第4話 古の英雄は疲れている

「召喚された者の処遇は王家の預かりとなるだろう。だが、皇太后陛下は学園へと入学させ、この世界の常識と教養を付けさせる算段を取っている。」


「それについては、アマリアから預かった書簡を吾が既に王宮へ届けている。」


「つまりは、その後の話だな。お前たちも一月後には王都へ移動し、学園へ入学する。その入学前には貴族のみで開かれるパーティーがある。そこでお披露目を行うそうだ。」


意味が分からない…。

禁忌とされる異世界からの召喚者のお披露目って…。


「見せしめかしら?それとも、第一王子の王位継承権の破棄が狙い?」


ヴェル姉さまの率直な疑問の声があがる。

それ、言っちゃいけないやつ!?


「近いが…、要は見せしめとけじめだ。馬鹿な王子が馬鹿な行いをしたとな。継承権の破棄は恐らくは無いだろう。今後に期待するとしよう。」


バルーク伯まで!?

不穏な事言わないでほしいなぁ…。


「あの、一つお聞きしても?」


「リズ、何かな?」


「その、王都にはもう情報は流れているのですか?それに、禁忌を知っている方達の反応とかを知りたいのですが…。」


とりあえず、学園では近づかないようにしよう。

そのために出来るだけ情報が欲しい。


「…私見だが、高位貴族には知られている可能性は高い。それに、不穏分子も加担しているだろう。貴族派閥か教会派閥かは知らんがな。」


「第一王子はそれほど浅慮な方ではない…と言う事ですか?」


「逆だ。美味い話に乗せられた…という懸念がある。」


「えぇ…。」


「吾も会ったことが有る。が、はっきり言おう。只の浅ましい愚かな人間だ。人一倍欲が強い小物…と言ったところであろう。」


「うわぁ…。」


これ…ここじゃ無かったら侮辱罪とか反逆罪言われそう…。

捕まっちゃうのかな?


「話しが逸れたな。さて、皇太后陛下の相談事だが…。学園へ入学した後、召喚された者の交友関係を調べていきたいそうだ。誰の差し金で召喚されたのかも分からない状態なのでな。最悪、操り人形にでもされると目も当てられん。」


「ローランド様。第一王子の方が優先度が高いのではありませんか?」


「そちらには王の影が付けられると信じたい。それに、学園はある意味調べ辛い事もある。」


「平等を謳い、競い合い、己を高め、共に立ち上がる友を見つける。学園では王家すらただの一生徒になるから、ですか?」


「如何にも。付き人も限られているからな。」


正直に言うと…近づきたくない。


「バルーク伯。吾はヴェルたちを近づけさせる気は一切ない。汝の伝手を使って欲しい。」


「むぅ。確かに、私もあまり気乗りがせなんだ。だが、腹芸が出来るのはヴェルくらいだからな。」


「あら、私は必要に応じて行いましょう。まぁ、気は乗りませんが。」


ヴェル姉さんとバルーク伯が頷き合う。

必要に応じて…か。

少し不安を覚えた時、袖を軽くひかれる。


「リズ姉さま。あの、何の話をしてるのですか?」


メアリーが皆に聞こえないような小声で私に尋ねてくる。

メアリーさん?話を聞いてなかったの?

どう説明しようか…。


「第一王子様が悪いことしちゃったの。皇太后陛下はすっごく怒ってる。だから、第一王子には近づかないでねって感じかな。」


「あ、分かりました。」


本当に分かったのかな?

メアリーってこんなに考えない子だったっけ?

