4,白うさぎ ― アルビナ

#17 ナッツとアルビナ


 アルビナ――――“白い少女”という意味の、それが私の名前。私だけを指す名前……

 それは人の名前というのはあまりにも乱暴で、理解を拒んで突き放したような……そんなおかしな呼び名。

 けれど、私の一番古い記憶の中でその名前を呼んでいた声は、とても温かくて優しかったのをよく覚えています。その人がそうやって呼び続けていたからこそ、きっと私はこの世界に生まれる事ができたのだと、私は心の一番深い場所で理解していたのでした。

 だから、この名前に良い意味など見当たらなかったとしても、私はこの名前が好きでした。アルビナと呼ばれる事に安らぎさえ感じていられたのです。


 ……それなのに、

「さすがに“白うさぎ”はあんまりだと思います」

 喧嘩の末にそう罵られたのが今朝の話。その怒りは、お昼を過ぎる頃になっても収まりませんでした。

 結局其れらはいつものように、その日のおやつである干菓子と、そこに同席したリュシケとその子供に向けられる事で発散することになるのでした。干菓子の残りは三つ。私はそのうちの一つを手に取り、早口に噛み砕きました。

「あはははは、ホントだ巫女様白うさぎだー!」

「そうね」

 ところが同情を示してくれるかと思っていた当の二人は、私が干菓子を食べる様を見て大笑い。理解者である筈の家族にすらこんな反応というのは、怒りを通り越して寂しささえ感じてしまいます。

「二人まで笑うことないではありませんか……私真剣なのに」

「真剣に、そうしていつも喧嘩してくるわけね。向こうは軽くあしらってるだけでしょうけどね。ごちそうさま」

 腕の中で二人目の子供をあやしながらリュシケ。相談に乗ってくれる様子なんか少しもありません。干菓子にも手をつけない為、本当にただ聞いているだけでした。確かに、既に結婚して子供もいるこの人にとっては、私の喧嘩など大した問題ではないのかもしれません。

「よくまぁ、そんなにしょっちゅう喧嘩してこれるわね。私だったら身がもたないわ」

「……ナッツが意地悪なんですよ」

「ナッツ兄ちゃん、いっつも優しいよ?」

「騙されてはいけませんよ、ロノン。あの人の事だから、あなたの名前だって憶えているかどうか、怪しいものですよ」

「フフフ……」

 私とロノンのやり取りを見て、リュシケが不思議な含み笑いをしました。私とロノンがそれを奇妙に思って彼女の方に目を向けると、リュシケは手を振って「気にしないで」と言い、こう続けました。

「確かにそうかもね。ナッツは昔から他人の事となると疎かったから。二年も同じ村で暮らしてるのに、私の名前だって覚えてくれてなかったわ」

「えー……」ロノンが引いてます。

「それに、目上の人にでもよく突っかかっていくけど、小さい子供とか、女の子とか、そういうのには優しいのよ。名前だって憶えないくせにね」

 でも私には意地悪です。

「……わ、私、もしかして女として見て貰ってないのでしょうか?」

「そ・れ・は、ナッツが男の子だから。気になる女の子には、意地悪しちゃうものよ」

「どうしてですか?? 何故そうなるのですか??」

「さぁ。でも、お父さんもそうだったしね~?」

 リュシケはロノンにそうして同意を求めましたが、今年ようやく六歳になるロノンには解るはずがありません。ロノンは訳も分からず目をしばたかせてから、取り敢えず頷いておくのでした。この子の悪い癖です。

 私はというと、疑問符がやっぱり消えません。

「……どうして結婚したのですか?」

「酷い言い方ね」

「私だったら、意地悪されるのは嫌です」

「じゃあ、別れる?」

 他人事のように笑いながら、リュシケが言いました。リュシケも、少し意地悪です……私がそうできないのを知ってる癖にこうしてからかってきます。ふっと笑みと嘆息の入った息を零すと、言葉を続けます。結婚するに至った経緯を。

