過去から掬え

 くしゃみをする音に、舞う埃。物置の物がゴミ袋に詰め込まれていく。あぐらをかいて難しい顔をしている八乙女に、アザミが背後から話しかけた。

「なんだ? 片付けか?」

「そうよ」

「……あ、これは……卒業アルバム?」

「あ」

 アザミはゴミ袋を漁り、一つの重たい四角を取り出した。それは本の形になっていて、開けばたくさんの人間の顔写真が並んでいた。八乙女は額に手を当てると、戻しなさい、と言った。

「捨てちまうのか?」

「捨てるよ。要らないから」

「勿体無ぇなァ。大事な思い出だろ、これも」

「過去は全部黒歴史よ。全部燃やし尽くさないと」

「おうおう、ずいぶんと過激だな」

 八乙女はそう言って爪を噛む。アザミはおとなしく袋にアルバムを戻すと、ベッドに座って足を組んだ。

「アンタはその過去があってはじめて存在するんだぜ。それを忘れちゃいけねェ」

「過去なんて恥ずかしいことしか無いのよ。思い出したくもないわ」

「ボクだって過去は恥ずかしいことばかりさ。でも分析する必要がある。ほら、就職活動とかでも自己分析って必要だろォ?」

「そんなこと言われたって、過去なんて見たってネガティブなことしか思い出さないわ」

 アザミは、ふむふむ、と言って満足気に頷いた。彼女にとって想定内の返答だったということだ。八乙女はじとっとアザミを見ながら片膝を立てた。

「何か言いたげね」

「まぁ、なんだ、そのネガティブなエピソードの中から自分の輝くところを見つけ出すのが人間力ってもんじゃねぇのォ? 物事を一面的に見るな、頭使え」

「……それはそうね」

「過去を見て今の教訓にするのは結構だが、自らの経験値を一面的にしか見ないのは怠慢だぜ」

 八乙女は何も言わずにじっとアザミを見つめる。アザミが誇らしげな顔をしているのは、言いくるめた自覚があるからだろう。

 一度目を逸らすと、八乙女はボソッとこう呟いた。

「……アザミってムカつくタイプの人生の先輩って言われたこと無い?」

「あぁ?」

「まぁでも、怠慢って言う理由は分かったよ。それはそれとして過去のアルバムは捨てる」

「今の話の流れで?」

「……まだ黒髪だった頃の写真だから嫌なんだよ」

 アザミが目を丸くする。それから歯を見せて笑い、アルバムをもう一度取り出そうとする。八乙女はその手をぺしっと叩き、また可燃物を詰め始めた。

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