第20話 異世界の転生者は買い物をする

「わぁ…綺麗。」


「そうでしょう?私の行きつけなんですよ。リズ、貴女の欲しいものを選びなさいな。」


「マリアンヌ様?えっと、どうしてでしょうか?」


「決まっていますわ。お礼ですわ。それに、マリーと呼んでくださいまし。いつまでも他人行儀は嫌ですわ。」


「えっと、マリーさん…様?」


「マリーと、お呼びくださいな。リズ。」


ゲームの中でのマリアンヌ・バルークは凄い高飛車で…。

安易に愛称を呼ばせるなど…許さない性格の筈なのに…。

どうしてこうなったの?


「そうねぇ…こんなにも綺麗な銀の髪だもの。価値あるもでないと…本人の魅力に負けてしまいますわ。これなど如何かしら?」


「えっと…いえいえ。その、もう少し値段を抑えていただければ…嬉しい…です。」


「駄目ですわ。」


あれぇ?

いやいや、高いです。

なんなんですか?

ヴァンド辺境領の夏の収入3月分ですよ?

高収入3月分ですよ?


「これなどは如何でしょう。値段もお手頃で、お嬢様に映える色に御座います。」


「…サファイア?」


「石言葉は「誠実、慈愛、徳望」。これは主人を想って?」


「はい。常に他者へ誠実に対応し、慈愛に溢れた優しさを持ち、領民から慕われる様相はまさに徳望。ピッタリに御座います。」


「まぁ、素晴らしいわ。リズ、これにしましょうか?」


「待って、待ってください。値段、お値段が…。」


高いですよ!?

ウィンディ?安くなんて無いよ?


「お嬢様。私はお手頃、と申しました。」


「心を読まないで!?お手頃なんかじゃ…。だってね、見てよぉ。」


「リズ、私が、貴女に、お詫びの品としてお譲りしたいんですのよ。恥をかかせないでくださいまし。」


「え?え?」


詫び?

どういうこと?

意味が分からない?


「お嬢様。バルーク公爵令嬢は高位貴族、値段で選ぶなどと。私たちとはかけ離れた存在なのです。自身を彩る為ならば、糸目は付けないものに御座います。ご理解くださいませ。」


「りかい、できません。」


「良いのよ。リズ、貴女は私に飾られなさい。うんと、綺麗にしてあげますわ。」


「結構です。無理です。私には似合いません。」


いやいや。


「お嬢様…。バルーク公爵令嬢のご厚意なのです。甘えなければ…。」


「駄目。ただでさえ、私たちは甘えすぎているの。バルーク伯にも。バルーク公にも。だから、それは…周りは面白くないでしょう?だから、頂けません。」


「お嬢様。そう言って、何度も何度も遠慮をするのですね。お団子をいただいたときは嬉しそうに食べていたのに…。」


「それは…。食べなきゃ…勿体ないし。せっかく作ってくれたんだから…ね。」


「本当に…貴女はヴェルから聞いた通りね。自己顕示欲の無さ、自身の無さ、保身を盾に遠慮する。しかも、何?この可愛さ。…これはもう、勢いで進むしかないですわね。」


「不肖、私からもお願いいたします。バルーク公爵令嬢様。どうか、どうか、お嬢様を染め上げてくださいませ。」


「ええ、ええ。貴女の気持ち…痛いほど理解できますわ。もっと着飾らなせないといけませんわ。素材が台無しよ。」


誰か…止めて。

私は適当で良いの。

変じゃ無かったら、それで良いの。


「あ。」


宝石から目を逸らしたくて、お店の端に並ぶリボンに目を奪われる。

一本一本の色合いは少ないけど、シンプルで綺麗。


「お嬢様?」


「ね、ねえウィンディ。あっちを見てみたい。あのリボン。」


「…承知いたしました。バルーク公爵令嬢様。私どもはあちらの品を拝見いたします。」


「ええ。興味が出て何よりですわ。私はこちらで似合いそうなのを選別いたします。どうぞ、ご自由に。」


「ありがとうございます。ま、マリー様。」


「マリー、と呼んでくださいまし。」


すっごい綺麗なんだよね、マリアンヌ様。

笑顔なんて、破壊力凄い。

同性でもドキッとする。

ゲームだとなんであんなに吊り目になっちゃったんだろう…勿体ないよね。

こんなにも綺麗なのに…。


「お嬢様。何をお探しでしょうか。」


「これ、かな。ほら、シンプルな刺繡だけど…とても丁寧。金糸をここまで綺麗に出来るなんて…すごい腕よ?それに…アーリィに似合いそう。」


「ふふ。お嬢様、お嬢様は今、とても輝いております。」


「え?」


「ああ、輝きが…。私の馬鹿…。」


何を言ってるの、ウィンディ?