「プロポーズの時はすごく真剣だった。まるで別人みたいに、おふざけも一切ナシ。その時ね、思ったの。この人となら、幸せになれるかもしれないって。……そう、きっと意地悪するのもふざけてるのね。こっちは会うときにはいつも真剣なのに、男の子は鈍いし好きな子相手に浮ついちゃうから、そういうのが解らないのよ。ロノンはそんな男の子になっちゃ駄目よ」

「うんわかった」

「……適当に返事してはいけません、ロノン」

「ふい??」

 絶対解ってないですから。リュシケもリュシケです。同意を求めればロノンが頷いてくれるからって、そうして味方を増やそうだなんて。

 ……いえ、別にリュシケは敵ではありませんけど。むしろその経験を参考にさせてもらうべきなのでしょうけど……

 リュシケは私の本当の家族ではないけれども、十年前の儀式のせいで記憶を無くした私の面倒を、ずっと見てくれている人です。随分前に結婚して家庭を築きましたが、容態の落ち着かない私を放り出すわけにもいかず、旦那さんに相談して家族の一員として一緒に暮らす事になりました。リュシケは簡単にそう話し、夫の方も今でこそ気にする様子など見せませんが、当時はその事で随分と揉めたのだと、人づての噂で聞いたことがあります。

 そんなわけで、リュシケやロノンとは本当の姉や弟のように暮らしています。本当に、彼らが私の家族なのです。いつもこうしてナッツとの事を相談したりもするのですが、……不本意ながら彼女にとって私とナッツの喧嘩は軽い娯楽の一種となっているようです。

「ナッツもそうでしょう? あれでいて、いつもあなたのことで頭いっぱいなのよ」

「ナッツはいっつも意地悪です。優しいのは……」

 そうして思い返そうとすると、意地悪な表情は浮かばず、ふとした瞬間に見せる穏やかな笑顔ばかりが目に浮かび、なんだか恥ずかしくなりました。私は慌てて言葉を取り繕いました。

「時々……ほんとに時々です」

「時々、ね…… そう言いながら、ナッツが出かけた後にはちゃんと掃除したり片付けたりしてるんだから、不思議ね」

「そ……それは、あの人片付けないですから。ごちゃごちゃしているのは私も嫌ですし……」

「本当に、片づけないのよね……」

 自身も何度か片づけに行った事があるリュシケもしみじみと嘆息し、しょうがないというように肩を竦めます。

 ナッツの場合、不潔とか片づけられないとか、そういうそういうことではないのでしょう。彼も仕事で使う道具の手入れや整理、それらをまとめた書類や木札の整理はしっかりしています。しかし、仕事の部分をしっかりやった結果、それ以外の部分がおおよそ後回しになっているのです。具体的には部屋の掃除、不用品の処分、衣服の修繕、家具や部屋の破損部分の補修、採取物の管理など。中には私が関係しているのものもありますが、それは置いておいて、……特に採集物関係は酷くて、干した肉や取ってきて一日経った山菜、果実などが部屋のあちこちに放り出されていたりもします。なんというか、狩ったり取ったりした後は一気に興味を失ってしまったかのように。これでいて新しい採集用具とか罠とかを考えている時はどことなく楽しそうなのですから、不思議で仕方ありません。

 そんなわけで、私が彼の部屋を訪れてはその辺を片づけて、そしてそのまま一緒に夜食に与るのがここ一年程の私の生活習慣となっています。ちなみに食事を作るのはナッツで、時々リュシケも料理を持たせてくれます。わたしは……どういうわけか道具をよく壊すので、……その、練習中です。

