第3話 最終アギュウレバ討伐会議

 翌日、まだ外は薄暗く子供たちは寝ている。子供たちを起こさないようにこっそりベッドを抜け出し台所に向かい朝の準備をはじめた。


 朝ご飯を作ってあげられるのもこれが最後かもしれないと思うと涙がでてきた。


 討伐依頼を受けてからこのときまで子供たちとはできる限り一緒に過ごし、一分一秒が宝石のように大事で愛おしかった。


 でも、時間は残酷で砂が指の間からこぼれ落ちるようになくなっていく。

  

 朝ご飯を作り終えてテーブルに並べて子供たちを起こしにいこうと振り返ったとき壁にもたれかかりわたしをみているリュートに気がついた。


 「あっ、びっくりした、いるなら声かければいいのに。ご飯できたから先に食べていいよ~、あの子たち起こしてくるから。」


 「お前を見ていたかった。」


 その顔はいままで見たことがないほど、優しく、切なそうに?みえた。


 「どうしたのよ、神妙な顔して、・・・・・」


 彼はわたしが言い終わらないうちにわたしの目の前にきて、抱きしめてこういった。


「子供たちはもう少し寝かせておけばよい、少しだけでいい、こうやってお前を抱きしめていたい。」


 ふん、こいつ、私の機嫌とってるな、無事に生還したときのこと考えてるのね、きっと!


 なんで私がここまで彼のことを信用してないかって?


 二ヶ月前、私みたのよねぇ~こいつがむかし付き合ってた彼女とキスしてるとこ~ふん、騙されないからね!絶対許さない!


 この討伐でわたしが死ねばいいと思ってるのよ!


 そうしたらむかしの彼女と依り戻してなおすつもりなんだ!


 周りの人の話では彼女はとても美しくリュートは夢中になっていたそうだ。精霊の加護を持ちその美しさは追随を許さないほどらしい。


 ある日いきなりその彼女がほかの男性と結婚するからと彼の元を去っていったらしいの、元々、寡黙で我慢強い彼だけどそのときは一時期姿を消して何ヶ月も王宮や実家には戻らなかったらしいわ。


 その彼女とキスしてたのよ!ヨリが戻ったとしか思えない。


 わたしが邪魔になって今度の討伐が失敗してわたしが死ねば問題なく彼女と遣り直せると。


 ふん、死んでなんてやるもんか!わたしは絶対討伐を成功させて生還してやる!!子供たちの為にもね、


 でも、彼は用心深いからわたしが生還したときのことも考えているはず姑息なやつだわ。


 「だめよ、子供たちを学校に送り出さないと、いつもの日常を送りたいの討伐を決めたときそう言ったでしょう?」


 彼の抱きしめていた腕に益々ますます力が入り息が止まるかと思った。


 「苦しい、息が出来・・ない」


 そう言いながら彼を突き放した。


 「わかった・・・・」


 そう言うと彼は椅子に座ると並べてある食事を食べはじめた。


 まったく・・・・わたしは子供達を起こしに行きいつものように学校に送りだした。


 わたしたちは彼の実家に挨拶に行った。


 最後?の挨拶になるかもしれないと思い、わたしはいままでやったことのない中世風の挨拶をして別れを言った。


 義父や義母、そのほかの兄弟たちは薄らと涙を浮かべ、「無事に戻ってきて」とわたしを抱きしめてくれた。


 義父がいった、「無事に戻ってきたらリリの料理を食べたい」と、みんなも賛成して「だから無事に戻ってくるのよ」といってくれた、 義父なりに気をつかってくれたのだろう。


 横に立っている彼をみたら苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。


 そりゃぁあたしが生還したら困るもんね!

 

 わたしと彼は実家の庭に設置してあるポータルでタリアスファル王国の王宮に向かった。


 扉をくぐるとそこはもうタリアスファル王国の王宮の中庭だった。


 ほんと便利だわ、一家に一台ほしいよねこれ。


 わたしが来るのを陛下や王国騎士達が扉の前に陣取って待っていた。


 「おおぉぉ、リリ来てくれたか!待っておったぞ!時間が惜しい、エルロイド将軍、さっそく討伐に向かってくれ!」


「はっ!陛下の仰せのままに!」


 胸に手を当て陛下に立礼をした。さすが将軍職長いだけあって受け答えもビシッと決まってるな~


 彼はそういうと副官二名に指示をだして騎士達を討伐に向かわせた。


 陛下にあいさつしてわたしと彼は召喚した天馬「ハルシオン」にまたがりわたしを魔法で自分のまえの方に乗せた。他の騎士達も転移魔法で現地に向かっているのでわたしたちの方が時間的には少し遅いかも。


 「転移魔法で行けばはやいのに、なんでハルシオンでいくのよ~」


 「少しでもおまえと一緒にいたいからだ」


 役者め!どの口でいうかなぁ~もどってきたときのこいつの顔が見物だわ!


 「そうなんだ、まぁハルシオンともこれが最後になるかもだからねわたしが名前付けてあげたし~ハルシオン、討伐終わったらまたのせてね!あなたの好きなものたくさんあげるわ」


 わたしはハルシオンのたてがみを撫でながらそういうと、ハルシオンは嬉しそうにいななきスピードをあげて目的に向かった。


 現地ではいくつかのテントが張られ、大勢の騎士や兵士達が忙しそうに動いていた。なんて大袈裟な、そう思いながら彼のうしろについて行き騎士達のあいだを通って中央のテントに入っていった。


 そこには中央に大きな机が設置してあってその上にはジオラマのようなものがおかれていた、その机のまわりを囲むようにマーリンや指揮官、学者風の人たちが座って何やら話していた。


 わたしと彼はマーリンの横に座るとみんな静かになり彼が立ち上がって話し始めた。


 「皆の者、大義である!これより『アギュウレバ討伐』の最終会議を行う!」






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