第4話 勇者、暴露される
「お前は……シャーリー・プロイセ!」
俺を助けてくれた魔女を見たカインが、驚愕した表情で名前を呼ぶ。
「久しぶりね、カイン。アタシをパーティから追い出した後もこんな悪行を続けてるなんて……本当に救えないクズだわ」
見下げ果てた表情で魔女は言う。
彼女は満月を連想させる金色の髪を持ち、肌は透き通るように白く、凛とした表情が意志の強さを感じさせる。
その端正な顔は紛れもない美女で、どこにいても人目を引くであろうことは明白だ。
……ん? 待てよ、シャーリーって知ってる名前だぞ。
確か俺がカインの勇者パーティに入る前の〝前任者〔魔術師〕〟で、彼女が抜けたから穴埋めとして俺が抜擢された経緯があるんだよな。
シャーリーさんが勇者パーティの一員になれるほどの腕利きであるのは当然として、カインと違って人格者として有名な女性だったと聞いている。
例えば積極的に市民と交流を深めたりとか、子供に優しくしたりとか、困っている人がいたら喜んで無償で助けるとか、魔族相手でも無益な殺生は行わないとか……そんな聖人エピソードが大量に残っている人物。
とにかく民衆との距離感が近い人だったようで、その人気っぷりはカインを上回るほどだったらしい。
とてつもなく民衆からの支持が厚かったのだが――ある日を境に、忽然と人々の前から姿を消してしまったんだそうな。
「あれは……シャーリー様だ……!」
「シャーリー様がお戻りになられた!」
「ああ、そんな、またあなた様のお姿を拝見できるなんて……!」
感動で泣き崩れ始める民衆たち。
やはり今でも彼女は途方もなく慕われているらしい。
まさかあのミラの正体が、
シャーリーさんは再び俺を見ると、
「もう一度言うわ。エルト・ヘヴンバーンは冤罪。なにもかもカインが仕組んで、彼に罪を着せただけよ」
「デ、デタラメを言うな! なぜ僕がそんなことをせねば……!」
「そこにいるニーナちゃん。彼女をエルトから奪い取るためでしょ? 彼を罪人に仕立て上げて、ニーナちゃんの心を彼から離すために」
「え……?」
その言葉を聞いて、カインに疑いの目を向けるニーナ。
カインは流石にギクッとした様子を見せる。
「アンタ、昔から女の子が大好きだったものね。アタシにも〝自分の女になれ。断るならパーティにいられなくしてやる〟って脅してきたくらいだし。バカバカしくてこっちから出て行ってあげたけど」
「な、な、なにを馬鹿な……! そんなの事実無根――」
滝のように冷や汗を流すカイン。
それと同時に、彼はハッキリと気付く。
「「「――――」」」
この場に集まっている数千数万の民衆たち――彼らの視線が、強い疑惑を抱いて自分に集中していることを。
「う……!? い……いい加減、下らない妄言を吐くのはやめろ! そもそも、エルトが罪を犯した証拠はしっかりと揃ってるんだぞ! それ以上言い掛かりとつけると、貴様も死罪に――!」
「へえ? アンタの一存で死罪にできるんだ。そういえば、今回の処刑も裁判が行われてなかったわね。なんで証拠が揃ってるなら裁判をしないの?」
「――ッ!」
口が滑った、とばかりに自らの口を手で塞ぐカイン。
そしてシャーリーさんがバッと右手を掲げると、俺を動けなくしていた拘束具がバチン!と外れる。
と同時に身体がフワリと宙に浮き、俺は彼女の杖に吊り下げられた。
「う……わ……!?」
「ごめんね、ちょっと我慢してて。……それとねカイン、昔のよしみで一つだけ教えておいてあげるけど――ニーナちゃんのことを抜きにしても、
シャーリーさんはそう言うと、再び民衆たちへと振り向く。
「エルト・ヘヴンバーンはこれまで誠心誠意パーティに尽くし、アタシはそれをこの目で見てきた! 無実の彼が裁かれるなど、決して認めないわ! 民衆よ、アタシの言葉を信じるならば――勇者の悪事を白日の下に晒しなさい!」
シャーリーは高らかに叫ぶと、移動魔術【
俺たち二人は、王都から見事な高跳びを決めたのだった。
◈ ◈ ◈
「……あ……あのクソ女……よくもこの僕を……ここまでコケに……ッ!」
処刑場に残されたカイルは、怒りで拳を震わせていた。
――こんなはずではなかった!
さっさとあの邪魔者を処刑して、今夜にでもニーナをベッドで押し倒すつもりだったのに――!
そもそもどうして今更シャーリーが――
とっくの昔に国を出たと思っていたのに――!
カインの頭の中は怒りと憎しみと悔しさで完全に沸騰し、それはモロに表情にまで出てしまっていた。
そんな彼を――ニーナは氷のように凍てついた眼差しで見つめる。
「………………カイン様」
「ニ、ニーナ……? 違う、あれはアイツらが仕組んだ罠で――!」
「勇者カイン。少々……詳しくお話を窺っても、よろしいでしょうか?」
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