言葉という魔法
「ねぇ、人間ってどうして言葉使うのが下手なんだと思う?」
「言葉は唯一人間が使える道具だろ」
「そのくせ上手く使えないってのは人間として失格なのでは?」
苦々しく言葉を吐き出す八乙女に、アザミもならって苦笑した。
さて、二人がいるのは小さな公園だ。子供たちが二人を指して笑っていたのも最初のうちだけで、すぐに遊びに戻っていった。
しかし、子供たちが楽しそうにしていたのも束の間、だんだんと騒がしくなり始めた。八乙女は舌打ちをして片目を細める。
「喧嘩が始まった。煩いのなんの」
「ありゃ言葉の扱い方を練習してんだな。必要なプロセスだべな?」
「……子供なら百歩譲るけど、大人だってこの有様よ」
叩き合い始めたのも八乙女にとっては嫌なようで、目を棒にして溜め息を吐く。少しの沈黙のあと、アザミは黒い髪を弄りながら、まぁ、と話を続けた。
「大人だって言葉を扱うのは下手だよ。ちょっとの気遣いができなくてすぐ人をイラつかせる」
「イラついたほうが悪いんだよね、そういうときって」
「そんなこたァねェと思うんだがなァ。ボクは双方に問題があると思う。それに……」
アザミは一度話を切り、顎で子供たちを指した。誰かが仲裁に入ったらしく、子供たちは涙目で唇を噛んで謝り合っている。
「大人ですら使いこなせねェくらいに、言葉って難しいんじゃねぇのォ? だから『謝罪』が生まれるんだ」
「……なるほど?」
「そしてそんな言葉を巧みに使って相手を動かすのが『魔法』なんだよ。今みたいにな。謝罪ってのも立派な『魔法』だな」
アザミがそう得意げに言えば、なるほど、と八乙女は一人頷いた。
子供たちはまた遊び始め、今度はおもちゃを譲り合っている。八乙女は目を細めたまま、その子供を眺めていた。
「……この子たちは偉いね」
「あぁ。下手な大人なんかよりずっも偉いさ」
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