人間と魔女

神崎閼果利

迷宮の始まり

「どうして人間ってこうもグロテスクなんだろうね」

 八乙女はそう言うと、ギリ、と奥歯を噛んだ。アザミは、誰目線だテメェ、と言って鼻で笑う。

「だって考えてもみなよ。男と女の性行為で生まれるんだ、人間って。それが男同士になろうと女同士になろうと変わらなくてさ。要は真似事をするだけなんだからさ。そんな気持ち悪いものがこの世に何十億と存在するんだ」

 八乙女の頭の中にあるのは、保健の授業で見た様々な生き物の誕生だ。産声を上げ生まれる怪物を皆涙を流して見るのだから、教室で独り取り残されたような気になっていたのだ。

 アザミはしばし考え込んだのち、その隣の席の机に座って笑って話しかけた。

「じゃ、この魔女アザミと一緒に、そんなグロい生き物が作る美しく醜い心の迷宮を見ていこうぜ」

「は?」

「そしたら多少は人間の良さが分かってくるさ。大丈夫、ボクだって人間は嫌いさ」

 八乙女はしばし黙り込んだが、アザミが紅茶を差し出すと、素直にそれに口をつけた。口の中にふわりとアールグレイの香りが広がって、体の力が抜けていく。

「紅茶は人間の作った英智さ。どうだ、美味かろう?」

「紅茶は人間が作ったわけじゃない」

 不機嫌そうな八乙女を見て、アザミは、クク、と喉を鳴らした。

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