インターネットやめろ
「アンタさ、ずっと思ってたんだけどさァ……」
「なに?」
「インターネットやめたら?」
八乙女の動きが止まる。片手にはスマートフォンを握っていて、ちょうどSNSのタイムラインを見ていたところだった。
アザミは大きく溜め息を吐き、顎でスマートフォンを指した。八乙女はおずおずとスマートフォンをポケットの中へとしまうと、目を細めて昼間の猫のような顔をした。
「なんで?」
「アンタが見てる醜い人間像ってたいていSNSで見てるもんなんだよ。他の人が見てることも気にしないで……いや、気にしつつも全裸で駆け回ってるような輩ばかりだぞ」
「表現の仕方が気持ち悪い」
八乙女は口を横に引いてますます目を細めた。アザミはその隣に座ると、両手で杖を持ち、遠くを見ながら話を続ける。
「人間は進化したが、同時にリテラシーは退化したんだとボクは思ってるぜ。自分の思想を恥ずかしく思うことも無く、同じような考えの奴らに放出して、そういう奴らによしよし頭を撫でてもらうのさ」
「本当に気持ち悪いんだけど……」
「インターネットやめたら?」
「……人間にはインターネットが必要なんだよ」
グルル、と威嚇する犬のような八乙女をよそに、アザミは自分のスマートフォンを眺め始めた。
八乙女は小さく舌打ちをして、だったらさ、と反撃に出た。
「あんたはなんでインターネットやってんの? 魔女にインターネットなんて必要無くない?」
「ボクは小説などの自己表現として人間どもと同じSNSをやってるのさ。読者のいない物語ほど寂しいものは無いからね」
「それは自己顕示欲の露出にすぎないのでは?」
「チッ、上手いこと言うねェ。そうだよ、自己顕示欲にすぎねェ。これもまた醜い欲望だ」
はぁ、と大きく息を吐き出し、アザミもまたスマートフォンの画面を消す。八乙女は頬杖をつき、嫌悪感を表出したまま言葉を繋げた。
「結局SNSやってるのなんか自己顕示欲の現れなんだよ。だから私も魔女サマもやめられないんだ。他の露出狂と一緒」
「珍しく認めるんだな」
「認める。あんたの例えを使うならこうなる、ってこと」
「まァ、情報の見すぎには注意ってな。また詳しく話すが、他人の人生ばっか見てると自己顕示欲は膨れ上がるばかりだからな」
「今はその話聞きたくない。とりあえずうちの犬の動画でも見ようと思う」
「お、おう……」
八乙女はそう言ってテレビ画面にボーダーコリーの動画を映し出した。わふ、と嬉しそうに寄ってくる様を眺め、八乙女は強ばっていた口角を緩める。
「……アンタ、犬なんて好きなんだ」
「人間の露出狂を見るよりは犬の露出を見るほうが気分が良いね」
「それがインターネットに疲れた奴らが動物動画に集まる理由なんだな……」
最初こそ呆れていたアザミも、次第にテレビが気になりだしたのか、喋ることをやめて犬の姿を眺め始めた。
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