貴女は馬鹿では無いわよ?

寧ろ、良い方よ。


「ウィンディ、このリボンと、この赤地に白糸のリボンはヴェル姉さま。青地に白糸のリボンをメアリーに。えーと、これね。これはウィンディにきっと似合うわ。ねぇ、屈んで?」


「…はい、仰せのままに。」


ウィンディが屈んでも少し背が高くて…うごご。

あ、似合う。

赤茶の髪には白地に黒糸のリボン。

あ、でもでも。

黒地に白糸も似合いそう。

迷う。

う~ん。


「お嬢様、どうかなされましたか?」


「う~ん。どっちも似合いそうなの。紫も捨てがたい。なんでかな、ウィンディだけ、すっごい迷っちゃう…。なんでぇ?」


「ふふふ、嬉しい限りです。私などで迷っていただけるなど…。」


「あ、ウィンディも言っちゃった。私なんかって。これで私に言えないよ?」


「これはこれは。今日は、私の完敗に御座います。お嬢様。」


「ふふ。初めて勝った。」


「ええ。初めて負けました。」


「二人仲良し…良いですわね…。」


少し拗ねた表情で私達を見比べるマリアンヌ様。


「綺麗…。」


「はぇ?」


あ、やばい。


「あ、ご、ごめんなさい。すみません。変なこと言っちゃいました。」


「え、あ?いえ、だ、いじょうぶですわよ?」


なんで!?

いやいや、そこは綺麗じゃ無くて可愛いとか…。

ほかにさ、あざといとか…言えたと思うの。

私なんで、綺麗って言っちゃったの!?

あと、なんなんだろうこの空気…。


「あ、あの、あの店主さん。これ、このリボン。欲しいです。」


「はい、畏まりました。お伺いいたしますね。」


店主さんがスススっとこちらへとやってきた。


屈んでいたウィンディにリボンを手渡し、ふと気付く。

ニナとメイの分…。


「あ、あの待って。まだ。」


「お嬢様、もう少し落ち着きください。ニナとメイの分でしょう?店主様もお急ぎでは御座いませんから、落ち着いて選びましょう。ね?」


「ウィンディ、ごめんね?」


「侍女に謝ることをお止めいただければと、強く願います。」


「ぐふっ。」


「さぁ、ニナとメイの分を選びましょう。」


「うん…。」


ニナには瞳と同じ深緑の布地に白糸のリボン。

メイには赤い髪に映えそうな白の布地と黄糸のリボン。

二人も即決。

唯一ウィンディのみ迷ってしまった。

二本買っても…良かったかな?


「お嬢様。」


「ほえ?」


ウィンディに視線で促されると、ふくれっ面のマリアンヌ様。

綺麗だけど、どうしたら良いの?と視線で返すと、リボンの方を横目で見やった。


「え?」


頷かれた。


えっとぉ…。

マリアンヌ様もリボン欲しいんだ…。

実は庶民的な人?

そんなわけないよね。


「う~ん。」


今のマリアンヌ様は細かく結い上げて貰っている。

元々は髪質はゆるふわな感じ。

でも、水色なんてファンタジーな髪色に何色が似合うかな?

リボンの展示物をサッと見渡してみる。


「あ。これ、良い。」


白の布地で銀糸で編まれたリボン。

これ、絶対似合う。


「マリー様。ちょっと、宜しいですか?」


「はい、なんでしょう?」


心なしかテンションが上がっているような声色。

そんなにリボン好きなんだ。

高位貴族って、大変だね。


選んだリボンを手に取り、近づいてくれたマリアンヌ様の髪に寄せる。

うん、似合う。

これって、少しは成長できたのかな?

ファッションセンス、上がったかな?


「僭越ながら、私はとても良い配色だと思います。」


「そ、そうですわね。ええ、ええ。」


「良かった。マリー様に喜んでいただけて、私も幸いに存じます。」


「もう、そんなに堅苦しく言わないで頂戴。マリーと呼んでくださいまし。何度目ですの?」


「ご、ごめんなさい。すみません。」


「もう、もう。」


どうすればいいの?

ぷりぷりとしたマリアンヌ様。

いただけませんって、宝石なんて…。

え?もう決めている?

…………たっか!!

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