【第3回 エイル&クロノヒョウコラボ企画】 神様の贈り物

「今日、ピアスを買ったの? いま付けているやつだよね。綺麗な青……」

「ありがとう。十二月の誕生石なの。ターコイズ。

 クリスマスパーティーにちょうど良いでしょう?」

「そう言えばユキ、今月が誕生日だったね。

 知ってる? ターコイズって、『神が宿る石』と言って魔除けの力があるのよ?

 何かあったら貴女を護ってくれるのよ、きっと」

「レイア、今向かっているのは教会なのよ?

 悪いことなんか起こりっこないわよ」


 そう言って二人はころころと笑い合う。

 彼女達が向かう先は、山の中腹にある大きな木の隣の小さな教会。

 その大きな木は華々しい電飾で装おわれていて、夜空を輝かしく彩る。


 今日はクリスマス。

 小さな教会で催されるクリスマスパーティーに参加するために二人でバスに揺られていた。


***


 純白の小さな教会の扉を潜ると人が溢れかえっている。

 中央には様々な料理と飲物。傍らにはチョコレートファウンテンやソフトクリームサーバー、ポップコーンメーカー等があり、見た目にも楽しいスペースになっている。


 地方都市の辺縁にあるこの町は海外企業支社があり田舎町にしては欧米人が多く、小なりとはいえ教会と外人墓地がある。

 そこの神父様が、クリスマスが近づくと豪勢に電飾を使いクリスマスツリーを飾り立て盛大なパーティーを開催するのだ。


 今日はクリスマス。


 神父様はこの時のためとばかりに張り切って準備をされてきた。

 今はその開会の言葉を待つばかり。


「やっとパーティーも始まるわ!」

「神父様が登壇されたわ。でも、何か顔色が悪いような……?」

「とても張り切って準備されていたそうだから。

 いよいよパーティーの始まり――え?」


 今まさに宴の始まりを宣言をしようとした瞬間に神父様はそのまま床に倒れ込んでしまった。

 慌てて駆け寄る皆、救急車を求める声。

 聞こえてくる声を整理すると、神父様が今日の昼間、裏の墓地で腕を怪我されて、顔色もずっと悪かったとか。

 準備中は必死だったけど、開始の宣言で気が抜けて力尽きた?


 人で一杯の神父様の周囲から突然、男の悲鳴が響き渡った。

 更に、女性の悲鳴。男性の悲鳴。徐々に数を増やし悲鳴は続く。


「どうしたの、一体?」

「見て、あの集団が慌てて逃げて――え?」


 中央の人達が出口の方を向いて一斉に走り始め、その後ろから見えたのは――土気色の顔をした人達!?


「ユキ、私達も逃げるわよ!」

「え? でも、何が起こって?」

「わからない! でも、ゾンビって声が聞こえる!

 噛まれた人もゾンビになるって叫び声が聞こえるわ!」


 阿鼻叫喚。

 その名の通り、聖夜は地獄絵図で塗りつぶされてしまった。


「レイア!」


 親友の名を呼ぶが、もはやいつもの彼女はそこにはいない。

 歯をがちがちと鳴らし、土気色の顔をした存在。


「助けて!!」


 もはや数えるほどしか残っていない正気の人間。

 ユキは助けを叫ぶ。

 次の瞬間、両耳のピアスが青白い光を放ちゾンビは一瞬動きを止めた――ように見えた。


 この隙にユキは窓から飛び出す。

 振り返ると、小さな教会から次々と出てくるゾンビ達。


「何かないの!?」


 教会の脇に軽トラックがあり、慌てて飛び乗る。

 急ぎエンジンを回し、アクセルをベタ踏み。

 軽トラを走らせ敷地外を目指す。

 しかし門の外にはすでにゾンビが先回りしているのが見えた。


 慌てて脇の門から外に出る。

 下る方向にゾンビの大群、ならば山道を登り隣町へ!


 悲しいかな非力な軽トラ、荷台も満載なこの車はベタ踏みしても上り坂の速度は期待できない。

 焦る気持ちを抑えてバックミラーを覗くと――


「嘘でしょう!?」


 ゾンビ達が走って追いかけてくる。軽トラに負けない俊足で――!!


 崖下の教会を見ながら大きく湾曲する坂道を走る。

 しかし車窓の外に追いついたゾンビの顔が見えて。


「きゃあっ!?」


 反射的にハンドルを切り、坂道から外れ崖下に。


「嘘!?」


 ゾンビ達の襲撃から逃れるも、軽トラは教会の上に向かって落ちて……


 ガンッ!!


 大きな音を響かせ、電飾で覆われた木に突っ込む。


 バヂヂヂヂッ!


 電飾がショートし軽トラに青白い火花が飛び散るのを見ながら、ドアから放り出されたユキは地面に向かい落下して行った。


 どさり。


 奇跡的に木の下に敷かれた藁に落ち死亡は免れた――が。

 全身打撲。痛い。もはや指の一本を動かすことも難しい。


 周囲の徘徊ゾンビが私に気づくのも時間の問題。

 ここまでか――。


 その時、滲んだ視界の端にちらりと落ちる白い影。


 雪かしら?


 ほたり。ほたり。

 彼女の頬を軽やかに打つそれは、白く、軽く、温かい。


 その正体を知り、疑問が出てくる。

 なぜ、こんなところに、こんなものが?

 顔を上に向けると、未だに火花を散らし続ける軽トラ。

 その荷台から落ちる白い粒。


 そうか……原料が積んであったのね。それが電気で弾けて。


 こんな時だけどクスリと笑みがこぼれた。


 神様、お願いします。

 どうか、あなたの慈悲で私を覆い隠してください。

 その祈りと共に彼女の上には雪じゃなくてポップコーンが降り積もった。

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