「自分の部屋じゃないくせにね。ロノン、あーいうのを、“押しかけ女房”っていうのよ」

「ふーん。おぼえた」

「覚えなくていいんです。リュシケだってよく片づけに行ったり、ナッツに料理作ったりしてるじゃないですか」

 私が不満そうにそう言うと、リュシケは私の頭を優しく撫でてくれます。

「あなたがいて、本当に良かったわ」

「それはどういう意味で言ってますか?」

 リュシケ、ロノンの親子が声を揃えて笑い出します。ロノンは、母親に釣られてるだけですが、私はなんだか二人からからかわれているような、そんな気分になりました。




 リュシケと話しているといつも話題に上がる、ナッツという人物。彼がどういう人なのかというのは、一言では言い表すことなどとてもできません。

 黒の中にまだらに白の混じる髪は、長くもなく、短くもなく。直線より曲線の印象の強い目は吊り目で大きい、まだ少年の面影を残す幼顔。しかし普段の瞳は笑うこともなく見開かれ、唇も引き結ばれているので、ともすれば機嫌が悪いのではないかとも見えますが、私はその表情が意地悪に歪むのも、知己に会った際の安らぎに微笑むのも知っています。

 仕事には熱心なのに、普段は何処か冷めていて、いつも一人で関心が無さそうに、……あるいは、静かな憎しみの籠もった目で、この村の人達を一歩も二歩も離れた所から見つめている、少しだけ怖い印象の人。

 私にとっては、リュシケと同じくらい大切な人。そして、きっとこれからもっと大切になっていく人。記憶を無くしてどうしようもなかった頃、リュシケと同じように……いえ、それ以上に私を心配してくれた人。……でも、私の八年の記憶にある彼はたったそれだけ。

 真実はもっと複雑です。周りの人が言うには、以前から私とナッツは惹かれ合っていたのだといいます。私の記憶はある出来事をきっかけに失われてしまいましたが、それ以前の私は、この村に来たばかりのナッツと一番親しかったのだと。噂のほとんどは憶測ばかりで、詳しく知っている筈のリュシケや、ナッツ本人でさえ、その時のことには口を閉ざし教えてくれませんが、きっかけとなった出来事は、このラティエではひと騒動になったそうです。

 何でも、ナッツはラティエに来た当初は森の外にある帝国のスパイで、それが発覚した時には生かすか殺すかの恐ろしい相談で随分と揉めたのだとか。……耳に入る噂話では、この程度しか解りませんが、口を閉ざす理由にはみんな同じ事を言います。

「もう昔のことだから」

 そうして皆がその事に蓋をしてしまいました。……私の過去も含めて。確かに、八年というのは辛いまま抱え続けるにはあまりにも長い時間です。

 勿論、そんな過去の事を抜きにしても、私はナッツが好き。彼と会う日は一日だって欠かしたくはないし、会えない時には彼のいる森を眺めているだけで、いつの間にか時間が経ってしまいます。一緒に居るときには喧嘩もよくしますが、抱きしめられたときには、まるで自分の身体の一部がそこにあるように彼の熱を感じられます。彼に名前を呼ばれるだけで、記憶が無くて曖昧な“アルビナ”という存在が確かなものになっていくような気がするのです。さすがに浮ついていると思われそうですが、きっと私は彼を好きになる為に、彼に寄り添うために生まれてきたんだと、そう思うことすらあります。

 ですが、その想いの根源は今も私の記憶の中に眠ったまま。その事に私は、後ろめたさのような、複雑な気持ちを抱えずにはいられません。

 ナッツは知っていて、私は知らない過去。私が思い出すことができないまま抱えている想いの原点。それが、何だか私とナッツの間を大きな溝となって隔てているような気がしてならないのです。

 小さな出来事ですが、時には忘れてしまった過去の事が耳に入ることがあります。ですが、私の感情がそれに引っかかりを覚えた事は一度としてありません。代わりに、思い出せない事への言い知れぬ不安ばかりが増していきます。この溝を越えようとすれば、それはさらに広がってゆき、私を暗い谷底へと引きずり込んでしまうのだと、そんな曖昧な恐怖がありました。みんなが口を閉ざすのは、この溝を越えようとすれば何処までも落ちてしまうというのを解っていて、警告してくれているのではないかと、時々そんな風にも思うのです。

 ナッツは何も教えてはくれません。やはり「もう昔のことだから」なのでしょうか? それとも、これもいつもの意地悪なのでしょうか? リュシケが言うように、「ふざけているだけ」なんでしょうか?

