異常なまでの偉業を成しながら、その後姿を眩ます始末。

 噂じゃあ死亡説なんかも出ているが、

 魔王の進言と、数年前から同能力を使う黒い仮面を被った男が出てきていることから、勇者本人じゃないか?って世間では言われている…が……

 実際はどうなんだ?」


「アイツの現状なんて知るわけないだろ?

 小さい頃に会ったっきりだし、手紙が来たかと思えばこの学園の推薦状だけだったしな。」


「皮肉なものだねぇ~、片や妹は学園からの推薦、片や兄は伝説の勇者からの推薦…

 なのにこの扱いの差はなんなのかね~」


「こらっ、奏也君っ!

 失礼が過ぎますよ。

 人それぞれに事情というものがあるんですから…」



クローに横やりを入れられ、やれやれと大袈裟なアクションを取り、鞄を背負い帰る合図をする



「しかしなぁ~、俺は感じるんだよなぁ~!

 類まれなる剣術に回避性能、能力以外では勇者と遜色ない実力…

 だけどそれ以外にも、お前がまだ何か隠しているように見えるがなぁ~」


「……買いかぶりすぎだ。

 良い眼を持っている割に人を見る眼はないな」


「そんなことはないさ!

 それにこの眼はいつだって、俺が本当に見たいものを映してはくれない」


「で、お前の見たいものってのは?」


「おにゃにゃの子のはda…」


「言わせねえよっ!!NGワードだっ!!!」


「最低ですね…」


「聖人ぶってんじゃねえ!

 男はいつでも貪欲な獣なんだよ!

 クローもクエストよく行くんだから、可愛い子見つけて紹介してくれよ!

 タイプはそうださな~、青髪短髪の女の子っ!

 将来を見越して子供でもいいぞ!

 なんか可愛い娘いなかったか?

 どっかの森とかで彷徨って困っている天使のような娘はいなかったか?」


「発想が魔族より魔族ですね。

そんな非現実的なシチュエーションに早々巡り合うわけないでしょ!」


「不毛な………まあ、万が一偶然、宝くじが当たるような確率でそんな子がいたら声くらい掛けてやる」



そんなどうしようもない会話をしていると、突然バンッと大きな音を立てて教室のドアが開く



「あう~、やっとお説教終わったのですっ!

 お兄ちゃんっ!!!

 ミクのこと、待っててくれたのですねっ♪」


「ほら見ろっ!

 お前等がグダグダしてるから、ヤバい奴が来ちゃったじゃねえかっ」



物凄い勢いで足にしがみつこうとするミクを蹴っ飛ばすと、

ナイスキャッチと言わんばかりに奏也が両手で掴まえる



「あぶねえだろうが!

 こんな小さい女の子になんてことしやがるっ!!!

 安心していいからねぇ~ミクちゅあぁぁあああん♪

 俺はいつでもミクちゃんの味方だから…ねえ~♪」


「ほら、このよく分からない男の人も、ミクのこと応援してくれているじゃないですかっ!

 この知らない変態さんのように、もっとミクに優しく接するべきなのですよ…この怪しい変質者さんのようにっ!!!」


「……俺、もうミクちゃんとは20回以上会ってるはずなんだけど…」



残念だったな奏也

お前はロリに興味があっても、ロリはお前に興味がないらしい

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