第10話 勇者カイン、弱体化する
国王からカインたちに、『闇の巣穴』攻略が命じられて一週間。
攻略の準備を整えた勇者パーティは『闇の巣穴』の内部へと踏み込んでいた。
現在のパーティ構成は〔勇者〕カイン、〔大剣士〕グンツ、〔斥候〕パウラ、〔弓手〕ロンベルト、〔回復師〕ニーナ、〔魔術師〕ヘルガの六名。
颯爽と歩を進めるカインに対し、グンツやパウラたちは未だ不安の色を隠せないでいた。
「こ、ここがあの『闇の巣穴』か……」
「なんていうか、やっぱり普通のダンジョンと雰囲気が違うわね……」
「フン……なにも恐れることなどない。どうせこれまでと一緒さ。簡単に攻略できる」
ニーナの前ということもあり、余裕の表情を崩さないカイン。
もっとも、ニーナはそんなカインの顔などもう一ミリも見ていないのだが。
「……念のため、慎重に進みましょう。どんなモンスターが出てくるのもわかりませんので」
「心配しすぎだよニーナ。大丈夫、僕に任せたまえ」
「……」
カインを始め、ニーナとヘルガを除いたパーティ全員は明らかに自分の魔力が低下していることに気付いていない様子だった。
だがそれは無理もなく、個人の魔力量というのは日常的に魔力の感知を行っている〔魔術師〕、あるいは高位の〔回復師〕でないと推し量れない物。
中には例外として〔魔術師〕でなくとも魔力を見られる者もいるが、残念ながらカインたちはその例外ではない。
特にカインなどは己の剣技に絶対の自信を持っていたため、魔力など〝あってもいいが、別になくても気にしない〟程度にしか思っていなかったのだ。
そんな自分が弱体化してる事実に気付こうともしないカインたちだったが――パーティの先頭を歩く〔斥候〕のパウラが足を止める。
「待って……モンスターの気配が強くなった。そろそろ遭遇し始めるはずよ」
「そうか。で、モンスターはどの方向にいる?」
「……わからない」
「……は? 今、なんと言った?」
「わからないのよ! 今日は【探知】のスキルが上手く機能しなくて……! いつもならモンスターがどこにいるのか、ずっと遠くまで把握できるのに――!」
焦りを隠せず、カインたちがいる後方へ振り向いてしまうパウラ。
だが――その時、天井から巨大な物体が落ちてくる。
それも、彼女のすぐ傍に。
「え……?」
振り向いたパウラが目にした物、それは全長3メートルはあるであろう馬鹿でかいデスワームだった。
これまで天井に張り付き、襲撃の機会を伺っていたのである。
そんな――こんな近くにいて、気付かなかったなんて――!
『キュイ――ッ!』
パウラに狙いを定めたデスワームは勢いよく襲い掛かり――彼女の上半身をバクッと丸呑みにした。
「い――いやあああああああああああッ!」
ジタバタと足を動かして必死に抵抗するパウラ。
だがデスワームの巨体はそんなことお構いなしに、彼女をズルズルと呑み込んでいく。
その姿は、心なしか美味しそうだ。
「パ、パウラ! この雑魚、パウラを離しやがれ!」
「応戦! 応戦!」
すぐに攻撃を始めるグンツやロンベルト。
本来であればグンツの言う通り、彼らにとってデスワームなど雑魚である。
だからグンツの大剣は容易にデスワームの身体を切断し、ロンベルトの弓は風穴をあける――はずだった。
だが、通らない。
グンツの剣も、ロンベルトの弓矢も。
あまりにも無慈悲に弾き返されてしまうのだ。
「ど、どうなってんだ!? 攻撃が通らねえ!」
「困惑! 困惑!」
「ええい、なにをしているこの役立たず共!? もういい、僕がやる!」
業を煮やしたカインが剣を抜き、デスワームに斬りかかっていく。
「剣技――【
カインの放った一撃はデスワームの胴体に直撃。
その剣技は、これまで
「フン……こんな雑魚に苦戦するなど、貴様らここの攻略が終わったら覚悟して――」
プライドの高いカインにとって、こんな雑魚相手に技を使うのは不服極まる。
だから
『……キュイ?』
「…………は? お前、なんで――!」
カインの一撃を受けたデスワームは、まるでダメージを負っていなかった。
それどころか彼の剣はデスワームの外皮に弾かれ、肉に傷をつけることさえ叶わない。
かつて
『キュイ!』
直後、デスワームはブオンッ!と尻尾を振るう。
その攻撃はカインの腹部に直撃し、彼を大きく弾き飛ばした。
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