 ナッツ……私は……



「例えどんなに喧嘩したって、ナッツにとってあなたは特別なのよ」

 リュシケが不意にそんな事を言ってきました。

 皿の干菓子も無くなり、ロノンが「あそびにいってくる」と飛び出して行ったのを合図に午後のお茶会がお開きになった、その後。その片付けも終わり、リュシケの一番下の子もいつの間にか眠りに就いて、私はそろそろ帰ってくるナッツを迎えに行くために家を出ようとした時。「好きな子の所に行くなら、もっとしゃんとしなきゃ」 そう言ってリュシケは私を招き寄せて髪を編み直してくれていました。

「ナッツも私を好きということでしょうか?」

「好きっていう以上に、特別なの」

 彼女の言う事が、溝の向こうの出来事なのだと直感して、私は何も言えなくなってしまいました。

「分からない?」

「……はい」

「うん……例えばね、あなたの本当の両親はもう生きてないけど、代わりに私達がいる。ナッツも一人で外からやって来たから、血の繋がった家族は居なかったの」

「でも、養父のエシンさんがいます」

「今は一人で暮らしてるわ。それにエシンさんと住んでた頃もね、喧嘩ばっかりで全然仲良くはなかったのよ。あの人は本当に全然村に馴染まなくて」

 つまりそれは、見知らぬ土地にやってきてたった一人だったということ。人間側のスパイだったという、重い過去もありましたが、それでも……

「私だったら耐えられない」

 答えは、先にリュシケが口に出しました。握られた櫛がまるで心を無くしたかのように、何度も何度も、私の真っ白い髪を通っていきました。

「それでもここに留まったのは、きっとあなたが居たから。一人ではなかったの」

「家族だったのですか?」

「勿論一緒に住んでたわけじゃないわ。だけど、支え合ってたんだと思うわ」

 ……その出来事もやはり、私の記憶から浮かび上がることはありませんでした。俯いてしまった私の頭を、リュシケの手が優しく持ち上げました。

「ほら、顔を上げて。そりゃあ、ナッツにとって唯一心の許せる人なんだから、意地悪だって言うと思う。そういうのってね、本当に嫌いなんじゃないの。あの人が本当に嫌いなときはね、ほんの少しの憎悪と一緒に突き放してくるの。そういうのは、全然違うって分かるわ」

 憎悪。そう言われて私は、ナッツが村のみんなを見る時の冷たい表情を思い出しました。

「そのくせ好きな人の事になると真剣で、それに自虐的。隣から見ていて辛いくらい」

「……よく、分かりません」

「そうね。あなたは愛されてるもの。男の子って見栄っ張りだから、好きな人には平気で嘘を付くのよ。………さ、おしまい。みんなそろそろ戻ってくるわ。行ってらっしゃい」

 結び終わった髪の房を離し、いつもの頭巾を被らせると、リュシケは静かに微笑んで、背中を押してくれました。

 私はその笑みに何も言えませんでした。ですが、家の扉をくぐるその直前に、意を決して振り返りました。

「――――どうして、そんなにナッツの事を知っているんですか?」

「ずっと見ていたもの。それにナッツに嘘を付かれたことなんか無いから」

 その時、初めてリュシケの優しい微笑みが、寂しそうな影を宿している事に気が付きました。それっきり、リュシケは台所に向かい、決してこっちを振り返ろうとはしませんでした。

 気が付けば、私は「行ってきます」の言葉すら忘れていました。

 暮れ始めの空。仕切り幕を除けて外へ出て初めて、この部屋の中に光が届いていなかったことに気が付きました。





 ナッツのこの村での役割は、一言で言ってしまえばこの森とラティエを森の外の帝国から守ることです。その為に彼は、長老様から相応の立場と権限を与えられていました。例えば、森の外へやって来る商人との交渉も、ナッツが守備の任に付く前と比べると、随分変わったといいます。……具体的に何がと聞かれれば私には答えられないのですが、簡単に言うと情勢を知ることで出費を切りつめ、浮いた費用で村を守るのに必要な物を仕入れるようになりました。

