第14話 異世界の転生者は貴族に会う

大きな、大きな城門を越える。

小さな家もあれば、大きな家もある。

露店もあれば、お店もある。

ファンタジーの世界に来たみたい…。

いや、そうなんだけどね。


「途中で寄った町などでも同じ表情をしていたが、少しは興味を持てたかね?」


「え!?あ、その…。」


「王都は非常に大きい。他領の都と比べるには規模に差がありすぎるだろう。」


「そ、そうですね。城壁の囲いの広さから、既にかけ離れています。」


途中に寄った街や村とは、比べるという事すら出来ない程、王都は広すぎる。

いったい何人の人が住んでいるんだろうか…。


「ヴァンド辺境領は現在210名程。王都は40万…いや、今はもっと増えているだろうな。」


「…。」


「?」


「あらあら。メアリーはもう少しお勉強が必要そうね?」


私はもう、言葉にすらできない。

規模が違いすぎるせいで、メアリーが呆けたような表情をしていた。

規模の差は理解できなかったのだろうけど、必死に首を振って勉強を拒否している。


「今は大通りを進んでいる。基本的に城門付近は外部からの露店が多いだろう。当たり外れが大きい。もう少し内部に進んで行くにつれて信用度合いが変わってくる。もし何か買うのであるなら中心に近い店を選ぶと良い。値は張るがな。」


「食料品もでしょうか?」


「そうだ。中心に近いほど仕入れ方も安定している。その分、良質な物を多く仕入れているのだ。」


「宝飾店など、衣装を買う場合はどうしたら良いのかしら?」


「貴族の場合、自身が懇意にしている大店を抱えているものだ。我がバルーク公爵家も幾つか抱えている。幸い、ヴァンド子爵は潤いがあるからな。良い紹介をしてやろう。」


「ありがとうございます。ご厚意に甘えさせていただきますわ。」


「さて、どれほど栄えるか楽しみであるな。子爵殿の手腕に期待しようではないか。」


「ふふ。お楽しみにしてくださいませ。ふふふ。」


すこし…寒気が…。


「ここの通りを曲がったところに良い店がある。暇がある時にでも連れて行こう。」


「何を扱っていらっしゃるのでしょう?」


「魔道具だ。君たちの、ヴァンド辺境領から輸出された魔石と魔樹を加工したものが扱われている。」


「あらあら。」


「魔道具…。」


「ほえ~。」


ヴァンド辺境領で討伐された魔獣の魔石。

その魔獣を守るよう、森となる程に生えている魔樹。

魔石はある種の燃料…魔力の一部として。

魔樹は魔力の通りの良い素材として。

私たちは技術が無いから加工できないけど…。

見てみたい。


「便利なものがあるなら欲しいわね。」


「色々あるだろう。ヴァンド辺境領は魔道具自体少ないからな。実用的な物から珍品まで多様にある。」


「加工手段が分かれば、みんなの暮らしがもっと潤うかしら?」


「一朝一夕では出来ぬぞ?何せ、魔道具の作成には国の免状が必要になる。学園での卒業証明、現魔道具店での研修とその証明、そして国で年に1回受けられる試験を合格せねばならんからな。」


私…頑張ろうかな…。


「あの、魔道具を作るのに魔力って必要なんでしょうか?」


「リズベルタよ、興味があるのかね?」


「あ、あります。」


和やかに微笑むバルーク伯。


「実際の所は私にもわからん。だが、紹介する店で質問すると良いだろう。」


「あ、ありがとうございます。バルーク伯。」


「構わんよ。もし、リズベルタが魔道具師になれるならば、面白いしな。」


「そうね。でも、無茶をしそうなのが心配ね。」


「リズ姉さま、更に引きこもりそう…。」


「そ、そんなこと無いよ。私、引きこもりじゃ無いよ?」


「えぇ…。もう少しお外に出たほうが良いですよ?」


「そうよ。日向ぼっこでも良いからお外に出て欲しいわ。」


「そうだな。執務ばかりはいかんぞ。気分を変えることも大事だ。」


皆から引きこもりだと思われている…。

ショックだ…。


「む。見えて来たぞ。」


塀に囲まれた、とても大きな豪邸。

レンガ造りで…色鮮やか。

一体いくら掛かったんだろう…。


「む。よく見れば亀裂が見えるな。ボンドめ…。」


バルーク伯が何かを気にしている様子だけど、私にはわからない。

何処か壊れているのかな?


