第9話 浮気の結末。
「真実の眼」は呪文に答えるようにあの日に焦点をあわせだし水晶の中にあの日の光景が浮かびあがった。
それはリュートが到着した時からはじまり、彼はスーリオンがまだ来てないことを確かめるとまわりを散策するように子供の頃のことを思い出しているようだった。
ときどき子供みたいに悪戯っぽく笑ったり、疎らに木が生えて森と言うよりは広場に近かった。
大きな朽ちかけた木を足で押してそれを動かそうとしていた。
そのとき、後ろから女が忍び足でリュートに近づく映像が映しだされていたリュートは驚き横に飛び退いた。
「そんなに驚かなくてもフフフッ」
女はそう言いながら素早く近づきリュートの首に細い腕をまわしてキスした。
わたしがみたのはこの場面だわ。確信したわたしはリュートの顔を睨み、頬っ辺を抓ってやった!
腹立たしくて我慢ならなかったから。彼は「やめなさい」と自分の顔からわたしの指をはずそうとしたけどわたしは離さなかった。
映像は女と彼との会話の場面になっていた。
「あたしが結婚したので当てつけにあんな異世界人の小娘と結婚したんでしょ?しかも魔力がないと聞いています。あなたをそこまで追い込んだわたしが悪いのです。もう一度やり直しましょう。子供は里子に出せばよいし異世界人の血が入った子供など汚らしいですわ。あなたにはふさわしくありません」
映像の中の女はあの時と同じ台詞をしゃべっている。
わたしは涙が溢れ頭に血が上りリュートに掴みかかり、マーリンは映像を止めてわたしをリュートから引き離そうとしていた。
「や、やめるんじゃ!リリ。落ち着くのじゃ!」
リュークはわたしを羽交い締めにして「映像を最後まで見ろ」と耳元でいった。マーリンは再び映像を流しはじめた。
映像なんて見たくない、顔を背けると彼はむりやりわたしの顔を映像に向けた。そこには彼の首に手をまわした女が映っていた。
何でわたしがこんなの見なきゃいけないのよ、無性に惨めになり死にたかった。涙は止まらず
映像は先に進みそこには女の手を首から
えっ?
「相変わらず思い込みの激しい人だ!あれから大分時間が経っているがまだ
「まぁ、恥ずかしがって・・・いいのよ?間違いは誰にでもあるのだし、わたしね、本当は結婚なんてしてなかったのよ?あなたの心を試したかったの。でも、やり過ぎたみたいだわ。あなたを追い込んでしまったみたいで許してね。まさかあんな女と結婚するなんて思いもしなかったの。もう、我慢することはないのよ?わたしの元に戻ってきていいのよ?」
女はそう言うながら薄らと微笑んでいた。
「君には何をいっても自分の都合の言いように話しを作りかえるのだから無駄だろう。ところでわたしは友人と待ち合わせしたはずなのだがなぜ君がここにいるのかな?」
リュートの問いに女は答えるでもなく、会話が噛み合ってない?!
「昔はもっと優しかったのに、きっと異世界人の女が悪いのね!
リュートの顔がいきなり険しくなって鋭い目線が女を捉えた。
女はリュートの鋭い目をみても怯むでもなく平然と笑いながら話しを続けた。
この女、どこかおかしい?・・・
「わたしたち本当に愛し合ってたのにあの女のせいでめちゃくちゃだわ」
こんどは涙を拭う仕草をして、彼に近づいてきた。リュートは女と一定の距離を取りながら用心しているようだ。
「覚えているでしょう?わたしたち狂おしいまでに愛し合ったことをあなたは、なんどもなんどもわたしを求めてきたわ。」
リュートは冷静に、でも冷たい眼で女を見ている。はじめて見るリュートの表情だわ。少なくとも私は見たこと無い。
「やっぱりカウンセリングを受けることをおすすめする!何度もいうが私は君と付き合ったこともないし、愛し合ったこともない!姉のアグラエルが家に招待しただけだ。ほかの「精霊の巫女」と一緒に!」
これってもしかしてストーカー?
わたしの頭の中はだんだん冷静になってその言葉が浮かんできた。
リュートは全否定してるのに、会話も噛み合ってないし、
リュートの顔をみて私は抓ったとこを撫でて
「痛かった?」
と聞いた。
「少し」
と、彼は答えたが頬っ辺は赤く腫れ、血が滲んでいる。
彼はわたしの顔を覗き込んで
「信じてくれるな?!あの女は異常だ!俺があんなことを言われて怒らないと思うのか?!
