第8話 番外編 ひょんなことからふたり旅    1999.11

 就職してからは海外にも目が向いて京都から足が遠のいていた。でも、相変わらず歴史や古典文学には興味があった。特に『枕草子』への思いは強くなる一方で、清少納言があえて書かなかったことも含めて、中宮定子と清少納言の絆を描く小説が書きたいと思っていた。来年(2000年)は中宮定子の1000年忌になるのかと思うと余計に。そのうえ清少納言が宮仕えを退いた年が当時の私の年齢だというタイミング。世の中はミレニアムに沸く中、私は一人、一条天皇中宮(皇后)定子の1000年忌に静かに燃えていた。‘そうだ!京都、行こう’とCMのようにつぶやき、ひとり旅の計画を立てた。


 当時私は広告会社に勤めていて、6歳下のフリーのデザイナーの女性と打合せが終わった時のこと。何の話からか私が、今度一人で京都行くよと言うと、「わたし、京都行ったことないので一緒に行ってもいいですか?」と言う。「え?!…で、でも私が行くところは結構マニアックなところばかりだから、初めての京都旅行なら面白くないかもよ」と伝えると、「そんなところの方が面白そうです!」と食いついてくるではないか。もう行程もできあがっていて、3日目のテーマは〈中宮定子と『枕草子』に出会う旅〉なのに。

「あのね、かんちゃん。私、中宮定子って人のお墓参りもしようと思ってるんだけど」

「はい、ついて行きます」

 断る理由がなくなった。誰かもわからない人のお墓参りにも付き合うというのだから。かくして、私はかんちゃんを案内しながら旅をすることになったのだった。


 どうせなら、かんちゃんの気分が盛り上がるようにと作成した旅のしおりやその時の旅日記もあるおかげで、今もリアルに思い出せる。

 かんちゃんはとても楽しかったと言い、翌年も私の風変りな京都の旅についてきた。翌年こそが2000年。1000年忌のお墓参りに再び中宮定子の陵を訪れたことは言うまでもない。

 きっとかんちゃんも、中宮定子のお墓参りをする運命だったのだろう。七箇所目から九箇所目はその時の旅日記をもとにお参りしたい。

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