第11話 八箇所目 来迎院(泉涌寺塔頭)   1999.11.22

 七箇所目で書いた今熊野観音寺に続き、私とかんちゃんは来迎院を訪れた。行くかどうか少し迷ったけれど、紅葉に誘われて自然に足が向いていた。趣がありひっそりと静かなたたずまいで、私たち以外の観光客は女性3人のグループ一組だけだった。『忠臣蔵』で知られる大石内蔵助が建てたという侘びた茶室の含翠軒がんすいけんがあり、中でお抹茶がいただける。お抹茶券を買って席入りする。三畳台目の形式で襖には百人一首の書かれた料紙が貼りつけてある。こんなところに気安く入れてもらえるなんて、と感激に浸っていると、上品な女性の方がお菓子と抹茶を運んでくれた。お茶室は庭が見えるよう開け放しになっていて、先ほどの女性グループを案内しているタクシー運転手さんの声が聞こえてきた。

「お客さんたち、感動が少ないなー。感動をあんまり言葉にせんのかなー」

なんて言われている。紅葉がたけなわで、とっておきの場所があるとでも案内されたのか。その運転手さん、庭から私たちが座っているのを覗いて

「一句詠まな、あきまへんで」

と言う。そこで私はこっそりかんちゃんに、


 紅葉の 風情の中に 横山やすし


と詠んだ。

 改めてお茶を味わう。お菓子は大石家の家紋の右二ツ巴のお干菓子だ。お寺でお抹茶をいただくと、そこでだけしかいただけないお菓子が味わえるのもうれしい。大石内蔵助もここでお茶を楽しみ、また時には赤穂浪士たちと討ち入りの密談をしたのかと想像するとますます味わい深くなる。大石内蔵助とこのお寺とのつながりは当時の住職、卓巌和尚が内蔵助の親族だったことから赤穂の殿様の事件後、身を寄せ檀家となって、ここに茶室と庭を設けたという。軒下にかけられた茶室の名「含翠」の扁額も内蔵助の筆によるものだそう。命名の意味を考えながらもう一度庭の苔のみどりや紅葉に目を移して来迎院を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る