第2話 薬草パンティ

 俺は草を砕いて、魔力定着ポーションを混ぜた物を、作って試験管に入れておいた。

 そのうちの一つが、わずかに変化しているのに気づいた。

 薬草としては使えないが、微弱な効果がある。

 ええと、草は死んでても大丈夫なのか。

 枯れた草はどうなのかな。

 丁寧に調べるが、変化した物はない。


 変化した物は、ポーション鞄に入れて、常に俺が身に着けていた。

 人間の魔力が影響を与えたのかも知れない。


 それから試行錯誤したが、同じようにやっても一向に変化はなかった。

 思いついた事がある。


 人間は魔力を呼吸している。

 吸ったり吐いたりしているのだ。

 吸うのは主に口と鼻から、出すのは他の穴からだ。

 穴は下半身に集中している。


 草を森の入口で採取した時にもよおして、立ちションしてしまったのだ。

 その時に影響を受けたかも知れない。

 それから何度も試してみたが、駄目だった。

 推測が間違っているのか?

 たぶん、立ちションした時の感情の揺らぎが、魔力放出に微妙な影響を与えたに違いない。

 一日中、下半身に身に着けていれば確率は高まるだろう。


 となれば、下半身に身に着ける物、パンティだ。

 草でパンティを作ろう。


 俺は蛾のモンスターの幼虫を捕まえてきて、薬草になる草、素草もとくさとでも呼ぼうか、それを食わせた。

 繭を煮て、後は縫製ギルドに依頼を出した。

 素草もとくさ製の魔力定着ポーションで染めたパンティが出来上がった。

 名づけて薬草パンティ。


 もちろん女物だ。

 理由は女性の感情の変化が男性と違うからだ。

 女性の方が上手くいきそうな感じがある。

 天才、ポーション職人の勘だ。


 それに、気分的な物だ。

 口噛み酒だって、若い女性の方が美味い気がする。

 分かるだろう。


 水色の髪をなびかせて、優しそうな女の子が、俺の自宅の小さな工房に入ってきた。

 幼馴染のリリーだ。


「リリー、何も言わずこのパンティを穿いてくれ」


 俺はおずおずとパンティを出した。


「悪霊退散きぇー」


 リリーは俺を殴ってきた。


「痛いよ」

「ポーション馬鹿だと思っていたけど。とうとう、頭がおかしくなったのね」


「おかしくなってない。ところで何の用?」

「パンパス、工房を首になったんだって。良かったら、実家の宿屋を手伝わない」


「ごめん、借金があるんだ。迷惑は掛けられない」

「いくらよ」

「金貨1000枚」

「よく貸してくれたわね」

「自宅と俺自身を担保に入れた」


「馬鹿、何で相談してくれなかったのよ。借金返せなかったら、奴隷になるのよ」

「だって恰好悪いだろ」


「それで返せるあてはあるの? 力になるわよ」

「これさえ成功すれば」


 俺はパンティを突き出した。


「ちょっと、さっきから何なの」

「穿いてほしい」


 俺はずずいとリリーの顔に顔を寄せた。

 キスする寸前の距離だ。


「えー、ちょっと。まだ恋人ってわけでもないし、でも良いかな。ううん、少しずつ許すと、最後は全て許してしまうのよ」

「力になるって言ったよね」

「でもこれは駄目。恥ずかし過ぎる」


 くそう、彼女に断られたら、他の人に頼む自信がない。

 ええい、ままよ。


「【抽出】」


 俺は魔法を使った。

 成分を抽出するのは、いつも行っている作業だ。

 それをリリーのパンティに掛けた。

 俺の手に暖かいパンティが握られた。


「きゃっ、返して」

「こっちを穿いてもらう。【添加】」


 俺は薬草パンティをリリーに穿かせた。


「サイズが合ってない。返さないと叩くわよ」


 リリーがビンタの体勢をとる。


「よし、【調合】」


 リリーと薬草パンティを調合する。


「えっ、何っ! ぴったりフィットした。なんでこんなに気持ち良いの! ああっ。見ないで」


 リリーが悶えて、安産型のお尻をくねらせる。

 調合はやりすぎだったか。

 しばらくして、荒い息を吐きながら、リリーは俺の肩に手を置いた。


「これ、しゅごい。もうこれなしじゃ、生きていけない」

「明日また来てくれ」

「うん」


 薬草パンティに麻薬成分は入ってなかったはずだ。

 一日経過をみよう。

 大丈夫なはずだ。


 一日が経って、リリーが上気した顔でやってくる。


「パンティを脱いで」

「嫌よ」

「仕方ないな。【抽出】【添加】【調合】」


 一日穿いたパンティをはぎ取って、新しいのを穿かせてやった。


「ああーっ」


 リリーが悶える。

 リリーは放っておいて、作業を始めよう。


「【鑑定】。やった、薬草になっている。水属性だ」


 俺は薬草パンティに鑑定魔法を掛けた。

 薬草パンティは水属性の薬草になっていた。


「そっ、それをどうするの? 匂いを嗅いだりしたら絶好よ。はぁはぁ」


 蕩けきった顔で言うリリー。


「こうするのさ」


 俺はパンティを大鍋で煮始めた。

 材料がないので野菜も入れる。

 煮詰めた所で絞って、鑑定した。


 水属性の上級回復ポーションが出来た。

 人間の魔力は濃いからか、それとも何か別の理由か。

 とにかく上級が出来た。

 野菜とかじゃなくてもっと良い材料なら、もっと凄い物ができるような気がする。


「はぁはぁ。それは何?」

「ポーションさ」

「の、飲むの?」


「うん、そうなる」

「馬鹿、もうやらないわよ」

「そんな事言えるのかな【抽出】【添加】」


 俺は薬草パンティをはぎ取って、昨日はぎ取って洗っておいたパンティを穿かせた。


「えっ、やだ。そのパンティでなきゃ嫌」

「そうか、困ったな。そうなると別の人に頼まないと」

「意地悪しないで」

「これからも薬草パンティを穿いてくれるかい?」

「悔しいけど、仕方ないわね」


 さて、ポーションをどこで売ろう。

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