第11話 勇者カイン、雑魚に負ける
「ご……おぉ……ッ!?」
壁に身体を激突させ、地面に吐瀉物をぶちまけるカイン。
〔勇者〕である彼は元々防御力も非常に高く、生半可な攻撃では大ダメージを負うことはないはずだった。
だがそれも――エルトから供給される膨大な魔力が、全身を覆ってくれていればの話。
攻・防共にカインが――いや、パーティ全体の弱体化が致命的な域に達している。
この一連の出来事を見ていたニーナとヘルガには、それがよくわかった。
「ヘルガさん、魔術でデスワームに隙を作ってください! トドメは私がなんとかしてみます!」
「了解、でございます!」
本来、〔回復師〕であるニーナは攻撃など専門外。
護身用の攻撃魔術を幾つか覚えているに過ぎない。
だがこの場にいるメンバーで、デスワームに決定打を与えられそうなのはもはやニーナしかいなかった。
ヘルガは魔術を詠唱し、
「氷魔術――【
発動。その瞬間にデスワームの巨体が半分ほど氷漬けにされ、その場から動けなくなる。
続けてニーナが詠唱を終え、
「光魔術――【
ニーナの頭上に大きな光の槍が出現し、勢いよくデスワーム目掛けて飛翔。
光の槍は直撃すると――デスワームの巨体に風穴を空けて、身体を真っ二つに両断した。
その威力は前衛であるはずのカインたちの攻撃よりずっと強力で、エルトがまだいた頃となんら遜色ないものだった。
「ヘルガさんはパウラさんの救助を! 私はカイン様の治療に!」
すぐさま二手に分かれるヘルガとニーナ。
ヘルガはもはや足先が見える程度まで呑み込まれたパウラを、デスワームの口からズルリと引きずり出す。
「おーい、大丈夫でございますか……って、ありゃりゃ、これは駄目ですね。もう完全に精神が汚染されているご様子で」
「ひ……ひひっ……デスワームの口の中……温かくてヌメヌメがいっぱぁい……」
完全に正気を失ってしまったパウラ。
白目をむく彼女の衣服はデスワームの唾液で大部分が溶かされ、さらに恐怖のあまり失禁したせいで湯気が立っていた。
デスワームなどの昆虫系モンスターの場合、特定の攻撃を受けると著しく精神汚染が進み正気を保てなくなる場合がある。
そして生きたままの捕食などされれば、さもありなん……と少しばかり不憫に思うヘルガだった。
「……カイン様、大丈夫ですか?」
「お、おえぇっ……クソがッ……どうして僕が、あんな攻撃で……うぇッ!」
激痛と嘔吐が収まらないカインに、仕方なく回復魔術をかけてあげるニーナ。
彼女から見れば、今のカインは嫌悪を通り越して憐れですらあった。
「今回の『闇の巣穴』攻略、やはり諦めましょう。今すぐ撤退すべきです」
「ふ、ふざけるな……! そんな無様なことができるか! 逃げ帰りなどすれば、それこそ僕は国中の笑い者じゃないか……!」
「ええ、国王によって〔勇者〕の称号も剥奪されるでしょうね。ですが称号と命、どちらが大事なのですか?」
「そんなの、両方に決まっているだろう! い、今のは運が悪かっただけだ! 見てろ……この僕が本気を出せば、こんなダンジョンなんて楽勝なんだよ!」
まだ回復魔術も終わっていないのにカインは立ち上がり、ダンジョンの奥へと進もうとする。
それは彼なりの意地ではあったのかもしれないが、少なくとも既に冷静な判断能力を失っていることは明白だった。
「……」
この時、ニーナは決心する。
それは心優しいニーナにとって、出来る限り避けたいとは思っていたことだった。
もし……もしまた同じ目に遭って、それでも考えを改めなかったら、その時は――
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