 普段の彼は、狩りや採取の為に森に入っていく男達に混じり、森を見回るのと同時に罠を仕掛けているのだそうです。それは私が知っている範囲だけでも随分と効果を上げていて、人間達がこの村の場所を知るために送られた斥候達を何度も撃退しました。その時、撃退を知って浮かれる男達の中で、ナッツだけが舞い上がることなく厳しい目で冷静にしていたのが、私にはとても印象的でよく覚えていました。

 ……元々人間側に居たナッツだからこそできることでしょう。ですがそれは、妖精族の末裔として生きようとするルフェ達とは、手法を大きく違えていることも事実で、かつては人間の手先だったナッツを認めようとしない人達もいましたが、そういう人達も結局はナッツが上げた成果を認めざるを得ないのです。

 立派だと思います。私が想い続けてやまない大切な人は、そんな立派な人。みんなが一斉に帰ってくる時間になってもなかなか現れず、あちこちを確かめながら必ず一番最後に帰ってくる頑張り屋さん。だから、いつも一番に労ってあげようと決めているのです。

「おかえりなさい」

 夕方の彼は、決まって寝起きの時とは違う鈍さがあります。フラフラという程ではないけども、力の抜けた足取りで、背の重い荷物を運んでくるのです。

 いつもなら、森を見回るついでに採取や狩りなんかも同時に済ませてしまうのですが、今日は少し遠出をしていたのか、採取の為の籠はほとんど空でした。それが今日の彼の足取りにははっきりと出ていました。

「ただいまアルビナ。……あー、悪いが今日は二人分作ってる余裕なんかないぞ」

「はい分かっています。朝掃除して、グムもハグナもほとんど無いの知ってましたから。今日は木の実を取ってる時間は無かったんですよね」

 そこまで言って、私は手に抱えていたバスケットを彼の前に突き出して見せました。

「ですから、これ差し入れです。うちのグムを少しと、それからリュシケの作った料理が色々」

「……お前は作ってないんだな」

「少しだけ手伝いました。……私の料理が食べたかったのですか?」

「はっはっは、この間の惨状があったばかりなのによくそんな事が言えるな、この白うさぎは」

 乾いた笑いと共に、彼の掌が私の頭巾をぽんぽん叩きました。

「白うさぎって、失礼だと思いますよ。アルビナという名前がちゃんとあるのです」

「その名前も大概なんだがな」ナッツが苦い顔です。

「小さい子が真似しますから、ちゃんと名前で呼んでください」

「呼ばせておけばいいだろう。お前より小さい子なら許してやれよ」

「そのまま大人になったらどうするのですか」

「お前より大きくなる頃には、あだ名を呼んではしゃいだりはしないさ」

「それはつまり、ナッツが未だに子供だってことではないですか!」

 怒る私に、ナッツはケラケラと子供のように笑うばかり。

 ナッツは村の人たちの前ではしっかりしているのに、私に対してはこんな感じで、妙に子供っぽい姿を見せてくることがあります。村の他の人たちは遠巻きにそれを見守っています。つまりいい晒しものです。恥ずかしさもあって私はそっぽを向きました。

「……私だって大きくなりたいです」

 記憶を失ってから八年。私自身の記憶自体はもっと浅く、せいぜい五年程度。その間に、私を追い越して成人をすませた人もいます。成長しない私は、追い越されていくばかり。当然悔しい想いも。……ナッツは無神経です。

 私がそうして俯きがちに歩いていると、ナッツが肩に触れて、ばつが悪そうに「悪かった」と、囁くのでした。

 私がそれに頷けば、今朝から引きずっていた喧嘩も収まり、私たちは二人並んでナッツの住む家までの道を歩くのでした。

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