ハッピーバースデー 押し付け
仲仁へび(旧:離久)
第1話
――「ハッピーバースデー」って言葉すごい押し付けって感じがするんですよね。
うちの高校の後輩がそんな事を言ってきた。
文芸部の部室で、地味な執筆作業をこなしている最中だ。
ふとした瞬間に、その後輩が誕生日について話してきたのだ。
私は「いきなりなんだ?」と言葉を返す。
「いえ、ただの雑談なんですけど、ハッピーバースデーって言葉がしゃくにさわるな、と」
「ただの雑談で誕生日を祝う言葉に負の感情をぶつける人間が、そうそういるだろうか」
「こまかい事は気にしないでください」
後輩は、ちっとも進んでいない原稿を見て、ため息。
うちの部活にはノルマがある。月に一度、顧問の教師がお題を出すので、それに一つ作品を執筆しなければならない。
そけれど、いつもすらすら完成させるはずの後輩が珍しく詰まっていた。
「君は、誕生日に何か恨みでもあるのか?」
「別にないですよ、そんなの」
嘘だな。
と、直感的に思った。
クールを気取っているこの後輩は、自分が思っているよりも感情が表に出やすいタイプだった。
今もイライラしているのを示すように、机の表面に指をとんとんしている。
「恨みがあるというわけじゃなく……」
「要するに、なんでハッピーとバースデーが当たり前の様にセットで扱われているのが、疑問でたまらないと、君はそう言いたいのか?」
「まあ、そんなところです」
新たな命が生まれてくる瞬間は喜ばしいもの。
多くの人がそう思うだろう。
しかし、世界はそんなに単純ではない。そう思わない人間だっているのだろう。
望まれない命が、生まれた瞬間にどんな扱いを受けるか。
それは彼女の背中にあるあざに関係しているかもしれないし、そうでないかもしれない。
プールにさそった時、着替える際に一瞬だけ見たそれを脳裏から払う。
「ならば君は私の誕生日は祝ってくれないつもりか?」
「そんな事はないです。先輩の誕生日なら祝うに決まってるじゃないですか、いつもお世話になっているのだから」
「アンハッピーなバースデーなんて、わざわざ覚える必要のない言葉だ。私は君の誕生日を祝いたいし、祝わせてほしい」
だから、と私は用意していた新刊をさしだす。
後輩が欲しがっていたものだ。
今日がその日だから。
「ハッピーバースデー。これはバースデープレゼントだ。ぜひ私の時も同じように祝ってくれ」
「そういう言い方卑怯ですよ、先輩」
ほんの少し頬をふくらませた後輩から視線を離す。
自分の誕生日を祝う気になってくれるなら、自分を祝えと言うくらい恥ずかしい事でもなんでもない。
ハッピーバースデー 押し付け 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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