人間嫌いな批評家
人間が醜い、と八乙女は頭を抱えた。ティーカップ片手にアザミが寄ってくる。隣に座ると、カップに一口口をつけて、熱っ、と言ってソーサーにカップを戻した。
「んで? なんでそんな当たり前のことに今更気づいてんだ?」
「違う、そういうことじゃなくて……改めて実感してたところ」
「なぜに?」
八乙女は髪を弄りながら、赤く鋭い目を細めた。
「『人間が醜い』って言うとさ、『それは醜さしか見ないからだ、逆張りだ』って言われるんだよ」
「まァ……物事には良い面と悪い面があるのは当たり前だ。一理あるんじゃねぇのォ?」
「一理は……あるかもしれないけど……」
眉を寄せてあからさまに嫌そうな顔をした八乙女に、アザミは、これでこの話は終わりだな、と言って誇らしそうな顔をした。
八乙女はカップの中の紅茶を見ながら、まだじゃん、と口を挟む。
「『紅茶を飲みきったら話は終わり』でしょう?」
「……一理あるな」
紅茶を飲みきったら話は終わり。これは魔女アザミと話す者が交わす一つの約束だ。カウンセリングには枠を設けるのが大切というアザミの考えらしい。
アザミは髪を耳に掛けて小さく息を吐いた。
「なんだ、『人間は醜い』って言ってる奴らも『人間は美しい』って言ってる奴らもイカれてらァと思うがな」
「なんで?」
「其奴ら皆、自分は人間の美醜を判断できると勘違いしてやがる。人間という芸術作品の一批評家にすぎないのにな」
「そう言われると人間なんて大したこと無いように見えるね」
「そうだとも」
ふー、ふー、とカップに息を吹きかけ、アザミが紅茶を静かに飲む。そして口を離して、話を続ける。
「だが、逆に言えば、アンタの考えも一批評家として正しいと言えよう。他の批評家のことなんか気にしてんじゃねェ、自分の秤を信じなァ」
「それもそうね。これからも人間がいかに醜いか見ていくことにするわ」
「それはそれで苦しいと思うぜ……?」
八乙女は、ハッ、と嗤うと、足を組み直して顎を少し上げた。
「苦しかないさ。ただ私の目に映ってる世界をそのまま描写してるだけだからね」
「ネガティブにしか捉えられない批評家は生きづらいと思うぜ」
「仕方無いじゃない、そうにしか見えないんだから」
「いずれその色眼鏡も魔法で正してやらんといけないな」
「その必要は無いわ」
やれやれと首を振ってアザミは最後の一口を飲み干した。話は終わりだ、と言って立ち上がる。八乙女はそれを追うことも無く、ただ座って電気の点かないテレビを眺めていた。
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