第10話 番外編 私の旅の師
高校生のとき寺社仏閣に目覚めた私を、より一層京都奈良好きに惹き込んだのは
一冊の旅行ガイドブックだった。それが前述の『歩く地図』だ。春と秋に発行され『歩く地図 京都』だったり『歩く地図 京都奈良』だったりした。
写真を見たり記事を読んだりするだけでも楽しめて、行くわけでもないのに買ったこともある。編集者や制作スタッフの熱意こもる雑誌で、旅人のかゆいところにまさに手が届く情報をすべて載せてくれるのだ。
何と言っても地図がすごい。民家以外のすべての建物や目印を手書きされているのに驚愕する。また一日単位で大方歩いて回れるモデルコースが網羅されていて、毎回どのコースもスタッフが実際に歩いて記事を書いている。交通路線図は停留所や駅を漏らさず記載し綴じ込みにして、取り外せるようになっている。読者の要望にこたえたと時刻表が記載されている号もあった。そうでない号も、100を超えるバス系統別に一日何本か、始発と終発は何時かがびっしりと。また、ある号は複数の寺院の境内見取り図がこれまた手書きで細かく描かれていたりする。もはや熱意というより気迫がこもっているようで、感動のあまり笑える。だから、30年以上経った今でも手放せない。旅に持ち歩いてあまりにボロボロになり仕方なく処分してしまったものもあるが、すでに廃刊になってしまい手に入らない。最近リサイクルの通販サイトで購入できたのが嬉しい。「大切に持っていてくださってありがとうございます」とまるで出版社のようなコメントを出品者の方へ送る。
手持ちの『歩く地図 京都』より編集雑記を一部紹介したい。(文中省略あり)
・今回はバスのりば48か所のチェック担当となり、1日乗車券をフル活用して一日最高18回乗車。バス関係は完璧!と言いたいのだが「まだ時刻表が…なんて怖い声が聞こえそう」
・今日も明日も地図チェック。店は変わってないかしら、地図が違ってないように、と毎日歩くは4万歩。
・取材中に京都で会った修学旅行中の中学生の一団が、手に手に本誌を抱えていたので、つい嬉しくなって声をかけてみた。地図上には自分たちの歩くコースが書き込まれ、表紙はセロテープで補強されているのを見て‘恐怖の地図チェック’作業にめげそうになっていた気分はたちまち吹っ飛んでしまった。
毎日4万歩を歩いてくださったおかげで方向オンチの私も道に迷わず、‘恐怖の地図チェック’のおかげでお店などもつぶさにわかり、詳しい記事のおかげで隠れ寺や見どころを逃さない旅のスキルを積みました。
取材記者(社員)募集欄には「ファイトあふれるガッツマンを待っています」だって。
時代は変わってこんな採用文句は過去の遺物のようだけど、ファイトあふれるガッツなガイドブック『歩く地図』シリーズは今もなお私の旅の師であり続けています!
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