第6話 できちゃった……


「俺自身の……?」


 シャーリーの一言に、俺は目が点になる。


「ええ、【魔力増幅者マナバッファー】の効果は〝味方の魔力を増幅する〟で合ってるわよね。その味方ってあなた自身は含まれないのかなって、以前から思ってたのよ。流石に猫の姿のままじゃ言いたくても言えなくて」


「それは、どうなんだろう……。この五つの指輪にカインたちの名前を彫ってからは、彼らにしかスキルを使ってなかったから……」


 言われてみれば考えたことがなかった。

 俺はこれまで、【魔力増幅者マナバッファー】を〝仲間の能力を補助するスキル〟として見てこなかったからな。


「でも確かに、それができたら大助かりだな。俺は元々魔力の量が少ないのが欠点だったし」


「せっかく勇者パーティから抜けたんだし、試してみたら? その指輪に掘られた名前、書き換えは……」


「ああ、可能だ。これは魔術で刻印してあるだけだから」


 ……そうだよな、どうせカインは俺を陥れて捨てたんだ。

 金輪際、もう【魔力増幅者マナバッファー】をカインたちに使うことはない。

 アイツらに魔力回路を接続しているだけ馬鹿馬鹿しいよ。

 ああ、でもニーナだけは別か……。


 俺は魔術を使い、五つの指輪に掘られた名前を書き換えていく。

 元々は〔カイン〕〔グンツ〕〔パウラ〕〔ロンベルト〕〔ニーナ〕と彫ってあったが――それを〔エルト〕〔エルト〕〔エルト〕〔エルト〕〔ニーナ〕へと変えてみた。


「さて、できたらラッキーなんだけど……」


 駄目で元々、どうなるかな――そう思っていた、正にその瞬間だった。


「う――お――っ!?」


 突如俺の全身から――金色の魔力が大量に溢れ出た。

 それはまるで噴火する火山のようであり、爆発的で止めどない。


 身体の底から、途方もない力が湧き上がるのをハッキリと感じる――。

 これは――こんなことが――。


「……できちゃった、自分の魔力増幅」


「あ、あ、あなた、その魔力量……! 信じられない、明らかにアタシの十倍……いえ、二十倍以上は軽くあるわよ!?」


「そ、そんなに……?」


「ちょっと、試しになにか魔術を使ってみて! なにかこう、シンプルな攻撃魔術とか……!」


 シンプルな、か……。

 う~ん、じゃあ例えば――


「なら試しに……炎魔術【火炎球ファイヤーボール】!」


 魔術師なら誰でも使える基本的な炎魔術。

 通常ならば手の平サイズより少し大きめの炎の球が発生し、それが目標に向けて飛んでいくだけなのだが――そんな俺のイメージは、瞬時に塗り替えられる。


 俺が詠唱して発射した火炎球ファイヤーボールは直径三メートル以上もあり、猛烈な爆炎で地面をえぐりながら真っ直ぐに驀進。

 草原に凹の一本道を描きながらどこまでも飛んでいき――ずっと遠くにある山へ直撃した瞬間に大爆発を起こして、巨大なキノコ雲を形成した。

 ドーン!という爆発音が遅れて耳に届いた俺は、


「――――」


 開いた口が塞がらない。

 とても信じられなかった。

 これまでの自分じゃ、絶対にこんな魔術は使えなかったはずなのだから。


「す……凄い……凄すぎるわ……! やっぱりエルトの【魔力増幅者マナバッファー】は、ただ味方を補助するためのものなんかじゃなかったのよ……!」


「俺の……【魔力増幅者マナバッファー】が……?」


「あなたには色んな可能性があると思っていたけど、まさかここまでだなんて……。アタシが抜けてからカインたちの戦績が上がったのも頷けるわ。増幅が分散していたにせよ、おそらく全員の魔力を相当に引き上げていたはず」


「そ、そんなに凄い効果を発揮してたんだな……。俺はてっきり、カインたちが元々強いっていうのもあるのかと……」


「確かに彼らは弱くなかったけど、それにしてもカインの剣が炎竜フレイム・ドラゴンの鱗を斬るなんておかしいと思ってたのよ。……おそらく今頃は、メンバー全員が激しく弱体化しているでしょうね。やっぱりカインがあなたを捨てたのは、大いなる過ちだわ」

 

 深く納得した様子のシャーリー。

 彼女は改めて俺を見つめると、


「……エルト、あなたの人生は今変わった。あなたはもう魔術が弱いなんて馬鹿にされることはない。エルト・ヘヴンバーンは、もう何にでもなれるはずよ」


「な、何にでもって……いきなり言われても、困るな……」


「…………ねえエルト、これは私からの相談なんだけど……あなた、自分が――」


 シャーリーがなにかを言いかけた時、


「――だ、誰かぁ! 誰か助けてぇッ!」


 助けを呼ぶ女性の声が、草原に木霊した。

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