自己陶酔の末路
「いやー、いい話だったなァ。最後を除いて」
「そうね、最後を除けば」
映画のエンドロールを見ながら、二人はポップコーンに手を伸ばす、傍らにはオレンジジュースを並べて。薄暗い部屋にテレビの光が照っていた。それを反射して、闇の中で二人の赤目が光っている。
「最後……なんでああなっちまったんだろうな」
「大切な人を失い、他者に絶望し、仲間を捨てて一人消える……最悪のエンディングだ」
「最悪とまでは言わねぇけどよ……どうして人間っていつもこうなんだ?」
絵も良い、BGMも良い、ストーリーも良い、そんなアニメ映画の最後。主人公は大切な人を失い、仲間を捨てて一人消えてしまうのだった。
仲間たちは「いつか戻ってくる」と信じているが、主人公目線の独白ではまた皆が集まるのは絶望的だろうと語られている。
アザミがスマートフォンで見ているとおり、評価は大きく二分されている。賛否両論といったところか。
大して美味しくもないポップコーンを口に突っ込み、憮然とした顔で八乙女が話し始めた。
「最低よね、この男。自分の絶望を抱えて一人旅なんて。仲間のことどう思ってるのかしら」
「まぁ、好きな人のことが忘れられないんだろうな。こういう属性が好きな人も多々いるぞ」
「『これからも残された仲間と一緒に生きていく』ならハッピーエンドなのに、それを壊してまで主人公は悲しみに酔ってるんだ……最低に醜い、私は嫌い」
人間嫌いな批評家だこと、とアザミは呟く。八乙女はオレンジジュースで味のしないポップコーンを流し込む。それからまた、吐き捨てるように言った。
「世の中の『可哀想なのが可愛い』風潮についていけない。自己陶酔を極めた先にあるのは周りの不幸よ」
「そういう愚かしいところが可愛いんだよ。それが肯定する批評家の意見だ、否定は良くない」
「アザミだって嫌がってたじゃない」
「まぁ、ボクは嫌いだよ」
アザミもポップコーンを鷲掴みして口に放る。しばらく噛んでからオレンジジュースでそれを流し込んだ。どうやら味が薄いらしい。
「『魔法』をかけるとしたら? アンタも同じことにならないようにしろよ、と言っておく。他人を頼るの下手そうだからな」
「人間なんて頼る価値無いわ」
「そういう発想の奴が、他の人間を不幸にするんだよ。要らねぇプライドでがちがちになって動けなくなって最終的に独りで死ぬんだ」
「……醜いわ」
「だろォ?」
八乙女は手に持ったポップコーンをまじまじと見つめた。それからアザミのほうをちらっと見て、紙袋を押し付けた。
「私はご馳走様。あとはよろしく」
「……人を頼るってそういう意味じゃなくてな? ボクももう無理だから冷蔵庫にでも入れといてくれ」
「分かった」
八乙女がポップコーン片手に冷蔵庫に向かうのを見て、アザミは小さく笑った。
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