第21話 太古の魔王の受難

学園への入学まで、残り2週間。

そして、とうとう、届いてしまった。


「ヴェルヴェーチカ。これを持ちなさい。」


「とうとう、届きましたか。」


私の手にあるのは招待状。

王家主催の懇親会パーティー。


バルーク伯のお誘いを受け、社交パーティーの回数は2回。

マリアンヌ嬢の誘いを受け、茶会の回数は3回。


社交場の…多少の場数を踏めたとは思う。

ただ、私には…心配な妹たちがいる。


「行きたくないですぅ。」


「やだ、お外怖い。出たくない。」


私は大丈夫、私は。

ただ、リズとメアリーには少々心構えが、足りない。

ただ、ただ、言えることがある。


「リズ、メアリー。私が今から言うお話をよく聞いて欲しいの。良いかしら?」


「は、はい。」


「う、うん。」


上目づかいで見ちゃって…もう。

可愛い!!

好き!!


「お、おほん。あのね、貴女たちの社交場での評価なのだけれど…」


「き、聞きたくないです。」


「あのね、振舞い方…」


「し、知りません。」


取り入って貰えない…。

ぐすん。

ま、負けない。


「よく聞いて。先ずはリズ。貴女からよ。良い?私の目をしっかり見て頂戴?」


「う…はい。」


涙目、可愛い…。

駄目よ、ヴェルヴェーチカ。

私は長子、私は長女。

お姉さまらしくしっかりしないと。


「ふぅ。良い?貴女は何も悪くない。評価はすこぶる高いわ。ただ、もう少し笑顔を絶やさないように心掛けて欲しいの。」


「無理ですぅ…。」


泣かないで。

お願いだから…。


「待って、リズ。泣かないで、ね?」


「だってだって、笑われてるんですよ?私、こんなこんなダメダメなんです。無理です。お外出たくありません。」


「違うわ。笑われてなんていないの。本当よ?」


全力で首を左右に振った後、頭の上に枕を乗せて籠り始めた。

あぁ、リズ。私の可愛いリズ。

あなた、既に6人くらいから婚約話が来ているの。

もっと増えそうなのよ?

自信を持って欲しいの。

あ、でも、婚約話はちょっと言いたくないわね。

どうしましょう。


「メアリー?良いかしら?」


「嫌です。」


「そんなに怒らないで、ね?」


「無理無理のヤーです。」


「ねぇ、メアリーのドレス姿はとても素敵で綺麗なの。私、何度も見惚れちゃってるの。だから、もう一度見てみたいわ。」


「…。」


声を出して。

メアリーは元気さが売りなのよ?

あ、私たち姉妹にはいっぱい売ってね?

他は貴女に任せるわ。


「私、メアリーと一緒にダンスを踊りたいの。ダメかしら?」


「~…。」


もうちょっと頑張って。

ファイト、いっぱつ…だっけ?


「私、メアリーと一緒に歩きたいわ。美味しい料理に、美味しい果実水を持って。そうね、腕を組んで歩いてみたいわ。ね、いいでしょう?」


「う~…。」


もう一声!

もうちょっと!!


「それに、リズが買ってくれたプレゼント。私たち、刺繍がお揃いなのよ。これって素敵だと思わない?私がリズとメアリーを結わえてあげるわ。同じ髪型で行ってみたいと思わない?」


「うっ…。」


詰まってしまった!

逆効果だったかしら?


「あ、あ。違うの違うの。あのね、メアリー…」


布団を持ち上げては、中へと入り込んでしまう。

冬場に良くしているわね。

じゃ無くて…。


「…。」


駄目だわ…。

何も…言葉が出てこない…。

どうすればいいのぉ?

お姉さんなのにぃ…。


「どうしましょう…。二人とも、そんなに嫌?」


「「(イ)ヤッ。」」


あぁ、リズ、メアリー。

あぁ、アーリィ…私に力を貸して頂戴。

寧ろ、帰ってきてアーリィ…。


「どうかね?」


バルーク伯のご登場。

見るも無残な状態を、見てもらう。


「心が完全に折れてしまっているじゃないか…。」


「どうしましょう…。」


「王家主催だからな…。流石に断るには難しい。欠席など…以ての外だ。」


「そうですわよね。でも…。」


二人は顔を隠し、こちらの話に聞く耳を持ってもらえない。

ああ、お姉さん失格だわ…。


「仕方がない。強硬手段だ。ヴェルヴェーチカ、話しを合わせろ。」


ボソッと、バルーク伯。

強硬手段とは、いったいどんな手を!?


「実は先日、ある書状が届いてな。宛名は何と、皇太后陛下からだ。」


ビクッ、と二つの塊が跳ねた。

え!?本当ですか?


「そして、何とも時期の良く、皇太后陛下!並びに!ガルム伯が直接!パーティーに!」


区切り区切りで声が大きくなっていく。

うそ!?バルーク伯?何故教えてくれなかったの!?


「「行きます!!」」


「そうかそうか。それは何より。ヴェルヴェーチカ、後は頼む。」


「かしこまりましたわ…。」


嘘だ。

いえ、嘘は吐いていない。

質が悪すぎますわ!!

なんて御方!!


「ヴェル姉さま!!アーリィ姉さまに会えるよ!!」


「アーリィ!!あぁ、やっと渡せるわ。早く会いたい!!」


ぐずっ…。

複雑ぅ…。

本当だったら嬉しい…。

けど、けど…。


「ヴェル姉さま。ヴェル姉さま。リズ姉さまのリボンで結わえてください。」


「私も、お願いします。皆で同じ髪型で出迎えたい。それでね、私。アーリィの髪を結わえたいです。」


「す、素敵ね。とっても良いわ。ええ…。」


頑張れぇ!!

私頑張れ!!

嘘じゃないけどぉ…真実でも無ぃ。

騙している…後ろめたさでぇ…。

う、お腹が…。


「どうされました?ヴェル姉さま?」


「ヴェル姉さん?お腹痛いの?」


「い、いいえ?ちょっとお手洗いに行ってくるわ。」


「無理なさらないでね、ヴェル姉さん。」


「油断は禁物ですよ?ヴェル姉さま。」


「ええ。ごめんなさいね。ウィンディ、ごめんなさい。付いて来てくれる?」


「…畏まりました。」


「リズ、ニナとメイがいるから…少し、ウィンディをお借りするわね?」


「はい。ウィンディ、ヴェル姉さんをお願いね。」


「はっ。この身に代えても!!」


「?」


「ヴェルヴェーチカ様、失礼いたします。」


ウィンディ…ありがどぅ…。


「お気を付けて!」


リズぅ…ありがどぉ…。


「お気を確かに。総監督様に胃薬をいただきましょう。それと…流石に抗議いたします。ヴェルヴェーチカ様の容態にここまで負荷がかかるなど…。」


「うぐっ…いたたっ。」


「お気を確かに。もう直ぐです。」


ウィンディ…ここまで出来る侍女になるなんて…。

あぁ…私は、貴女に酷い事を言った事もあるのにぃ…。

ありがどぉ…。

もう喋れない、無理。

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