第11話 異世界の転生者は王都へ向かう
月日が経ち、私たちは王都へと、馬車で向かっている。
ゴロゴロと車輪と路面が奏でる音を耳に残し。
前世のようにコンクリートで舗装もされて路面はガタガタの道。
けれど、私たちはゆったりと馬車の中で過ごしている。
サスペンションという機構を前世で覚えていて、でも詳しくは知らない。
ただ、ばねがこう…あるんだよ?ってヴェル姉さんに話していて…。
元はアーリィも手伝ってくれていたんだけど、忙しくなっちゃって…。
でも、ヴェル姉さんと鍛冶場の親方さんが頑張ってくれて、形になった。
バルーク伯から「これは素晴らしい。」と、感嘆のお声を戴いた。
やっぱり、ヴェル姉さんはすごいな。
「お尻が痛くない。」
「メアリー…。」
「言葉は選んでね?」
「凄いですね、ヴェル姉さま、リズ姉さま。」
「ええ、間に合って良かったわ。どう、リズ?」
「はい、有難う御座います。ヴェル姉さん。」
「何言ってるの、リズのおかげよ。誰も思いつけないわ。ねぇ、ローランド様?」
「ああ。素晴らしい発想だよ、リズベルタ。馬車での移動で一番苦になるのはやはり振動なのだ。だが、これほどに抑えられれば、快適というものだ。」
「い、いえ。私は…。」
「何度でも言っちゃうわよ?リズのおかげよ、有難う。」
「リズ姉さま、ありがとう。すっごい楽だよ。」
「ああ。そしてこれは売れるぞ。」
ガラガラと外から聞こえる車輪の音を余所に、皆が褒めてくれる。
でも、これは私が考えた物ではないから。
「リズ、素直に受け取りなさい。それが貴女の世界の発明であっても、ここでは貴女の発明なの。盗んだわけでもない、色々試行を重ねて出来上がったものなのよ。私やアーリィ、鍛冶のバンガは形を整えただけで、全く思いつかなかった。リズのおかげなのよ。」
隣に座る私にだけ聞こえる声量で、耳元で囁かれる。
複雑な気持ちの中、擽ったさだけ強くなる。
「耳っ…もとは、やめてください。」
「あら?あらあら。新しい発見ね。」
「どうしたんですか?」
「リズはね、耳元で囁かれるのが好きみたいなのよ。」
「そうなんですか?」
「ち、違います。逆。苦手だから…。」
「耳が真っ赤になっちゃって…可愛い。」
「私もやりたい。楽しそう。」
はい。っと笑顔で手を挙げるメアリー。
「メアリー、やめてね。ひぅ。」
ふぅ、と耳元に息を吹きかけられる。
隣を見ると、満面の笑みで嬉しそうに微笑むヴェル姉さん。
弄られてるわけでは無いのは、知っている。
ただ、ヴェル姉さんとアーリィの愛情表現が特殊過ぎるだけで…。
「だめ?」
昔っからそうだった。
触れ合い方が…その、何というか。
イチャイチャするカップルみたいな感じというか…。
幼く可愛らしい容姿だったヴェル姉さんは、今では妖艶という言葉がよく似合う。
何をしようとも、えっちぃ。
今の困った顔だって…同性の私でもドキドキしてしまう。
「だ…だめです。」
「残念。」
本当に残念そうな表情はしても、私の頬にキスは必ずする。
頬擦りは当たり前で、キスも当たり前。
「ヴェル姉さま。場所、変わりませんか?」
「ん~もうちょっと。」
「ヴェル姉さまばかりずるいと思うのですよ。私だってリズ姉さまの隣が良いです。」
「え~。私の隣は?」
「それもありです。」
「でも、三人は座れないわ。そうね…次に作る馬車は横幅を広くしましょうか。」
「賛成です。その方が断然良いです。」
「それはあまりお勧めせんな。他領地の街道は狭い場所も多い。」
「あら、残念。」
「それより、魔石を使った…車だったか。あれを実用化して欲しいがな。」
「あれはまだまだ試作すらできない状況よ。アーリィが戻ってくれば進めるのだけど。」
「むぅ。あれこそ革新的な移動手段になるのだがな…。」
「交易品の輸送にも使えますからね。」
バルーク伯は意外にも新しい物には目がない。
農耕を楽にするための馬耕を完成した時は一番に手を挙げたし…。
(私は馬の扱いには長けているからな。任せなさい。)
皆で、色んな人達で土を被りながら楽しく耕して…。
あの時の風景を思い出してしまう。
「何か思い出したの?」
「え?えぇと。」
「リズ姉さま、なんですか?」
「長い道のりだ。話題の提供をしてくれ。」
「えっと…。」
バルーク伯を見て、少し委縮してしまう。
怒るんじゃないかなって…。
「私に関する事かね?構わん、話してみなさい。」
「その、馬耕の時の事を…。」
「ん?ああ、あれは面白かったな。」
