欲望をたんと召し上がれ

「外見ですら発育が気持ち悪いのに、中身までグロいんだ、人間って」

 そう言って八乙女は大袈裟にジェスチャーしてみせる。頭の後ろに手を回し、大きな溜め息を吐いた。

 暗い部屋、二人はソファに座ってテレビの白く四角い光を見ている。そこでは男女の恋愛ドラマが流れていた。

 背の高くがっしりとした体型の男が、細くか弱い女の方を抱き寄せている。顔を近づけ、唇を合わせようとして──八乙女がテレビを切った。

「ほら、一皮剥けば皆欲望の塊だ。性欲なんか抱いてる奴ァ気持ち悪くて吐きそうになる」

「だが、欲望は人間の大切な原動力だぜ。醜くなるか美しくなるかは、その人による」

 アザミがテレビを点け直す。次に画面に表示されたのは、アスリートのインタビューだ。まさにスポーツマンシップという態度で答える男性に、スタジオからも絶賛の声が上がる。

「此奴とて『もっと上手くなりたい』という欲望で動いてるんだぜ? 美しいとは思わないか?」

「……私、ドキュメンタリー物嫌いなんだよね」

「おっと、そいつァ失礼」

 八乙女がテレビを消す。アザミはムッとした顔でリモコンを取り返し、またテレビを点けた。今度放送されたのは音楽番組だった。

「じゃあ音楽番組はどうだ? 人間の『歌を届けたい』という欲望が見られる」

「……まぁ、それなら良いか」

 そして二人は暗い部屋で、人間の芸術の詰まった発表会に思いを馳せたのだった。

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