第10話 マルリエルの変化。

 執事のマエグボルが義父になにか耳打ちをしている。

 

 父はあわてて話をしているアグラエル姉上にいった。

 

 「アグラエル、話の途中ですまんがもう昼になるらしい、いったん休憩にしようと思うがどうじゃ?」


 「わたくし、お昼をお家でいただこうと帰って参りましたの。そのお言葉待っておりました。」


 姉はフフフと微笑むと父上に軽くウィンクしてみせた。


 「はははは、そうだったか、すまん、すまん。」


 「それに食べながらでも話しはできますわ。」


 気がつくといつの間にか居間には家族が勢揃いしていた。この家族は忍者かと思うくらい気配を消していつのまにかそばにいるのよねぇ~。


 マーリンは「真実の眼」に呪文を唱え消した。


 それまで「真実の眼」を知らないものたちは不思議そうにそれをみて思い思い話をしていた。


 「わたしはリリと同じだからいらないぞ、マエグボル」


 「畏まりました。」


 リュートがそういうと他の家族は一斉にわたしの方をみて


 「なら、わたしもそうするわ。」

 

 「あたしも」


 えっ?なにそれ、わたしにお昼用意させる気なの?と考えていたらアグラエル姉上がわたしの顔をみながら


 「リリ?こんな騒ぎになったのですからそれくらいはいいでしょ?それにお腹ペコペコです」


 「は、はぃ」


 二者択一ではなく一択かぁ~。断る権利もないってことねぇ~~しょうがないわ、たしかに私のせいでこんなことになったんだから。


 執事のマエグボルははじめからわかっていたように部屋の隅に長い大きなテーブルをだして待っていた。


 「自分の分は簡単にすませるつもりなので皆さんはミニ会席でいいですか?」


 みんなの顔をみて確認してから大きな長テーブルの端から料理を配膳する順番に並べていった。


 マエグボルの指示で使用人達はいっせいに配膳をはじめた。いちおうデザートまでだして自分の席にもどるとリュートがわたしを睨んでいる。


 あっ、これお腹すいて機嫌がわるい時の顔だと察知した私は急いでタブレットを空間倉庫からだし、


 「なにがいい?」


 「おなじものでいい」


 それが一番困るのよねぇ~後で文句言わないでねぇ~~


 「わたしと一緒でいいのね?」


 「ああ」


 「んと、じゃあ、大海老天冷やしうどんね。わたしは小盛りで、リュートは普通でいいわね。」


 タブレットに入力するとすぐに完成したので目のまえにそれをだした。


 「はい、どうぞ」


 目のまえにだされた食事をみると少し機嫌がなおったみたい。


 みんなの配膳が終わると義父が胸に手を当てて


 「精霊の恵みに感謝を」


 と、頭を下げると他の人達も同じ動作をして食事を始めた。「いただきます」みたいなものかな。


 この国の人はみんなこうやって食べるまえに祈るの。


 うちの子供たちもそうしてる。 


 以前リュートに「おいしい?」て聞いたら彼は


 「おいしいと聞かれてまずいとはいえないだろう」

 

 っていわれたので、それ以来おいしい?って聞かないことにした。


 味はリュートたちにも受け入れられるように工夫してるけどまぁみんな食事を楽しんでるみたいだからいいかな。

 

 わたしの空間倉庫は料理保存やらレプリケーターのような機能もあるので入力すると倉庫内でそれを調理してくれるの。


 材料無しでもできるし、素材有りの料理もできるのでわたしは主に材料(あり)の方を使用してる、材料はあらかじめ空間倉庫内に入れておく必要はあるけどね。


 みんなのまえにデザートが並べられそれぞれ食べだしたころ


 「それでさっきの続きなんですが、・・・・・」


 姉上はマルリエルがもどってきてからのことをはなしはじめた。


 「一ヶ月を過ぎたころ実家からもどってくるとマルリエルはそれまでとは違ったように思います。


 なんというかフワフワした感じがなくて・・・巫女達は精霊魔力が強いせいか往々にしてそういうところがあるのですが。想像力が豊かというかわたくしの家族ならわかっていただけると思いますが・・・」

 

 家族全員頷いて姉のはなしに聞き入った。


 姉上の話では、それまでのマルリエルはフワフワした感じで妄想の世界と現実の世界の区別が付かない思い込みの激しい変わった人だったらしい。


 戻って来たマルリエルはそれまでの彼女とは違ってフワフワした感じはなく自信に満ち、堂々として、まるで女王のような雰囲気さえ漂わせていたというんだけどそんなことあるのかなぁ。


 まるで別人じゃない。


 今まで妄想を回りに話していた彼女のその話を誰もが信じるようになった。しかも姉上さえも。それがさも現実に起こった真実かのように。


 それって危ないよね!


 「リュートごめんなさいね、あなたの話を信じなくて」


 姉上はリュートに視線を向け、涙ぐんで謝ったの、あのプライドの高い姉上が・・・・

 

 その頃リュートはマルリエルの手紙攻勢で辟易へきえきしてしかも内容は自分の知らない話ばかりで『このあいだ、お母様からはやくお嫁にいらっしゃいといわれた』とかリュートには心当たりがない話しばかりだったらしい。


 なんども姉のアグラエルに訴えたが相手にして貰えず、かなり追い詰められて爆発寸前だったって話してくれた。


 暫くして彼女は他の人と結婚するからと『巫女の杜』から実家にもどりそれ以降姿をみることはなかったらしいんだけど・・・。


 ホッとしたリュートはそれまの鬱積を晴らすように好きな薬草採集や調合に没頭したっていうのが真相みたい。


 「では、その娘は自分の妄想の世界をまわりに話してそれをみんなが信じてしまったということか?」


 義父がため息をつきながら話し出した。


 「はい」

 

 姉上が答えると続いてマーリンが話しだした。


 「妄想の域を超えておるな。なにかがおかしい」

 

 「どういうことじゃ、マーリン」


 「はい、精霊魔力が多く力が強い者ならそれも考えられるのですが、アグラエルやマティルダのように・・・・子供の内はその区別がつかず妄想の世界を真実と思うことはあるのですが、成人したころから区別がつくようになり、暫くするとそれに慣れて現実の世界を認識するものなのです。映像をみるかぎりこの娘にそれほどの魔力も力も感じられません。だからおかしいと。」


 じいさん映像からわかるのか!すごっ!

 

 「たしかに、マルリエルには平均より下回った魔力しか備わっていませんでした。彼女が『巫女の杜』に入ってきたとき基準を満たしていないのでおかしいとは思ったのですが、『精霊宮せいれいきゅう』が決めたことなので口だしすることはできませんでした。」


 「当時の試験官はだれだ?」


 「すぐに調べさせます!」


 アノーリオン兄様が念話で誰かと話してる感じだけど。


 これってもしかして根が深いのかも?





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