リュートははっきりと離婚する意思のないことをわたしに伝えた。
「ううん、ごめんね・・・・わたし・・・が、もっと早くあなたに聞けば良かったのよ。『アギュウレバ』のことは、わたしが邪魔になって討伐をさせたのかと思ったの・・・・だから悔しくて・・・・。」
「おまえは悪くない、悪くないんだ。『アギュウレバ討伐』を喜んでおまえに受けさせたと思うのか?!俺は最後まで反対したのだ!だが、マーリンがおまえしか出来ないと、そして必ず無事に戻すと約束してくれたから、仕方なかったのだ、リリ、本当にすまない!俺の力が足りないばかりに・・・・・。おまえに何かあったら俺は・・・・俺は・・・・」
彼はわたしを抱きしめてキスしてきた。わたしたちはまわりのことを忘れて夢中になっているとマーリンが、
「いいかげんにせんか!!お前らのことでこんな事態になっておるのだぞ!これから解決策を練らねばならんというのに!」
状況を思い出して立ち上がりみんなの方を見まわした。
「ごめんなさい!わたしの勘違いで皆さんにご心配おかけして、離婚は白紙撤回します。許してください。」
私は頭を下げてそう言うとリュートも
「ご迷惑をおかけしました。でもリリを怒らないでください。
一緒に頭を下げてくれた。
「よいよい、お前達が判ったのなら、これからも仲良くやっていくのだぞ!」
「そうですよ、本当によかったですわ・・・・でも会話は大事よ?ふふふ」
義父と義母は満面の笑みでそう言ってくれた。他の兄妹も同じく口々に「よかった」と言ってくれた。最後にマーリンに向き直り、
「ごめんね、これからは相談する、どんなに小さいことでも」
そういうとマーリンは頷きながらウィンクして見せ、リュートの頬っ辺の傷が痛々しく見えたのか治してくれた。
「ところでマーリン、このあとをどうするかだがよい案はあるか?」
義父はマーリンのほうを見て聞いてきた。
「それなのですがわしに少し考えがあります。その相談もあるのであとでお話したいのですが?」
「わかった」
ふたりのやり取りを聞きながらカリナエリエル姉上の方を見るといつの間にかアグラエル姉上がソファに座りすましてお茶を飲んでいた。
「アグラエル姉上!いつからいらしてたんですか?」
「ん~、そうね~リリがリュートに掴みかかったとこかしら?」
えっ!あれ見てたんだ、姉様はフフフと笑みを浮かべた。
「それにしてもマルリエルがねぇ~少し変わった子だとは思っていたけどあそこまでひどいとは、リュートも災難だったわね。あんな子に目をつけられて」
「姉上!他人事のように言わないでください!何度も姉上に申し上げたではないですか?」
「だって、二人が付き合っていると聞かされていたから、あなたから文句を聞かされて痴話喧嘩だとおもったのよ」
「付き合っていたらはっきりと姉上に話しますよ!いったい誰が付き合っているといったのですか?」
「あら、あなた知らなかったの?もう有名な話だったわよ?」
姉上の話では、あっマルリエルってあのストーカー女なんだけど、マルリエルみずから自慢するようにリュートと付き合っているといろんな人に話していたらしい。
うわさがひとり歩きして尾ヒレがついていつの間にかふたりは熱愛していることになったらしい。
彼女が結婚するからと去って行ったとき、リュートは、内心ホッとしてそれまでのストレス発散でひとり薬草の採集とか製作に没頭して気がついたら何ヶ月もたっていたというのだ。
ほんとこの人、薬草の調合がすきなのねぇ~~
「でもね、マルリエルが大袈裟なのはみんな知ってたのよ?最初は誰も信じてなかったの、でもあることがあってから彼女の言葉を誰もが信じるようになったのよ。わたくしをふくめてね、この映像を見ながら考えていたのよあのことと繋がるんではないかと」
姉上の話にマーリンと義父はからだを乗り出して聞き入った。
「そのあることとはなんじゃ?」
「はい、父上、精霊の巫女達を家に招待した日から一ヶ月くらいたったころでしょうか。
マルリエルは昨日も彼と会って楽しかったわ、とかそんな他愛もない話を巫女同士ではなしていたらしいんですが嘘ばかりいうのでひとりの巫女が怒りだして、彼女を詰ったらしいんです。だって昨日、巫女達は寄宿舎に全員お泊まりでしたからリュートと会えるわけがないのですもの。
ほかの巫女達も大概ウンザリしていたので
彼女を詰ったらしいんです。そうしたら彼女宿舎を飛び出して実家に帰ったのです。
しばらくたって彼女がもどってきたんですが、その時はもうわたしたちが知るマルリエルではなかったように思います。」
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