ゲームだとかなり思慮深くて用心深くて、策士ってイメージがあったけど…。


「吾は言えた身では無いが、反対する。ヴェルもアレらに近付くな。」


「本意では近づきたくも無いわ。ただ、友人が彼らに近い地位だから、話すことはあるでしょう。必要に応じて…ね。」


「孫娘も、そこまで短慮ではない。だが、王家の婚約者候補に選ばれている以上、接触はある。そもそも、情報が無さすぎる。」


「そうだな。吾も登城せずにきたからな。判断材料が無い。」


「皇太后陛下のお手紙はどうしたの?」


「衛兵に渡した。」


「それ、届いてるのかしら?」


「脅したからな。平気であろう。」


「可哀そうに…。」


「何、ただ王に直接渡さねば城を叩き潰すと言ったまでだ。吾の噂話を活用したまで。吾を悪く問うなら、下らぬ噂を流した者を悪く思え。」


「私は嫌よ。アーリィが悪く言われるの。」


「些事だ、気にするな。」


「もぅ。」


「それよりも、だ。バルーク伯、伝手はあるのか?」


「有るには有る。そちらを使おう。王都に向かう際は同行する。エルメリア、しばらく此処を離れるが問題は無いか?」


「構いませんわ。ヴェルヴェーチカ、後ほど引継ぎをして頂戴な。」


「はい。ですがそれ程の事はありませんよ。大体の事は家人で事足ります。バルーク伯とエルメリア夫人には安らかに過ごしていただきたく存じますので。」


「ふふ、貴女たちは本当に成長したわね。嬉しい限りよ。」


エルメリア夫人は微笑み、ヴェル姉さんも微笑む。

ヴェル姉さんが領主の地位を引き継いでから大変だったけど、今はそうでも無いから。

月の終わりの決済書類が大変なくらいだからね、うん。


ヴァンド領領主、ヴェル姉さん。

私はヴェル姉さんの補助。

アーリィは皇太后陛下の護衛。兼ガルム特爵の肩書を持っている。

メアリーはヴァンド領自警団の筆頭。魔物退治はお手の物。

思い返すと…色々と大変だったなぁ。


「ところで、皇太后陛下の相談というものは、学園での動向を探る手段を増やしたかった…と言ったところですか?」


「そうだ。皇太后陛下の手の者を学園に送り込む訳にもいかんのでな。あまり気乗りしていない文章でもあった。事実、私もそうだ。」


「成程。」


「アマリアは現王に全て投げるつもりでもあった。だが、矜持がそれを拒んだようでな。出来得る限りの事はせんと気が済まんそうだ。サミットが終わり次第、早々に王都に戻りたいがそうもいかない。港都ウィルジンで貿易の調整を行わんといかんし、説明もせねばならん。やることが山ほど増えてしまった…。ああ、吾もしばらくは帰れん。学園へもしばらくは通えんだろう。すまない。」


「一緒には、しばらく行けないのね…。」


「そんなぁ…。」


アーリィは疲れた様子で、謝罪する。

ヴェル姉さんとメアリーは見に見えて落ち込んでいる。

かくいう私も…気が沈んでしまう。

皆で楽しみにしていたからこそ、余計に悲しくもなる。


「アーリィ。帰ってきたら覚悟しておいてね。いっぱい連れまわしちゃうから。」


「どこにだ?」


「決まっているわよ。普段からオシャレをしないんだから、ドレスやお洋服。王都にあるお店全て連れまわすから。」


ヴェル姉さんの無茶苦茶な提案に少し引いちゃう。


「わ、私も私も。いっぱい稽古つけてもらうから。」


メアリーが元気に手をあげるも、エルメリア夫人の怖い視線に怯んでいる。

ふと、アーリィと視線が合う。

「私には何か無いのか?」と問いかける様に微笑んでいる。


「わたしは…一緒に、ゆっくりお茶が飲みたい…かな。」


「リズは欲が無いわね~。普段家を空けているんだから、もっと欲張ても良いわよ。一緒に寝ましょう、とか。一日抱っこして、とか。」


「それは…恥ずかしいので…。」


「吾は良いぞ。今夜は寝かしつけようか?今日は一緒に風呂に浸かろう。久しぶりに髪を清めよう。背も流すぞ。」


「い、いいです。こ、子供じゃ…無いんだから…。」


ニヤニヤしてるヴェル姉さんが非常に厄介。

メアリーも「いいなぁ。」って小声で呟いてる。


「さて、話はすんだので私は退席しよう。」


バルーク伯とエルメリア夫人が席を立つ。


「メアリー、後ほど私の部屋に来なさい。逃げる事は許しませんよ。」


にっこり微笑むエルメリア夫人。

メアリーだけが、釘を刺される。

哀れ…。


「折角のお茶会を悪くして済まない。」


「いいえ、ローランド様。もう少し情報を手に次第、また会議をしましょう。」


「ああ。少し情報を集める為に知人を訪ねてくる。しばらく此処を離れるが構わんな?」


「畏まりました。護衛をお付けしますが、お気をつけて。」


「ああ。」


ヴェル姉さんは淑女の礼を以ってバルーク伯と夫人を見送る。


「さて、せっかくだから…。」


ヴェル姉さんは椅子に座るアーリィに抱き着く。

嬉しそうに頬擦りしたり、所かまわずキスをしたり。

ヴェル姉さん。青少年が此処に居れば、目に毒ですよ…。

いや、周りには侍女さんしかいないけども…。

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