魔女が魔女たる所以
「そういやさ、魔女サン。魔女サンはなんで『魔法』が使えるとか豪語してるの?」
「あぁ? 実際に使えるからだよ」
「じゃあ何かしてみてよ。言葉のあやとかじゃなくてさ」
八乙女がそう言って肩を竦める。アザミは、チッ、と舌打ちをすると、重たい腰を上げた。
確かに八乙女の言うとおりで、魔女アザミの示してきた「魔法」は全て言葉による「認識の変化」だ。捉え方の変化とも言えよう。
アザミは魔女帽のつばに手をかけると、小さく溜め息を吐く。八乙女が死んだ期待の目を向けていた――大して期待はしていなかった。
「八乙女みさき。今ボクは『宙に浮かんでいる』」
「……は?」
「浮いているのはほんの少しだが、今の自分は『地面を踏んでいない』」
「いや、普通に立ってるだけじゃ――」
「違う。ボクは『空を飛んでいる』。アンタもそう認識しろ」
仄暗い部屋の中、アザミは一歩前へと出る。その黒いヒールは、地面を踏まなかったように見えた。
アザミは、いいから、と苛立った様子で言った。
「復唱。『魔女アザミは空を飛んでいる』」
「……『魔女アザミは空を飛んでいる』」
「よろしい。これでボクは空を飛んでいることになる」
「は? どういうこと?」
一人置いていかれる八乙女に目をやると、アザミは着席して足を組んだ。
「いいか。これでボク自身とその『全て』の目撃者が『魔女アザミは空を飛んでいる』と認識したことになる。だとしたら、その空間ではボクは空を飛んでいたことになるんだ」
「全然分かんないんだけど」
「ボクの好きな小説に、こんな話が出てくる。二足す二は三にも五にもなるという話だ」
そう言ってアザミは頬杖をつき、にっ、と歯を見せて邪悪に笑った。
「全人類が二足す二を三と信じれば、二足す二は三になるんだよ。自殺した人を警察が他殺だと言い、遺族もそれを信じれば、存在しない『犯人』が生まれるんだ」
「つまり、結局言葉のあやじゃない」
「そうだ。ボクが操るのは言葉という魔法。言葉さえあれば誰だって騙せるし、誰にだって夢を見させることができるわけだ!」
「はぁ……聞いた私が馬鹿だったわ」
八乙女は肩を落とし、ソファに身を預けて昼寝に戻る。誇らしげな顔をしていたアザミだったが、八乙女の様を見て、少々不機嫌そうに口を尖らせた。
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