第3話 俺は無実だ!


「それでは――これより、凶悪犯エルト・ヘヴンバーンの処刑を執行する!」


 王都の中央広場、そこにある処刑台ギロチンの横で執行官が宣言する。

 瞬間、ウワッと沸く群衆。

 集まった民衆は数千にも数万にも上り、さらにまだまだ町の端から集まってきているらしい。凄い数だ。

 この光景だけでも、〝元勇者パーティメンバーの処刑〟というのが如何に注目されているのかが伺える。


 そして――そんな人々の視線を一身に集める、拘束具に繋がれた|俺(エルト)。


「ち……畜生……どうしてこんなことに……!」


「では勇者カイン殿、民衆へ執行のお言葉を」


 執行官は壇上にカインを招き、彼は嘲笑するように俺を一瞥すると、


「エルト、この犯罪者め! 貴様をパーティから追放し、その身柄を斬首とする!」


 そう叫んだ。

 またもや上がる人々の歓声。

 ここにいる全員が、俺の死を待ち望んでいるなんて――


「クソッ……クソォ! 俺は無実だ! 罪なんて犯してない! 頼む、信じてくれ! ニーナ、お前なら信じてくれるだろ!?」


「エ、エルト……! 待ってください、やっぱり彼の話だけでも――!」


「ニーナ、騙されるな」


 すぐにカインがニーナの前に立ち塞がる。


「カイン……!」


「アイツは悪魔だ。耳を傾けるな」


「で、でも……!」


 カインはニーナを押し留めると――僅かに俺の方を向く。

 そんな彼の口は――確かに笑っていた。

 愉快極まりない、と言っているように。

 その瞬間、俺は察する。


「まさか……カイン、お前――っ!」


 ニーナを自分の物にするためだけに、俺に罪を着せたのか――!

 俺は理解した。

 だが、もう俺に為す術はない。


「正義の名の下に――悪人よ、天に召されよっ!」


 執行官が合図する。

 その刹那――――巨大なギロチンが、俺の首目掛けて落とされた。


「――――ッ!」


 悔しい――無念だ――。

 そんな想いを抱えて、俺はギュッと目を瞑る。


 ――

 ――――

 ――――――


 しかし、である。

 落ちてこない。ギロチンが、いつまで経っても。


「……あ、あれ?」


 なんだ……?と思い、俺は恐る恐る目を開いて上を見る。

 すると――俺が目にした光景は、ギロチンの刃が何らかの魔術・・・・・・によって止められ、動かなくなっている光景だった。



「……信じてほしいって? ええ、信じるわ。エルト・ヘヴンバーン、あなたは無罪よ」



 同時に聞こえてくる、女性の声。

 その方向を見ると――そこには、一匹の黒猫がいた。


「ミ……ミラ……?」


 つい昨日も会いに来てくれた、あのミラである。

 だがミラの姿は瞬く間に変貌し――大きな杖に座って宙に浮く、一人の魔女へと姿を変えた。



「この場に集いし民衆たちよ、聞きなさい! エルト・ヘヴンバーンは一切の罪を犯していない! 全ては、勇者カインがでっちあげた濡れ衣だわ!」


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