ちらちらと窓を覗いていると、馬車が徐々に速度を落としていく。

もうすぐ止まるんだ…。

あ、挨拶とかしなきゃいけないよね…。

ど、どうしよう…緊張してきた。


「良いか。挨拶は私から振る。ヴェルヴェーチカは既に紹介済みだが、手助けしてやりなさい。」


「勿論です。リズ、メアリー。笑顔よ笑顔。第一印象は貴女たちの可愛い笑顔でね。」


にこにこと笑うヴェル姉さん。

え、笑顔…。

メアリーは大丈夫そうだ。すっごい笑顔だもん。


馬車が止まった。

うわぁ…緊張してきた。

どうしようどうしよう…。


私の傍の扉が開き、ウィンディが出迎えてくれる。

小声で「緊張しすぎだよ、笑いな。」って言ってくれるけど…無理。

だって…もしかすると、あの高飛車な性格のマリアンヌ様に会っちゃうかもしれないのに…。

私の苦手なタイプの…。


ウィンディが私も軽々と持ち上げ、車椅子に乗せてもらう。

あぁ、逃げられない…。

いや、逃げられないのは分かってるんだけど…。


「ウィンディ。私が押しても良いかしら?」


「宜しいのでしょうか?ヴェルヴェーチカ様の心象を悪くする恐れがあります。」


「いいえ、大丈夫よ。ウィンディはリズの傍を歩いてあげて。メアリー、私の傍にいてね。」


「…畏まりました。」


「はい。ヴェル姉さま。」


ヴェル姉さんが車椅子を押し始める。

路面はある程度整って入るけど…少しガタつきがある。

車輪にはゴム代わりに魔獣の素材でクッション性を増してあるからか、ぐらつきは特にない。


「アーリィは良い仕事をしてくれたわね。この凸凹でも簡単に押せるわ。」


「そ、そうなんですか?押しにくくありませんか?」


「ええ。私でも押せるんだから。」


「…アーリィにまた、ありがとうって言わなきゃ。」


「きっと喜ぶわよ。そうそう。その笑顔、素敵よ。」


ヴェル姉さんのおかげで、自然と笑えていたらしい。

私って単純なのかな…。


「「お帰りなさいませ。」」


門前にいた衛兵さんらしき人達がバルーク伯へ挨拶をしている。

屈強そうな人たちだ…。


「ご苦労。今しがた戻ったが、見ての通り長旅でな。休める部屋と湯浴みの用意してもらいたい。ボンドに伝えてくれ。」


「畏まりました。ひとまず応接間へご案内いたします。」


「頼む。」


衛兵さんの一人が屋敷へと案内してくれる。

もう一人の衛兵さんは私たちの使用人と一緒に馬車を移動させてくれている。

というか…広すぎる。

私たちの屋敷の何倍広くて大きいんだろう…。

何もかもが新鮮で、目移りしてしまう。

メアリーもみたい。


「あんまりキョロキョロしちゃ駄目よ。」


ヴェル姉さんのご注意が入ります。

そうだよね…マナー違反だよね。

あ、甲冑だ…。

フルプレートアーマーって奴かな。

鬣が凄い、モヒカンみたい…。


「こちらでお待ちください。旦那様も首を長くしてお待ちしておりました。」


衛兵さんから引き継がれたであろう紳士そうな執事が一室の扉を開ける。

ご、豪華…何これ。

光り物が多い、目がチカチカする。


「趣味が悪くなったのか?ボンドよ。」


「帰ってきて一言目がそれとは…。我が父ながら悲しいものだ。」


「思っておらんことは言わんでいい。紹介しよう。バルーク公爵当主、ボンド・バルーク。わが息子だ。」


「ボンド・バルークと申します。麗しいお嬢様方、どうぞお見知りおきを。そして、ようこそ、わが公爵家へ。歓迎いたします。」


なんというか…貴族っぽい人だ。

イケメンで背も大きくて…でもなんか…気障っぽい。


「ご挨拶誠にありがとうございます。お久しぶりと存じますが、改めてご挨拶申し上げます。ヴァンド辺境領を治めるヴェルヴェーチカと申します。」


後ろにいたはずのヴェル姉さんがいつの間にかメアリーを連れて横にいた。

ヴェル姉さんは忍者か何か?


「そして我が妹で次女にあたります、リズベルタ。」


挨拶をしなさいってことだよね。


「お初お目にかかります。リズベルタと申します。」


上位の貴族に対する挨拶のお辞儀をする。

ぶ、無難。無難に出来た…。


「そして、我が養女にあたります、メアリーと申します。」


「お会いする事が叶い、誠に光栄に御座います。紹介にあずかりましたメアリー・ヴァンドと申します。以後、お見知りおき下されば幸いに存じます。」


おぉふ。

メアリー、やれば出来る子。

本番にも強いとは…御見それしちゃったよ。


「このようにまだ不慣れな二人では御座いますが、どうかよろしくお願い申し上げます。」


「ほー。いやはや、ヴェルちゃんも更に綺麗になったねぇ。それに、妹たちが可愛い可愛いと言っていたけど…本当に可愛いねぇ。吃驚しちゃったよ。リズちゃん、メリーちゃんと呼んでいいかい?どう、お茶でも飲んでゆっくりお話しようか?」


え?え?


「馬鹿者!もう少し位取り繕わんか。それに、まだ幼な子に対してその目は何だ。お前には言い利かせる事が山のように出来たぞ!どうしてくれる!」


「え!?いやいや。下心はありませんよ!?紳士として、紳士として接しますから。疚しいことなど決して考えておりませんから。ね、ねぇヴェルちゃん。親父に言ってやってよ。」


ヴェル姉さんは困った様子で何も言わなかった。

バルーク伯の大きな声は室内では良く響く。

必死に弁明しようとするボンド公は何というか…。

私の中で紳士(笑)になりそうです。

貴族って、何だろう…。

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