「馬耕?」
「ほら、メヒロンに犂を括り付けて耕したでしょう。」
「ああ、あの時の事ですか。ローランド様が一番にやりたいって譲らなかったですもんね。」
「初めて見た物に興味が尽きなかったのだ。許せ。」
「メアリーはメヒロンに跨って誘導していたわね。」
「メヒロンの力強さに惚れ惚れします。あの犂だって、大の大人が六人がかりで移動させましたし。」
「でも、重い方が良いのよ。」
「アーリィ姉さまとウィンディは一人でしたけど…。」
「忘れなさい。その二人は別格だ。」
「あの光景は、忘れられませんよ…。」
そう、メヒロンが休んでる間にアーリィが一人で引っ張っていたのだ。
次にウィンディも興味を持ってしまって…。
(こりゃ便利だ。いいねぇ、お嬢様。)
二人とも余裕で引っ張るから、力自慢の人たちも引っ張ろうとしたのだ。
そこにはメアリーも混じっていて…。
「アーリィ姉さまとウィンディ以外、誰も引っ張れませんでしたよ?」
「それはそうよ。ほとんどが鉄製なのよ?」
「少しはいけるかと思ったんですけどね。」
結局、何人かで力を合わせれば引っ張れるってなったんだけど…。
農耕地が広いおかげで、誰もやりたいとは思わなかった。
領地で飼っている馬で引っ張る。
だから馬耕なんだよって、説明したのに…。
「その後が大変だったがな…。」
「…。」
エルメリア夫人の雷が落ちました。
皆、土を被り過ぎちゃって…。
怒鳴るんじゃなくて…静かに怒られる怖さを知った。
バルーク伯は特にこってりと絞られていた。
ウィンディはその点、ササっと逃げてササっと何食わぬ顔で戻ってきた。
「ま、まぁあれだ。何事も経験だ。民に任せる以上、我々も知らねばならんからな。」
「そ、そうですよね。何事も経験ですよね。」
メアリーは何だか、バルーク伯に似てきたような気がする。
良い傾向…何だろうか…。
「ところで、ヴェル姉さま。そろそろ…。」
「あら、忘れてなかったのね。残念。次の休憩で代わりましょう。」
「やった。」
嬉しそうにはにかむメアリー。
休憩まで堪能するようにヴェル姉さまの頬擦りが激しくなる。
「リズ姉さま。何か他の話題はありませんか?」
「えぇっと…何がいいのかな?」
「面白い感じで、是非。」
「お、面白い?面白い…。」
長旅で振られるときに一番困る部類の話だ。
面白いって何だろう…。
私はそこまで話題を持っていないんだよ?
バルーク伯まで…期待の眼差しは止めてください。
えぇ?面白い話?
「メアリー。そろそろ抜けてきたのかしら?」
「ほぇ?」
「エルメリア夫人。」
「っ!」
「再教育。」
「ひっ!」
「せめて、足は閉じなさい。」
「はい!」
「宜しい。」
エルメリア夫人の名前が出ただけでメアリーの姿勢がピンとなった。
再教育の部分で目が泳いだ。
どれだけ恐れられているんだろう…。
「…ねぇ、メアリー。魔力は扱えるの?」
「魔力ですか?はい、一応は扱えます。」
「こう…身体を強くすることって出来るの?」
「身体を?強く?」
「どういう意味だね?」
「ええっと…魔力は属性へと変化させるって言うのが教本で基本としてあります。変化させなければどうなるのかなっと思いまして。」
この世界には魔法という超常現象がある。
全ての人が少なからず持っている魔力によって、引き起こせるらしい。
私とヴェル姉さんは、あまり魔力が無いらしい。
それはアーリィから教えてもらった。
魔法に関しては私よりもヴェル姉さんが詳しい。
けど、余り話したがらない。
なにせ、この世界、この時代にはどこまで魔法を扱えるのかを知らないから判断できないというのがヴェル姉さんの見解。
アーリィもそれに同意した。
アーリィの力は、魔法とは別物だから…。
「ふむ…、基本的には考えん発想だな。」
「そうですね~。なんかこう…無くなっていくような感じです。」
「無くならないように、身体に巡らせる感覚は出来る?」
「巡らせる…。は、出来ますね。変な感覚ですけど。」
「ふむ。まぁ、そうだな。」
メアリーもバルーク伯も、何で直ぐに出来るんだろう…。
私なんて…結構頑張っても出来なかったのに…。
「気にしちゃ駄目よ、あの二人も別格よ。後で話しましょう。」
ヴェル姉さんが、そう小声で囁いて慰めてくれる。
でもね、耳元は止めてください。
あと、お腹をまさぐるの止めてもらえませんか?
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